25 私の昼寝を妨げる者よ……
翌日、昼食を食べ終えた私は、家の中庭に来ていた。
ぽかぽかとあたたかい。
私は、ある計画を実行しようとしていた。
お昼寝である。
思えば昨日は、大変だった。
村へ行ってのお手伝い。
町へ行ってのお手伝い。
王都へ行く途中からのお手伝い。
全然眠っていない。
夜しか眠れなかった。
そんなことがあっていいのだろうか。
しかし。
しかし、私は手に入れたものもある。
新たな武器、剣だ。
剣というのは馬車であり、実質ベッドである。
「こう、かな」
空中に浮かべた剣のベッドの形を調整する。
いったん横になる。
もうすこし、ここをなだらかに。
もうすこし平らに。
そして横になったとき。
これだ。
「ふふふ」
思わず笑ってしまう。
これはお昼寝だ。
私はお昼寝になったのだ。
そう感じさせる寝心地だった。
ずっとこのままでいられたら、どんなにすてきな人生だろう。
やっぱり、あたたかい中庭が一番だ。
世の中に、あたたかい中庭を増やすことが、一番大切なことかもしれない。
さて、目を閉じるわ。
ああ楽しみ!
「……様ー! ナナ様ー! ナナ様? ナナ様ー!?」
遠くからメイの声がする。
メイが、ちゃんと私をさがしている声だ。
これはよくない。
お母さまからの呼び出しではないだろうか。
私は、するするとベッドを高くしていった。
「ナナ様ー! ナナ様ー! ナナ様ー!」
目を細く開いて、下をのぞいてみると、中庭をメイがきょろきょろしながら私の名前を呼んでいる。
これは?
お母さまの呼び出しだったら、ここまで必死ではないような気もする。
……お母さまの呼び出しではない?
なにか、緊急の……。
たとえば、誰かの急病とか?
だとしたら、無視していられないわ。
「ナナ様、どこにいるの……」
立ち止まったメイが、困った顔をしていた。
しかたない。
私はするするとベッドをおろしていった。
「どうかしたの?」
「ナナ様! そんなところに」
「お母さまが呼んでいるわけではなさそうね」
「いえ、奥様が」
「なん、ですって……」
「さあ、行きましょう」
「私はここにいなかった、いいわね?」
私はするするとベッドを上げた。
「よくないです! 王都からのお客様がいらしているので、ナナ様をお呼びしないと!」
「王都……?」
広間に行くと、待っていたのは鎧を来た人たちだった。
体が大きい人たちが五人もいる。
目つきが鋭くて、あまりひなたぼっこをしないように見える人たちだ。
そして、お母さまもいた。
「ナナ、どこに行ってたの」
困った顔をしているけれど、あまり表情を出さないようにしているようにも見える。特別なお客さまがいらっしゃるときに、こういう顔をすることがあった。
「どうしたの、お母さま」
これは、どういうお話かしら。
私がこの場に必要だとは思えないのだけれど。
私がそぐう場所というのは、きちんとした人たちの中には、なかなかない。
帰ろうかしら。
「今日は、ナナさんへのお礼にあがりました」
鎧を着ているうちの、ひとりが言った。
その人が一歩前に出ている。鎧の人たちの代表だろうか、中では一番年上に見える。
お父さまよりは若い。三十歳くらいだろうか。
「あら?」
鎧の、胸のところに馬の紋章があった。
ナナヒカリさんの馬車でも見た形だ。
「ナイソックと申します。王都警備隊、隊長をしております」
「あら。そんな方がわざわざ? まあ」
「昨日、盗賊を捕らえていただいたのに、そのままお帰りになってしまったそうで。我々がやるべき仕事を。代表して、感謝申し上げます」
ナイソックさんと、他の四人の人が深く頭を下げたので、私はすっかりおどろいてしまった。
「そんな。ちょっと、ついでに連れていっただけで、たまたまで」
「ついでに……」
ナイソックさんは変な顔をした。
「ああ、でも、ごていねいに。どうも、わざわざありがとうございました」
私が頭を下げて帰ろうとすると、いえ、とナイソックさん。
「もっと詳しいお話をおききしたいのですが」
「はい?」
「どういった方法で、あの盗賊を捕まえたのでしょうか。ごぞんじかもしれませんが、やつは非常に凶悪な盗賊の中心人物です。困ったことに、特殊な魔法具なども盗んでまわり、多くの人間の安全をおびやかしています。しかし、そうした人間を、かんたんに、ついでに、というのは、正直おどろきでして……」
ナイソックさんは、私をじっと見た。
熱烈な視線だ。
まさか、私と結婚したいのだろうか。
結婚というのは、いろいろと難しいわよ?
「失礼ながら、奥様にもおききしたのですが、ナナさんは特別な訓練をしているというわけではないそうで……」
「ええ、そうですわ。一般的なお勉強も、やったりやらなかったりするくらいですもの」
「ナナ」
お母さまが、小声で鋭く言った。
「もちろん、きちんとやっていますわ。冗談ですわ」
「では、どうやって? あの盗賊は、ナナヒカリ様を誘拐しようとし、あなたと奥様を誘拐する計画に切り替えたものの、ナナさんに計画を阻まれた、と話しています」
「そうだわ! ナナヒカリさまは、なんとおっしゃっているの!」
「いえ、もう、特殊な訓練に入られましたので、王都にはいらっしゃいません。我々は接触できません」
「そう……」
「奥様も、盗賊を捕まえたときの記憶があいまいだとおっしゃる。どうしても、ナナさんから、具体的な話をききたいのです」
「ナイソックさんは、正式に王都警備隊への協力をしてほしい、ともおっしゃっているわ。光栄なお話だわ」
お母さまは言う。
「私が、王都警備隊に協力?」
「そうよ!」
「でも、私にできることなんてなにもないわ」
「いえ、そんなことは!」
「こういう話って、ガドがしてくれるんじゃなかったかしら」
「ナナ様」
ガドが言った。
「ちょっと、あれをとっていただけますか」
ガドは天井を指していた。
「あら」
天井は私たちの身長よりもずっと高く、とんでもはねても手は届かない。
その天井の端のほう、なにかがきらりと光ったように見えた。
「なにかしら」
「お願いできますか?」
「あとにしたほうがいいんじゃないの?」
「かまいませんね?」
ガドが言うと、ナイソックさんはうなずいた。
「そうなの? ならいいわよ」
私は剣を出して、それに乗ってふわりと天井の端のところまで行った。
刺さっているものに、顔を近づける。
「これは、なにかしら」
それは刃物のようだった。
ペンのように細くて、果物の皮をむくのにも使いにくそうに見える。
両手でつかんで、やっと引き抜けた。
「ガド、変な刃物だったわ」
「これは。探していました。あんなところにあったのですね」
「ガドの?」
「ええ」
どうやったらあんなところに刺さるのだろうか。
「まあ、見つかってよかったわ。……ええと、なんだったかしら」
私が見ると、ナイソックさんたちが、さっきまでより目を大きく開いているように見えた。
「ナナさん、それを使って?」
「ああ、ええ、そうよ。これで盗賊を捕まえたり、飛んで王都まで言ったりしたの。村で拾ったものだわ」
「ぜひ、詳しいお話をうかがいたいのですが」
ナイソックさんが、私をじっと見る。
いま話したけれど。