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20 王子さまを追いかけなくちゃ

「で、あんたらがバウンゴー家の人間ってのは、たしからしいな。そっちは奥様ってことか」

 男が言う。


 髪の毛がぼさぼさで、背は高い。もしゃもしゃに生えているひげが特徴的だ。

 服はあまり清潔ではなさそうだ。肌が日に焼けていて茶色っぽい外見なので、歯が白いのが目立っていた。


 お母さまは私を後ろから抱えるようにする。


「わたしたちは、ただ、王子と同じ馬車に乗っていただけよ。なんの関係もないはずだわ!」

 お母さまの声はふるえていた。

「奥様」


 ひげの人が前かがみになる。

「おれたちは、お行儀がよくないんだよ」

 にやりと笑う。


「か、か、帰りなさい!」

「おいおいおい、そんな態度とっていいのか? きれいに着飾った、あんたの大事なお嬢ちゃんを、おれたちの楽しみに使ってもいいだぜ」

 ひっひっひ、と男たちが笑う。


「やめなさい! それなら、わ、わ、わ、わたしが代わりになるわ!」

「ババアは引っ込んでろ」

 別の男が言うと、どっ、と笑い声が起こった。


「お嬢ちゃんはこわくて声も出せないか。ん? そのきれいなかっこが、おれたちのためになっちまうんだぞ?」

 ひげの人が私に近づいてくる。

「は、離れなさい!」

 お母さまが叫んだ。


「ナナヒカリさんは、どうなったんですか」

 私はきいてみた。

「王子様のことか? 逃げたな。あんたらを置いて」

「すごく速く走ってました」

「筋力増強かなにかだ。めずらしい能力だな」

「どこへ?」

「そりゃ王都だろ。お父様に守ってもらうんじゃねえのか? まあ、おれたちは、あんたらがいればそれで充分よ」


 ひげの人は、にやり、とする。

「肉体的な、危害を加えられたくなかったらおとなしく従うんだな。運がいいぞ、おれたちは、いうことをきく相手には、無駄な危害を加えないからな」


 私は思い出してきく。

「それと、私たちを守ってくれるはずだった、護衛の人たちはどうなったんですか? 急にいなくなってしまったのは、どうしてですか」

「馬を止めた」

「殺したんですか?」

「死んじゃいねえが、……お嬢ちゃん、案外、肝が座ってんだな」

 ひげの人は、自分のもしゃもしゃのひげをなでながら私を見た。


 つまり、私たちも無事だから、みんな無事ということだ。

 ほっとした。


「おいお嬢様、こまるなあ。他人の心配ばかりして。おれは、そういうのが大嫌いなんだよ」

 にやりと笑う。


「気が変わった。おい、このお嬢ちゃんを、ちょっと恥ずかしい目にあわせてやろう。おい」

「待ってました!」

 男たちが近づいてくる。


「やめて!」

 お母さまが大きな声で言う。


「奥様が反抗的な態度を取れば、それだけお嬢ちゃんが苦しむことになるぜ」

「なにをする気!」

「言ってほしいのか?」

 男たちがニタニタと笑う。


 なにをするつもりだろう。

「ごめんなさい、もういいかしら。私、急ぐの。ナナヒカリさんを追いかけないと。結婚しないといけないのだから」

「ナナ?」

「さっきわかったの。ナナヒカリさんは、私の王子さまなのよ」

「ヒュー!」

 変な声を出す男がいた。


「わたしの王子様だったよー!」

「フー! フー!」

「お母さま、行きましょう」

「歩いて行くのか? おい。楽しい旅になりそうだなあ!」

 ひげの人が大きな声で言う。


 いちいち声が大きくて、耳が痛くなってしまう。

 困った人たちだ。


「ちがうわよ。遅くなってしまうもの」

 ナナヒカリさんがあんなに速いのだから、私も急がなければ。


 私と、お母さまの下に剣をすべりこませた。

 くっつけて、広げて、土台にして、と箱の形に組み上げていく。

 慣れてきたので、靴をはくような手軽さを感じた。


 すっ、と浮かぶ。


「ひゃあっ」

 お母さまが声を上げた。

 ちょうどお母さまが私をしっかりと捕まえていたので、私たちはよろけることなく、そのまま上がっていった。


「なんだありゃ」

 と言っている彼らの姿が、剣の壁越しに半透明で見えた。

「おい、ババアの腕の端、軽く撃て」

 男の声のあと、すぐ矢が射られた。


 言葉通り、お母さまの左腕をかすめるように飛んできた矢は、剣にあたって落ちた。


「あぶないわ」

 箱型にしておいてよかった。

 馬車も、剣も、家も、最終的には箱型に行き着くのかもしれない。これが先人の知恵というやつだろうか。

 私は箱型を見直した。


「さあ、行けそうよお母さま」

「ナナ……? これは……?」

「迷惑な人たちだったわね。あ、そうだわ。あの人、悪い人よね? 誰かひとり、捕まえて、王都に届けたほうがいいかしらね」


 私は、あまっていた剣を引き寄せると、ひげの人の腰のあたりでくるりと巻く。

 と思ったら逃げられたので、数本で強引に捕まえて、釣り上げた。

「な、おい、くそ! 撃て撃て!」


 下から、仲間の男が私たちの乗っている箱に攻撃をした。

「ひゃあっ!」

 お母さまが声を上げる。

 彼らは、矢だったり、光るものだったり、よくわからないものが飛ばしてきた。

 それは全部、剣の壁がはねかえしてくれた。


「だいじょうぶそうね」

 私たちは地面から離れていく。

 最初こそ体を大きく動かして暴れていたひげの人も、動くのをやめていた。 

 ぼんやりと、遠くを見ているようだ。静かになってくれてうれしい。


 私はナナヒカリさんの姿を思い浮かべた。

「さあ、王都に行きましょう」


 私は、下に見える街道に沿って、箱を前へと進めた。

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