00 お母さまのお話
「ナナ。話があるわ」
朝食がすむと、私だけが食堂に残された。
一度に二十人以上が食事をとれるテーブルにいるのは、私とお母さま、それとメイドのメイだけだ。
「ナナ」
お母さまは、私をしっかりと見ていた。
「はいお母さま」
「あなたはふだん、どういう生活をしているかしら?」
「そうね……、散歩とお昼寝は欠かさない、そういう生活をしているわ」
私は、しっかりとお母さまの顔を見て言った。
お母さまは、眉間を軽くおさえた。
「あなたの、六人のお姉さんたちはどうかしら」
「お姉さまたちはすばらしいわ。美しくなるためだったり、強くなるためだったり、教養を身につけるために日々努力しているわ。ライチお姉さまなんて、勇者様の子孫と結婚されて。結婚式のお姉さまは、とてもきれいだったわ」
お母さまは、ゆっくりうなずいた。
「それでナナ、あなたは?」
「私は美しくなるのも難しそうだし、努力も大変そう。でも私は思うの。のんびりと、毎日、お昼寝とお散歩ができれば、それでいいんじゃないかって」
「ナナ」
「なにかしら」
「わたしたちは、いずれいなくなるわ。その生活、あなたひとりでできるの?」
「できるんじゃないかしら」
「ナナ。ひとりで暮らすためには、たくさんのことができなければならないわ。そのためには、いろいろな努力をしなければならないの。あなたには難しいこともあるかもしれない。でもいまなら、妻として、生きていく方法をさがすだけで、きっとあなたも、一生幸せになれるわ。わたしたちも、その力になれる」
「そうね、いずれ……」
「ナナ」
お母さまはじっと私を見た。
「あなたは今年で十三歳でしょう? そろそろ、本気にならないといけないわ。メイ」
お母さまが急に、メイに声をかけた。
部屋の端で待機していたメイドのひとり、メイは、ぴょこん、とはねた。
大きな目が、ぱっちり開かれる。
「は、はい奥様!」
「あなたは、休暇で明日から実家の、クサンの村に帰るのよね? 一週間だったかしら」
「はい!」
「だったらそうね……。村には空いている小屋かなにか、あるような場所かしら?」
「はい、そのようなものならいくらでも」
「あらそう。だったらナナを連れて帰ってもらえるかしら」
「は、はい!?」
「あなたには特別手当を払うわ。せっかくの里帰りをじゃまするのですからね」
お母さまは私に向き直った。
「ナナ。あなたは、このお屋敷での生活しか知らないでしょう。このお屋敷を出て、ふつうの村で暮らすのがあなたにとってどれだけ難しいか、よく見てきなさい」