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セレマウとルティーナ 2

ナナキが告げたユフィの魔力量に驚くルティーナからシーンは始まります。

「せ、1000倍!?」

――ちょっとちょっと、何それ、そんなの聞いたことないよ!

 言いづらそうにしていたナナキの言葉を受け入れられず、ルティーナは目を見開いて彼女凝視していた。

 魔力量についての知識を知らないのか、もう知っているからか分からないが自然体のセレマウが不思議そうに首をかしげているのも理解しがたいが、それ以上にルティーナはユフィ・ナターシャという存在について知りたくなった。

「し、失礼しました……。でも、いくらナターシャ家とはいえ、いくらなんでも冗談が過ぎますよ」

 ナナキという少女は非常に真面目そうだと思っていたのだが、意外とユーモラスなのかもしれない。うん、きっとそう。

 そう自分に言い聞かせて返事を待つルティーナへ、ナナキは追撃を放つ。

「冗談でこんなこと言いませんよ。興味本位で就寝中のユフィ様の魔力を測定したことがあるのですが、就寝中で集中して魔力を発したわけでもないのに、たしかに計測器は振り切れてしまいました。ユフィ様のお父様、皇国軍の最高軍事顧問であるエドガー・ナターシャ様や、お兄様のシックス・ナターシャ様も高位の魔力を備えておられますが、大魔法使いの一族として知られるナターシャ家の中でも、ユフィ様の魔力は群を抜いています」

 言ってしまった以上、もう何も隠すことはなくなったのだろう。ナナキは捲くし立てるようにルティーナにそう言い放った。

「いや、もう、ほんとに次元が違います」


 この世界には魔法が存在する。

 魔法を使うには、魔導式と呼ばれる文字列を脳内に思い浮かべ、そこに魔力という不可視の力を流し込むことによって、魔法は世界に顕現する。

 魔力を行使すると精神的な疲労感が脳に現れるのだが、魔力量が多ければ多いほど、その疲労感は小さくなる上に、同じ魔導式を使用したとしても威力や規模が増大する。

 魔力はあらゆる人間に備わる者だが、魔力量は遺伝することが多い。そのため貴族の者は長い歴史の中で高い魔力の者との婚姻を繰り返してきた。その結果、平民よりも高い魔力を持って生まれてくることが多くなったのだ。

 ルティーナも常人の15倍ほどの魔力を備えているが、これは王国七騎士団で唯一魔法使いのみで構成される騎士団であるグリューンリッターに入団するための最低ラインと言われている。

 王国内では魔力が常人の30倍もあればエリートである。今はもう大逆者となってしまったが、風の噂で聞いた限り元グリューンリッター団長クウェイラート・ウェブモート、かつて王国最強の魔法使いと呼ばれた彼ですら、常人の250倍と言われていたという。もちろん250倍というだけでも半端ではない魔力量なのだが。

 魔力は魔法使いだけでなく、近接戦闘を行う騎士にとっても重要な力であり、身体を強化する魔法を使ったり、剣に魔力を乗せて威力を底上げしたりと、魔力を行使すれば戦い方の幅が広がる。

 1000倍の魔力など、果たして何が“出来ない”のだろうか。

 想像もつかないルティーナは、苦笑いを浮かべるしかできなかった。


「確かに……そんな方の代わりなど恐れ多いですね……」

 誰も代わりを務めたがらなかったという意味を理解し、ルティーナは自身なさげにそう漏らす。

 彼女とてゼロに憧れたあの日から訓練を欠かしたことはなく、剣技には自信を持っていた、途方もない数値を聞くと、その自信もどこへやらだった。

「むぅ。ボクはユフィと同じ強さの人がいてほしい、って思ったわけじゃないよっ」

 茫然とするルティーナに、少しだけむっとした表情を向けるセレマウ。両頬を膨らませる姿は、同性のルティーナからしても可愛らしいものだった。

「一人より二人、ボクは友達が欲しいんだっ」

「へ? と、友達ですか?」

 全く想像すらしていなかった言葉が飛び出てきたことに、ルティーナは今日何回目か分からないような驚きの表情を浮かべる。

「そりゃ、ボクはよわっちいから、守ってくれる人がいて欲しいって部分もないわけじゃないよ? さすがにボクだって自分の立場は分かってる。国のみんながボクに護衛をつけるべきだって言ってることも分かってるよ。護衛もつけずにふらふらしてみんなを心配させたりするほど、ボクだって馬鹿じゃないし」

 彼女の言わんとすることが分かりそうで分からないルティーナは、はぁ、と茫然とした様子でセレマウの言葉に耳を傾けていた。

「でも、どうせ一緒にいてもらうならさ、友達になれる子がいいなぁ、って思うじゃん?」

 いや、そこの理屈は分からないよ、などと言えるわけもなくルティーナは今度は「はぁ」と力ない相槌を声に出してしまう。

「だからさルティーナ」

 目が線になるほどのにこにこ笑顔が、ルティーナを捉える。

 こんなにも純粋な笑顔ができるのは、子どもだけだと思っていたのだが、この子は例外だな、とそんなことを思いながらルティーナはその笑顔と向き合い、彼女の言葉を待っていた。

「ボクと友達になってよっ」

「と、友達……」

「うん、友達!」

 助けを請うようにナナキに目を向けると、彼女はもうセレマウの影響下にあるのか、諦めてください、とでも言うような笑顔を向けていた。

 ここはセルナス皇国。ここに彼女に手を伸べてくれる者はいない。

――友達、か……。

 ルティーナにとって、友達と呼べる存在は――彼女が思っているだけかもしれないが――ブラウリッターの仲間たちだけだ。西部では元々年齢の近い者もおらず、王都に行ってからは、正直ほとんどいい思い出もなく、彼女と親しくなる者などいなかった。

 友達、という言葉はなんだか甘いものを口にしたときのような、ふわふわした気持ちを自分に与えてくれる気がする。

「と、とりあえずは警護役という形からお願いします」

 目の前のパジャマ姿ではしゃぐ少女と話すのは、今までのルティーナの人生にはなかった経験だった。

 それは不思議で、ハラハラするし、理解も超えるが、決して嫌な感覚ではない。

 そう思ったからこそ、彼女はセレマウにそう答える。

「じゃあ、まずはそこからね! よろしくねっ。じゃあ改めて……セルナス皇国へようこそルティーナ!」

 差し伸べられた右手を、ルティーナはそっと握り返す。

――柔らかい手だなぁ……。

 もう何年も毎日剣を握って訓練を続けるルティーナの手は、ごつごつとした剣だこが多い。1歳しか違わないセレマウの、戦場を知らない手の柔らかさに、少しだけ、こんな生き方もあったのかなと、ルティーナは思うのだった。

「よろしくお願いします」

 こうして、ブラウリッター、ルティーナ・フィセールの、セルナス皇国での日々が始まったのだった。


そしてシーンは第1話の夜に戻ります。

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