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セレマウとルティーナ

セレマウとルティーナが初めて出会った日の回想です。

 話が彼女の出自になってしまったが、そうした経緯で初めてセレマウの元へとやってきたルティーナは、緊張した面持ちでセレマウと対面したものだ。


「は、はじめまして。ルティーナ・フィセールと申します」

 綺麗な子だな、と緊張を浮かべつつも、ルティーナは初めてセレマウを目にした時に、そう思ったのを覚えている。

 人懐っこい満面の笑みを浮かべたパジャマ姿の少女の黒髪は思わず触れたくなるほど美しく、丁寧に手入れがされているのは見ただけで分かった。

 透き通るような白い肌も、出るとこはしっかり出ているスタイルの良さも、女として目の前の少女に完敗だな、と自分が置かれている状況の現実感のなさにそんなことまで思ってしまったほどだ。

「セレマウ様、もう少し威厳とか、そういうのはないのですか?」

 ルティーナの横に立つ赤い髪の少女は、目の前の光景に慣れているのか、諦めたような表情でため息をつく。

「そもそも、お着替えしておいてくださいと言いましたよね?」

「アハハ~、だってこのパジャマがボクと離れたくないっていうからさぁ?」

 悪びれない笑顔を浮かべるセレマウに、何だこの生き物は、と思ってしまったのはしょうがないだろう。

 ルティーナが仕えるリトゥルム王国女王アーファ・リトゥルムから、セルナス皇国の法皇セルナス・ホーヴェルレッセン89世はアーファよりも1つ年上の少女だと聞いていた。

 今年17歳になるルティーナからすれば、1つ年下ということになるのだが、国を統べる者とはアーファのような者だろう、と先入観を抱いていたルティーナにとって、目の前の少女がセルナス皇国を治める法皇だなどと、全くもって理解できなかったのだ。

「まったく、ルティーナ様がお困りになっているではありませんか」

「ゴメンゴメン、ナナキ。そんなに怒んないでよぅ」

 両手を腰に当てて、じろっとセレマウに視線を送る赤い髪の少女、ナナキに対してセレマウはいじけた姿で謝っている。

 ルティーナの中で、法皇という存在に対するイメージは大きく崩れていく瞬間であった。


「うん、急に呼んじゃってごめんね。そこまで本気で言ったわけじゃなかったんだけど、アーファが本気にしてくれたみたいでさ。お言葉に甘えちゃうことにしたんだ。だからボク、ルティーナと会えて嬉しいよっ」

 なぜ嬉しいのか? 自分を蚊帳の外に目をキラキラと輝かせ、楽しそうな表情を浮かべる少女へ、ルティーナは唖然とした表情を消すことができなかった。

「聞いてるとは思うけれど、2か月前まで、ボクの警護役にはユフィがいたんだ」

「え、ええ。ユフィ・ナターシャ様が王国東部に、アリオーシュはくしゃ……公爵様のお手伝いに行かれたと陛下より伺っております」

 このままでは聞くばかりと思ったルティーナがなんとかセレマウの話に口を挟む。彼女にとってアリオーシュ家は王都の伯爵家の印象が強いのだが、今は東部領主として公爵位を賜ったため、慌てて言い直す形となってしまったが。

「うんー。そうなんだ。……ルティーナは、ブラウリッターの一員ってことだから、ゼロさんの部下なんだよね?」

 不意に尊敬するゼロの名前を出され、ルティーナが一瞬動揺したのにセレマウは気づいただろうか。

「はい。尊敬するお方です。法皇様は、ブラウ団長をご存知なのですか?」

「セレマウでいいよ、そんな固くならないでさっ。ちなみに、ゼロさんのことは知ってるっていうか、もう皇国の恩人だよ~」

「そうですね、その表現が適切ですね」

 強張った表情を浮かべるルティーナの緊張を和らげようとしたのか、セレマウはふにゃっとした笑顔をルティーナに向ける。呼び捨てになど出来るわけがないルティーナは苦笑するしかなかったが、皇国の恩人、という言葉が彼女の耳に引っかかった。

 アーファより皇国で法皇の警護役を命じる、詳しくは法皇から聞けとあっさりというか強引な指示で皇国に送られたルティーナだったが、彼女は他国への潜入任務に従事していたため、なぜ敵対関係にあったリトゥルム王国とセルナス皇国が同盟関係になったのか、正確な事情を把握していない。

「皇国の、恩人?」

「うん。アーファからあまり聞いてないのかな?」

 話の流れを掴み切れていないルティーナに気づいたセレマウは、同盟に至った経緯をルティーナに説明し出してくれた。


――陛下が、法皇を知りたいと思って皇国に潜入した……それに団長がついていった……。そうね、団長の実力なら、適役だよね。

――法皇をないがしろにした貴族たちが、勝手に大戦争を始めようとした……。たしかにこんな子がトップだとしたら、悪だくみを考えるやつが出てきてもおかしくないよね……。

――団長とユフィ・ナターシャが協力してその貴族の陰謀を止めた……。うん、団長ならそれくらい余裕だよね。

――陛下と手を取り合った法皇が、王国東部の反乱鎮圧に協力してくれた……。ウェブモート家め、東部を預かる身だったというのに忌々しい……。

――東部の反乱を、団長とユフィ・ナターシャが止めた。……流石団長。うん、団長ならそれくらい余裕だよね。


 かいつまんだセレマウの話を見事に理解したルティーナは、改めてゼロ・アリオーシュへの尊敬の念を深める。

 そしてそれと同時に、やたらとゼロと一緒に登場するユフィ・ナターシャという存在にわずかに鬱陶しさを覚えてしまう心があるのに、彼女自身は気づいていただろうか。


「でねぇ、うちのユフィは、もうゼロさんにぞっこんだからさ、反乱を治めてからずっと元気なくてね。……ここ何か月も会話もできるし、たまに笑ったりはするんだけど……なんていうか、ただそこにいるだけ、って感じだったんだよね」

 尊敬するゼロがまだ昏睡状態にあるのはルティーナも知っている。

一度王城に帰還した際、寝たきりの彼の姿にそれはそれはショックを受けたのだから。

「だから、ユフィが自分からウォービルさんの手伝いをしたい、って言ったことが嬉しくてね。いいよ、いっておいで、って言ったはいいんだけど……。やっぱりちょっと寂しいんだ」

 ルティーナの内心をよそに続く説明の最後に、セレマウはそう言って寂しそうに笑う。

「ボクにはナナキもついてくれてるけど、それでもずっとボクと一緒にいるわけにはいかないし、たまには王都にいるルーさんに会いに行かせてあげたくてさ」

 ちらっと視線を向けると、ナナキと呼ばれた少女は複雑そうな表情を浮かべていた。

「皇国には女性騎士ってほとんどいないし、ユフィの代わりに、なんていったら引き受けてくれる人もいなくてねぇ……それでアーファに話してみたんだ」

「そう、だったんですか……」


――ユフィ・ナターシャの、代わり、ね……。

 ナターシャ家という存在はルティーナも知っている。というかカナン大陸にナターシャ家の名を知らぬ者はいない、と言っても過言ではない、セルナス皇国の武を支えてきた大魔法使いの一族として、ナターシャ家はあまりにも有名なのだ。

 たしかにその家柄の者と比べられる立場など、そう簡単に引き受けてくれる者はいないだろう。

 その点ルティーナは王国西部とはいえ、爵位の上では公爵家の出身であり爵位だけ見れば法皇のそばにいても申し分はない。聞けばルティーナの年齢はユフィ・ナターシャと同い年ということだ。

 その上皇国出身ではないため、ナターシャ家については知っていても、ユフィ・ナターシャという個人については分からないことが多く、アーファから代わりと言われても文句を言わない可能性が高い。

 嵌められたな、という気がしなくもないが、たしかに彼女はいろいろな意味でセレマウの新たな警護役に適役だったのだろう。

「その、ユフィ・ナターシャという方は、そこまでお強い方だったんですか?」

 それはふと浮かんだ疑問だった。尊敬するゼロと共に戦えるほどなのだから、相応の実力者ではあるのだろうが、その程度のイメージでルティーナは聞いてしまった。

「うん~、すっごい可愛い上に、すっごい強いよっ」

 可愛いは関係ないだろ、と心の中でツッコミをいれつつ、アバウトな表現のセレマウに苦笑いするルティーナ。ふと思い、ちらっとナナキに視線を送ると何やら彼女は何かを言うか言うまいか、迷っているようだった。

「強い、とは?」

 ここまで聞いておいて、内緒もないだろう。

 ナナキに向けて、ルティーナが尋ねる。

「これは、ここだけの話でお願いしたいのですが……」

 言いづらそうに語尾を濁しながら発言するナナキへ、ルティーナは続けて、と目線を送る。

 何に対するものだったかは分からないが、ナナキは小さくため息をついた後、真剣な眼差しをルティーナに向け、ユフィの強さをはっきりと伝えんと意を決する。

「ユフィ様の魔力は、計測器では測り切れません。常人の、1000倍超です」

「せ、1000倍!?」

 今日一番の大きな声で、ルティーナの驚く声が室内に響き渡るのだった。


セレマウの純粋さは、書いていて楽しいですね……。


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