悪の小人
俺達が地上に出ると辺りは夜の暗闇だった。
ジェノサイダーが暴れたせいで周りの光源が全滅しているためだ。
「真暗だな。どうするこれから?」
ダンジョンコアを触り気絶した加藤君を引きずりながら大輔が聞いてきた。
本当なら詳しい報告に戻らないといけないが面倒臭い。
ダンジョン制覇はうまくいったんだし、そんなものは後で電話すればいいだろう。
このまま暗闇にまぎれて脱出し温泉宿に向かおう。
「温泉に向かうぞ。まだ自衛隊がいるはずだ。見つかったら何食わぬ顔で挨拶しろ。」
どうせ末端に情報は伝わって無いはずだ。
堂々としてれば疑われずにこの包囲網を抜けられるはずだ。
大輔が頷き一歩前に進もうとしたところ銃声と共に足元が弾けた!
ちぃ!見つかったか!!
「動くな!!」
拡声器を通した声が停止を促す。
ジェノサイダーの件がバレたのか?
いや、あれがバレるはずは無い!・・・よな・・・。
不本意だが両手を上にあげて降伏の意思を伝える。
「中央の人型は?」
何の事だ・・・あたりを見渡すが俺達3人の他はカイムしかいない。
「お前の事じゃねえのか?思いっきり不審人物だろ。」
大輔の鋭い指摘が突き刺さる。
何と言って誤魔化そうかと考えているとサーチライトで照らされた。
3方向から照らされる。
うお!全然見えない!
「問題無い!ダンジョンに潜った冒険者達だ!動かないで!そこから先は地雷原になってます。迎えに行きますので動かないで下さい。」
どうやら俺達を知る人がいたらしい。
しかし地雷原だと、入る時は無かったはずだ。
原因はジェノサイダーか?
いや、スタンピード用に元々設置する予定だったのかもしれない。
俺が思考の海に潜っていると籠のついたクレーン車のようなものがそのクレーンを伸ばし俺達を拾ってくれた、
籠の中から下を見ると地面が不規則に凸凹してる。
あそこに地雷があるわけだ。
何かをぶつけてみたい衝動にかられたが必死に我慢し地雷原を抜け出した。
籠から降りるといきなりガタイのいい自衛隊員に両腕を取られる。
大輔も同様だが気絶中の加藤君は担架に乗せられている。
「な、何を・・・。」
「すみません、冒険者ギルドの大石さんの指示ですぐにこうしろと・・・。」
あのコロポックル、何を吹きこんだ!
「すぐに報告に向かって頂きたいのですが、すぐに拘束しないと必ず逃げると言われてまして・・・私達はスタンピードを阻止した英雄に対してこのような事はしたくないのですが、命令には逆らえません。お疲れのところ申し訳ありませんが、暫く御辛抱願います。」
どうやら自衛隊の行動はちいさなおっさんの差しがねだったようだ。
しかし、付き合いが長いわけじゃないのに何故分かった。
「緊急対策本部はすぐそこです。大石さんもいらっしゃいますのでご同行をお願いします。」
拒否権が無いのに聞いてくるんじゃねえ!
それもこれも元凶はあの小人だ!!!
目に物みせてやる!!
先導する自衛隊員の後ろを両手をおっさんに組まれながらついていく。
これがまだ美人で巨乳の女性隊員なら歓迎するのだが、鬼瓦のような顔をした厳ついおっさんではテンションも下がる。
「一つお伺いして宜しいでしょうか?」
先導してる隊員、おそらく偉い人が半身になり話しかけてきた。
「ダンジョン制覇したかならしましたよ。管理者はあのデブなので煮るなり焼くなり好きにして下さい。」
俺の返事を冗談と受け取ったのか笑みを浮かべる。
甘いな、残念ながら冗談じゃないぞ。
憎めないデブだがいざとなれば俺は切り捨てる!
「いえ、そうでは無く、その顔の麻袋なんですが・・・。」
尻つぼみに声が小さくなるって事は薄々は分って聞いているな。
まぁ、その考えは間違ってるんだが勘違いしてもらってた方が俺には都合がいい。
「あぁ、ダンジョン内で怪我をしましてね。ポーションによる治療は済んだのですが回復に時間がかかるので、そのあいだ顔を隠してるだけなんですよ。たぶん後2~3日で完治します。」
やっぱりと大仰に頷いている。
ごめんなさい、本当は嘘なんだ。
人が好い自衛隊の人に嘘をつくと胸が痛むぜ。
そうこうしている内に対策本部とやらに到着し、俺達は一つの部屋に案内された。
「こちらでお待ち下さい。すぐに担当が来るはずです。」
加藤君を備え付けの簡易ベットに移すと自衛隊の皆さんは退出し部屋には俺達だけになった。
誰もいなくなったところで大輔に声をかける。
「大輔、お前に特殊ミッションを与える。」
「はっ?」
口を閉じろ!
脳筋馬鹿なのに更に馬鹿に見えるぞ!
「やる事は簡単だ。俺が合図したらあの小さなおっさんを捕まえるんだ!」
「なんのためにそんな事すんだよ。」
「どうも言ってる事とやってる事が違いすぎる。パラシュートでの強制着陸に始まり、自衛隊のむさいおっさん共による拘束!このままだといいように使われるだろ!だから人質にとってこちらのいいように交渉する!」
「それは交渉じゃなくて脅迫というんじゃないのか?」
「話合いをするんだから交渉だ。人質と言っても逃げないようにするためだ。あの小人は時間を与えると何かやる。そもそも正義より悪に近い存在だからな。」
「お前の話はいつもぶっ飛んでるな。」
「知ってるか、あのおっさんは戻ろうと思えばいつでも元の大きさに戻れるんだぞ。ちゃんと小人から回復する薬があるんだ。」
「だからなんだよ。」
「小さいと目線は上にあがる。きっとスカートの中は見放題だろう。そしてあのおっさんは俺達の高校に来たことがある。ここまで言えばいくら鈍いお前でも分かるんじゃないか。」
「まさか・・・。」
「そうだ!あのおっさんはたぶん宮沢さんのスカートの中を覗いている。これを悪と言わずして何が悪だ!」
「あのちび!!!」
大輔の顔がみるみるうちに鬼の形相に変わっていく。
マズイな、このままだと掴んだ瞬間潰しかねない。
「大輔!確認が先だぞ。確認して本当にそうだったならお前の手で天誅をくだすがいい。」
「わかった!!!」
凄いぞ、やる気が漲っている。
だが、ダンジョンに入ってる時にこのやる気を見せて欲しいのだが。
大輔が部屋の隅でシャドウボクシングを始めた。
風を切るパンチの音がここまで聞こえる。
パンチが下よりなのは仮想敵があのおっさんだからだろうか。
だが、こんなパンチがまともにヒットしたらバラバラになるだろう。
見てみたい気もするが止めさせよう。
俺が大輔に助言を与えているとコンコンとドアが鳴った。
来たか!小人よ!洗いざらい吐いてもらうぞ!
きりのいいとこまで書いたら長くなりました。
そのくせ話が前に進んでませんが・・・。




