赤い人影
「加藤君、元気だせよ。また作ればいいじゃん。」
「そうそう、加藤君は器用なんだから時間さえかけたらもっといいのが出来るから。」
不吉な45階をあとにした俺達は現在項垂れて号泣している加藤君を慰めていた。
このデブは道中もゴーレムを抱きかかえながら歩いていたのだが肝心のゴーレムの耐久性能に問題があり腰の部分からへし折れたのだ。
そしてショックのあまりへたり込みいきなり、こちらがヒクくらいの勢いで号泣し始めるデブ。
とりあえず泣きながら歩くまでには回復したので、やっかいなデブは放置する事にする。
グズグズ鼻をすすりながらついてくるが、二十歳近い人の姿じゃないな。
やはり寺で修行だな。
俺は密かに心に誓った。
それ以外特筆する事は無く、俺達は最下層のボス部屋の前までたどり着いた。
その頃には加藤君も泣き止んで目を赤く腫らしているが元気だ。
だが、俺達がボス部屋の扉に近づくにつれ妙な音が聞こえ始める。
ポンポコポンポコと軽快なリズムを刻む太鼓の音だ。
「なんの音だ?」
「太鼓っぽいけど、どこから聞こえてきてる?」
俺達はその不気味な音源を探るべく辺りを探索した。
どうやら音はボス部屋の中から聞こえてくるようだ。
「たしか前回は気色の悪いお化けみたいな奴がいたんだよな?」
『レギオンという悪霊の集合体だ。前回のは成長しすぎていたが基本ダンジョンのボスモンスターが変わる事は無いはずだ。』
ってことは悪霊が太鼓を叩いてるのか?
「そのレギオンが太鼓を叩いてるのか?」
『知らん!扉を開けてみれば分るであろう!』
まぁ、もっともだ。
ということなら、うちのチームの肉体労働&肉壁担当に活躍してもらおう。
「大輔、出番だぞ!」
「なに言ってやがる!いつもの様に俺と加藤君が攻撃準備した後に、お前が開けろ!」
くそ!どいつもこいつも逆らいやがる!
上に戻ったらもっと俺を敬うように教育する必要があるな。
「開けろ!直道!」
俺に命令するんじゃねえ!
しぶしぶ俺が扉を開けるとそれまで攻撃態勢でいた2人が驚きの表情で動きを止めた。
目を見開き口を限界まで開けてかなり不細工な顏だ。
シャッターチャンス!
俺はスマホで2人の間抜け面を連続撮影し、ついでに動画でも残そうとビデオカメラも動かした。
フハハハハッ、なんという間抜け面だ。
間違い無くこれは死ぬまでからかえるネタだな。
だが、何を見ているんだ。
好奇心が芽生え俺も2人の視線の先を追う。
「なっ!!!!!」
俺達の視線の先、ボス部屋の中央には赤い人影が激しく動いていたのだった。
ボスモンスターは攻撃されるかボス部屋に踏み込まない限り、彫像のように動かないはずだ!
それにここのボスはレギオンという悪霊のはず、決してあんなのでは無い
『ヘイ!ユー!僕の踊りに見とれてないでさっさと入って来なよぉおぉおお!イィィィエァアァアァアアア!!!』
しゃべった!!!
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最後の叫びの意味は分らんが、もしかして高レベルの冒険者なのか?
俺達に依頼が来てはいるが他の冒険者については聞いて無い。
『チッ!やはり奴か!』
俺達が尚も呆然と立ち尽くしていると、カイムが憎々しげに言葉を吐く。
知り合いなのか?
「おい、カイム、お前の知り合いか?・・・って事はあれって悪魔なのか?」
『知ってるだけで知り合いでは無い!あれはあれでも神の一柱だ!』
そう吐き捨てるように言うと天井の方に飛んでいってしまった。
神と悪魔だから仲が悪いのか?
「お、おい、どうする直道。」
俺が考えていると大輔と加藤君が再起動していた。
どうするも何もどうしよう・・・・。
話し方からして神というわりにはフレンドリーなので大丈夫だと思うが・・・。
俺達の相談の間も太鼓の音は鳴りやまず赤い人影は踊り?狂っていた。
攻撃する気ならとっくに攻撃してるだろう。
「神様なら平気じゃないかな。」
加藤君の一言が決め手となり、皆でボス部屋に踏み込んだ。
途端にボス部屋の扉が閉まる。
しまった、罠か!!
全員で扉に縋り付き押してみるがビクともしない。
ちくしょう!!!
『そんなに慌てなくても平気だよぉおぉおお!!君達には幸運にも僕の弟子になるチャンスをあげるだけだからね!ヒィィイィイイィハァアァァアァアアア!!!』
滅茶苦茶だこいつ。
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非常にウザくコミュニケーションが取り辛い相手だったが、俺達はこれ以上ない程の忍耐力を発揮し話を聞いてみた。
彼の名前はウェウェコヨトル、自称踊りと芸術の神らしい。
服かと思っていたが赤い地肌の2メートル近い男で半裸だ。
半裸といっても腰巻とその腰巻の左右に小さい太鼓がつけられているだけの服装なため、半裸より全裸の方が近いかもしれん・・・。
そして髪は某世紀末のやられ役よろしくモヒカンで、激しく動いているのにアイスラッガーのように乱れがない。
赤い体の所々に黄緑の太線がペイントされ、しかも髪と腰巻も黄緑なため見ていると不安になってくる。
人間ならば間違い無くお近づきになりたくない人の1人だ。
ってかこれが本当に芸術の神なのか?
絶対信仰の対象にならないだろう。
長くなりそうだったのでここまでにします。
話が全然進まない。




