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解き放たれた獣

「おい!大輔!死んだか確認してみろ!」


「ふざけるな!お前が作ったんだろ!お前が確認しろ!」


俺達が誰が確認するかを擦り付けあっているとカイムがチョコチョコと歩いていって、腰からつまようじのような剣を抜き泥に突き刺す。


『やはり強度に問題があったか。』


妙な事を口走ったぞ。


「カイム!どういう事だ!お前がその化物を作ったのか?」


『化物では無い。これはゴーレムだ。』


「お前・・・ゴーレムなんて作れたのか?」


しかし、何故このタイミングで・・・。


『これを使った。』


翼を左右に広げ口ばしを上にむけ、これ以上無いくらいに踏ん反り返る。

その胸には以前俺達から強奪したお守り(タリスマン)が輝いている。


「このお守り(タリスマン)のお陰か?」


『触るな!』


指先で触れようとすると叩かれた。

お前、俺の従魔だよな?


『ゴーレムクリエイトはかなり上位のスキルだ。このような魔道具にすることは出来ないはずだが、これは制限付きとはいえそれを可能とする奇跡の品だ。』


「制限って?」


『本来のゴーレムクリエイトは魔力でゴーレムを作り出す。』


簡潔すぎて分からん・・・が、これがあればゴーレムを作れるわけだな・・・。


「それを寄こせぇえぇええ!!!」


『無駄だ。あるじには使えない。」


飛び掛かった俺を華麗にかわし、桃仙の木の上に逃れたカイムが宣言する。


『使用したければ魔道具の審査にパスする必要がある。』


「いいから寄こせぇえぇええ!」


手を伸ばしジャンプするが後少しで届かない。


「直道、みっともないからピョンピョン跳ぶな。まるでおもちゃを取り上げられた猿だ。」


『審査に失敗すれば頭が吹き飛ぶ。唯一可能性があるとすればそこの丸い人間だ。』


なんですとぉおぉおお!!


「ぐっ!!!仕方が無い・・・不本意だが・・・本当に不本意だが、お前に預けておく!」


『ならばあるじの自決用に預かっておく。』


誰が自決なんぞするものか!

俺は150まで生きるぞ!


「じゃあ、これからはゴーレムを盾に出来るんだね。」


綺麗に3人前のカレーを平らげた加藤君が会話に参加してきた。

微動だにしなかったから意識の全てが食い物に向かってたと思っていたんだが、一応は聞いていたんだな。


『ゴーレムの体があれば可能だ。』


「ゴーレムの体?」


『ゴーレムクリエイトはゴーレムの体すら魔力で補えるが、これにはゴーレムの体が別にいる。』


「つまりゴーレムの体さえあればそれで動かせるってこと?それに対しての制限は無いの?」


『無い。』


「凄い!」


話しに割り込んできた加藤君が興奮しながらカイムとくっちゃべってる。

ここは頭脳労働担当の加藤君に任せてしまおう。



「これより、第1回ゴーレム選手権を開催します!」


3時間後、俺達は紙粘土で自分のゴーレムを作りあげていた。

紙粘土自体はトイレットペーパーとでんぷんのリが必要なのだがここには無い。

そのため代用で野戦食のご飯を大輔の馬鹿力で強引に捏ね合わせ作りあげたなんちゃって紙粘土を使用した。

なぜこんな事をしているかというと意味などは無い。

単なるスキルの検証にかこつけた暇つぶしだ。

1人1体のゴーレムを作り、誰のゴーレムが一番強いか戦わせる事にしたのだ。

無論やるからには本気でやる必要がある。

そのため3位はダンジョン制覇後に行く温泉宿を3人分全額自腹である。


「よぉし!じゃあ俺のから紹介するぜ!」


大輔がもったいぶって盾に隠していた紙粘土製ゴーレムを取り出した。


「じゃーん、俺のゴーレム!その名もシンプルに鉄人だ!」


紙粘土なのに鉄人とはこれいかに。

大輔のゴーレムは寸胴な体に短い足、そしてゴリラの様に腕が太く長い。

恐らく機動力を捨て防御と攻撃に全てを振った特化型ゴーレムだろう。

ただ明らかに左右の手足の長さが違うという問題はあるが・・・。



「次は僕だね。僕のゴーレムは美少女型ゴーレム、アフロディーテ1号だよ。」


加藤君がその丸い体の後ろから取り出したゴーレムは萌え系アニメにでも出てきそうな感じの女性型ゴーレム?というより、もはやフィギアだ。

無駄に細部まで緻密に作り上げられているが手足が長くて細いうえに胸がデカいせいで、とても戦闘に耐えられるとは思えない。

この男は時折こういう無駄な才能を発揮する。


「ふっ!最後は本命の俺だ!刮目せよ!これが俺のジェノサイダーだ!!!」


俺が取り出したゴーレムを2人が間抜けな顔で眺めている。

クックックッ、馬鹿め真の天才が誰か分かったようだな。


「おい、直道!腕が4本あるぞ!」


「馬鹿め!腕が2本などと誰が決めた!腕が多い方が手数も多い!だからこれが正解だ!」


「足も5本あるけど・・・。」


「後ろのは尻尾だ!これでバランスを取ったり攻撃したりも出来る!」


俺のジェノサイダーは触手のような鞭状の8本の手足を持ち尻尾まで備えているパーフェクトボディーだ。


「虫に人間の胴体をつなげたみたいな感じだな・・・。」


大輔がネチネチと言ってくるが勝てばいいのだ。

お前の左右不対象なゴリラと違って俺のジェノサイダーは死角が無いぞ!


「昔のロボットアニメの敵役でこういったのいたよな。たしか・・・機械じ「黙れえぇえぇええ!!!これは俺オリジナルだ!」」


「でも、悪役にしか見えないけどいいの?」


「強さこそ全ての戦闘特化型だからな♪」


「止せ、加藤君。この馬鹿には何を言っても無駄だ。」


何とでも言え!

勝つのは俺だ!


「カイム!まずは2人のゴーレムを動かしてくれ!」


俺がカイムに指示を出すと胸のお守り(タリスマン)がキラリと光り、それと同時に2人のゴーレムが動き出した。

大輔のゴーレムは力強いがぎこちなく、加藤君のは動きがスムーズだが動くだけで折れそうだ。

自分の作ったゴーレムが動き出し、2人は大興奮だ。

夢中になって動きの指示を出している。


よし!今のうちだ!


「おい、、カイム。俺のゴーレムも動くようにしてくれ。但しスピード特化型のゴーレムにするんだ。出来るな?」


『魔力を多く使えば強化は出来る。』


「あいつ等が夢中で遊んでる今がチャンスだ。やるんだ。」


カイムの胸のお守り(タリスマン)が一際強く輝くと俺のゴーレムも動き出した。

手足がウネウネと動き、若干気持ち悪いが中々スムーズな動きだ。

・・・これは勝ったな。



「始めるぞお前等!」


俺が声をかけると大輔は顔をあげ獰猛な笑みを浮かべているが加藤君の目線はゴーレムから離れない。

あのクソデブなにしてやがる!


「もういい!イケ!ジェノサイダー!!!」


俺が命令を出すと目の前からジェノサイダーが消えた。

素晴らしいスピードだ。



どこ行った?


「おい!消えたぞ!」


「ギリギリ見えてたけど、あっちに行ったぞ。」


大輔が44階へ上がる階段方面を指差す。


「戻ってこい!!ジェノサイダー!!!」


大声で命令を出すが戻ってくる気配は無い。


「どういう事だ!カイム!!!」


『主の命令に従いどこかへ行った。どこに向かったかは不明だ。目的地を指定すべきだったな。』


ゴーレムがこんな馬鹿だったとは・・・・。


「くっそ!いつ戻ってくる?」


『知らん。解き放たれた獣と一緒で戻らない可能性の方が高いな。そもそもゴーレムには自我が無いため何を考えているか理解する事は出来ない。』


カイムの頭にくる返答と同時に飛び掛かるが、またしてもこのクソ鳥は木の上に逃げやがった。


「直道は不戦敗ってことでいいよな。」


「僕も不戦敗でいいよ。」


「じゃあ、俺が優勝だな。やりぃ!!」


ゴリラゴーレムを抱えて喜ぶ大輔を尻目に俺の怒りのボルテージは最大級となっていた。

おかしい!この階層にいる時だけいやに不幸がかさなりやがる!

なにかあるんじゃねえのか、この階。


「くそ!もういい、それとこの階層はおかしい!何故かいると不幸な事が起きる!予定を変更してさっさとダンジョンを制覇するぞ!」


俺がそう宣言し、手分けして出発の用意をする。

大輔が何かブツブツ言っていたが上に戻ったら温泉宿だろと言ってやったらコロッと態度を変えて鼻歌まじりに準備をしだした。


こうして俺達は魔の桃仙エリアをあとにしたのだった。


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