ブーメラン
遅くなりました。
大分ダンジョンから逃げだした俺達は鹿児島の民宿に潜伏していた。
そして、加藤君の様子がおかしい。
神経質な犬の様に部屋の中をウロウロしているのだ。
理由は分かっている。
加藤君は大分ダンジョンの管理者になれなかったからだ。
大分から脱出した俺達は鹿児島にくるまでに色々と話合っていたのだが、その際に加藤君に管理者の称号が増えていない事が発覚した。
これは管理者になった後にダンジョンコアを壊したため、管理者権限がリセットされたという事らしい。
カイムがそう言っているだけなので違うかもしれないが、今のところは特に問題がないため俺達の中ではどうでもいい事になっている。
だが、小心者の加藤君はその事を深く気にしているのだ。
鹿児島はもう既に暑い。
パンツ1枚で寝転がり漫画を読んでいる大輔が、鬱陶しそうにうろつく加藤君を睨んでいる。
体面積の大きい加藤君がうろつくと熱のこもった空気も動く。
鬱陶しい上に暑苦しいため、正直俺も止めてもらいたい。
TVを点けると連日連夜、大分ダンジョンの特集が流れている。
見た事の無い自称専門家がTVの中で好き勝手言っているが、真相からは程遠い意見が大半だ。
なんだよ、採取され続けた植物の怒りって。
「そろそろ、帰ろうぜ。部屋の中にいるの飽きちまった。」
俺達が潜伏してそろそろ10日が過ぎようとしていた。
大輔は既に潜伏するのに飽きてきて、考え方が欲望に忠実になってきている。
俺としては帰るのは別にいいのだが、加藤君が落ち込みまくっているのが気になる。
どうせバレたりしないのだから開き直ればいいのに、メソメソとあのデブは思い悩んでいるのだ。
大輔が俺に任せろと言うので、不安だが任せておいたら夕方には元気になった。
何をしたのか分らないが持ち直したのなら、それでいい。
俺達は九州遠征の順路を逆にたどり東京に戻ってきた。
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そして大学生として夏休みを謳歌する・・・という訳にもならず、東京到着と同時に俺達は協会側に捕まった。
まぁ、捕まったと言えば聞こえは悪いが、大分ダンジョンの件で重要参考人として話を聞きたいと言われただけだ。
「いや、囲まれて搬送される時点でヤバくねえか?」
その割には余裕そうな大輔が愚痴る。
3人そろって連行された部屋は協会内によくある応接間だ。
ソファーに座らされたが、それならお茶くらい出して欲しい。
しばらく待っていると久しぶりに小さいおっさんがあらわれた。
「直道君、久しぶりだね。九州は楽しかった?」
「暑かった。」
「そっか・・・それで大分ダンジョンなんだけど・・・君達だよね?」
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、僕達は、は、は、は、何もし、し、し、知らないよ、よ、よ。」
加藤君が壊れたレコードのように答える。
「いいか!俺達は大分ダンジョンで寝てたら、いきなり外に転送されただけだ!故に何もしていないし悪くは無い!」
馬鹿め!証拠が無いから事情聴取してるはバレバレだ!
証拠があればこんな面倒な事をする必要は無いからな。
「この後に及んでも言い逃れをする直道君の心臓の強さに驚きだよ!・・・でも今日はそんな事はどうでもいいんだ!」
小さなおっさんが資料らし紙をテーブルの上に広げる。
なんだかよく分からない数字の羅列が書かれている。
「実は、大分ダンジョンのスタンピードの時間が大幅に縮んだんだ!今までは発生までに1年と30日ほどあったのが、いきなり縮んで30日になったんだよ!」
「これを君達で攻略して欲しい!」
小さいおっさんの叫び声に加藤君がビクビクしてるが、あのおっさんが叫ぶのはデフォルトだから慣れた方がいいぞ。
体が小さいからこっちに聞こえるように大声出してるだけなんだからな。
だが・・・。
「どうする?」
「俺は別にいいぜ。」
「ぼ、僕もいいよ。」
オロオロしている加藤君のためにも、大分ダンジョンは何とかしておいた方がいいかもな。
だけど、無料じゃしないぞ。
「これだ。これ出しな。」
右手の人差し指と親指で円を作り、金を出せと要求してみる。
「1人、100億!それと、大分ダンジョンの管理者となれば、売却益の5%を受け取れるけど!」
やけに素直に出すな・・・。
「不思議かい?でも、そのくらいなら出せるんだよ!」
「経費は全部そっち持ちだからな。」
「いいけど!・・・セコすぎないかい?」
呆れ顔で言われたが、経費だと思ってほえ面かくなよ。
自家用ジェット買ってやる!
こうして、その日の夕方に俺達は九州へとんぼ返りする事になった。
感想と誤字報告、有難う御座います。
本日1本目の投稿をさせて頂きます。




