ダンジョン調査2
すみません、遅れました。
21階層のボスを倒し22階層への階段を降る。
「天野!高山!そろそろ真面目にしろよ!」
「分かってるって!研究員様に怪我でもされちゃ、何言われるか分かんねぇからな。高山!お前もそろそろ下がれ!」
先頭にいた高山さんが下がってくると、今まで俺達の横にいた飯野さんが前にでる。
雰囲気の変わった3人に気圧され、口数が少なくなった中を黙々と歩く。
「・・・出てこねえな。」
ポツリと呟くように天野さんが言葉を発する。
俺と田辺さんは時折、足もとの魔石を拾いその後を追う。
24階のボス部屋の前で今日は野営だ。
今回の調査にはカイムを連れてきていない。
本人が嫌がったのもあるが、カイムを見せたくなかったので、俺としては諸手をあげてカイムのボイコットを承認した。
そのため、俺はいつにもまして大荷物だ。
ただ、食料と水だけは『戦神の刃』の持っているアイテムボックスに入れてもらっているので助かっている。
昔50階層の宝箱から見つけたというマジックアイテムで、5m四方の大きさしかないが時間停止機能がついているため、食料専用のアイテムボックスにしていると言っていた。
高山さんが世界一高い冷蔵庫だと言って笑っていたが、実際の値段が分からないため俺には難しい冗談だ。
「なぁ、これって直道連れてけば、ダンジョン攻略出来んじゃねぇのか?」
遅めの夕食を取っている時に、天野さんが突然そんな事を言いだした。
「イケるかもな・・・どう思う?」
「興味深いけど、かなり危険よ。」
「命かけるだけの意味はあるだろ。」
天野さんと高山さんが不穏な事を言いだした。
田辺さんも興味があるみたいで会話にくわわっている。
「そうかしら、直道君が幻覚にかかったり、はぐれただけで、簡単に全滅するわよ。やるなら直道君1人でやるべきね。」
いえ、それはノーサンキューです。
ほどほどが一番です。
そもそも、オークションで鑑定の眼鏡が売れたら、あとはほどほどに潜って稼げばいいかなって思ってたんだけど。
「お前等、おかしなことを考えるのはよせ!直道はまだ子供だぞ!直道、すまないな。こいつ等も悪気は無いんだ。」
「いや、俺はそんなつもりは・・・すまねぇ、直道。」
「ごめんなさい、私も軽率でした。そんなつもりは無いのよ。」
厳しい顔で飯野さんに窘められると、口々に謝罪の言葉をかけてくる。
たぶん、そんなつもりが無いというのは本当だろう。
でも、やれば出来るとも思っている・・・。
「いいですよ。俺も自分のスキルの力を知った時は、1つ2つなら簡単にダンジョン制覇出来るんじゃないかって思いましたから。」
「上に戻れば色々と話を聞く事になると思う。そうすれば、こいつらがなぜこんな事を言い出したかも分かると思う。悪いがそれまでは辛抱してくれ。」
俺みたいな子供に頭を下げてまで謝罪する飯野さん。
よく分からないが飯野さんがそうまでして言うのだから、そうなのだろう。
この人がこの中で1番まともだと思うし・・・。
この日は口数少なく夕食を終え、モヤモヤしながら眠った。
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翌日は早目に目が覚めてしまった。
まどろんでいると飯野さん達も次々と起きてくる。
朝食を取りながらミーティングを行う。
予定では昼食前までには32階の転移の小部屋に行く事になる。
状況によってはそのまま昼食前に小部屋に入る事になった。
俺達は順調に進み、30階のボスを倒して31階層へ突入した。
階段前でタオルを口に巻き準備をする。
「直道、マスク持って無いのか?だったら・・これを使え。」
俺が口にタオルを巻くと、天野さんが自分の荷物から新品のマスクを取り出し渡してくれた。
普通のマスクでは無く、ごつい感じの不思議なマスクだ。
「それはただの、使い捨ての防臭マスクだ。たいした物じゃないが、あると無しとじゃ大違いだ。安いんだから、お前も持ち歩いた方がいいぞ。」
礼を言ってマスクを付ける。
心なしかタオルより息がしやすいし、匂いもしない気がする。
「直道、防臭のマスクだけじゃなくて、防毒のマスクも用意しといた方がいいぞ!ただし、そっちは金をケチるなよ。」
高山さんのアドバイスに頷いて答える。
そして、俺達はまとまって臭い31階層に突入した。
走り抜ける予定だったのだが、1人だけレベルの低い田辺さんが遅い。
そのため、怒った高山さんに俵のように抱えられて走り抜けた。
32階へ到達した。
不思議な事に階段を少し離れると、あの腐敗臭は完全に消える。
あの臭いもダンジョンの罠の一つなのだろうか。
32階の転移の小部屋の前で時間を確認するが昼には早い。
そのまま小部屋に突入する事になった。
転移の罠は部屋の扉が閉まると同時に発動する。
そのため俺は踏み込んで2~3歩歩いたら扉が閉まり転送されたのだ。
飯野さんが全員入るまで扉を抑えて、自分も入ると扉を閉める。
視界が暗転して跳ばされた感覚があった。
そして、俺達の目の前にあるのはボス部屋の扉だった。
「・・・たぶん42階だな。一応確認するぞ。」
天野さんが扉を開けたので、俺も中を覗き込む。
デカいスライムだ。
いや、スライムなんて可愛い物じゃない。
この距離で視認出来るなら、軽自動車より大きいはずだ。
部屋の中央にいるボスが消える。
「この階のボスでも一発かよ・・・。俺達でも結構てこずる相手だぞ・・・。」
消えたボスの所にいって魔石と宝箱を開ける。
今回の調査は怪盗の飯野さんがいるので、宝箱の罠も問題無く解除してもらえる。
いちいち熊手の釣り竿を使う必要が無いので凄く楽だ。
中から出てきたのは指輪のような物だ。
当りアイテムか?
田辺さんが手に取り小躍りしている。
そんなにいい物なのか?
「ありゃあ、魔力で水が出せる指輪だ。お前も一つは持っておいた方がいいぞ。いざという時に役立つ。ただ、飲めるが不味いから、その点だけは覚悟しとけ。」
指輪を見つめる俺に高山さんが忠告ともとれる説明をしてくれた。
・・・あれって高いのかな・・・。
「は~い!じゃあ、今回の調査はこれで終了よ。戻るから周りに来て!」
田辺さんが右手に白い石を持って声をあげる。
あの白い石は30階層以降の宝箱から手に入る使い捨てのマジックアイテムの帰還石だ。
使えば一瞬で地上に戻れる。
協会側は買い取っているが売りに出したりしない、レアアイテムだ。
「明日の昼からミーティングだから、忘れたりしないようにね!」
「分ってるって、ここまで来てサボって報酬引かれたりすんのは嫌だからな。」
天野さんの軽口が終わると同時に帰還石が発動し、半径1mくらいの部分が白い光に包まれる。
おっさんと密集しているので、腐敗臭と違う強烈な臭いがする。
俺は急いで防臭マスクをつけた。
光りが収まると俺達はダンジョンの入り口にいた。
成功か失敗かは分からないが、俺の初めてのダンジョン調査はこうして終了した。
感想有難う御座います。
調査員さんは、ヒロインではありません。
本日2本目の投稿をさせて頂きます。
有難う御座いました。




