夏休み前の珍事
翌日、俺は引越す事にした。
学校が終わると大石さんに部屋を借りる事を伝え、契約書の方も書いた。
礼金は無かったが敷金は2ヵ月分収める事になった。
家賃を2ヵ月分と合わせて支払い、家からカイムを使い荷物を運びこんだ。
こんな時アイテムボックスは便利だ。
舎宅には直接外から入れる入り口もあり、そちらも自衛隊の人で固められて要塞のような有様だ。
翌日、大輔を連れてきた。
「お前、何だよ、この警戒。刑務所みたいだぞ。さっき入り口にいた人自衛隊員だろ。銃持ってたぞ。」
俺もそう思ったが、コストパフォーマンスがいいんだよ。
初めは警戒の厳しさや窓が無いことに文句を言っていた大輔だが、部屋の設備の良さやALL電化には満更でもなさそうだった。
大輔が引越祝いに飯を奢ってやるという事なので遠慮なく肉をご馳走になった。
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そして、ついに明日から夏休みという日に事件は起こった。
加藤君がついに1000人切りを達成したのだ。
その日の朝、いつもはツヤツヤした顔で登校してくる加藤君が、
如何にも憔悴しきってますというような感じでフラフラ登校してきた。
俺達は関わり合いになりたくないのと、すぐ復活するだろうという事で放置していたのだが、一向に元に戻らなかった。
即座に逃げ出すため、HRが終わった瞬間にカバンを掴んで立ち上がったのだが、加藤君に捕捉されてしまった。
足の遅い加藤君が瞬間移動をしたように、立ち上がった俺の横にいたのだ。
無論、俺は大輔に声をかけ道連れを作った。
落ち込んだ加藤君は相談に乗って欲しいと俺と大輔を連れ出し、
近くのファミレスに行ったのだが、関係無い事ばかり話し一向に本題の相談事について話さない。
キレた俺が加藤君の襟首に掴みかかり、大輔がそれを止めたところで、ようやく相談したい事を話したのだ。
それが、冒頭で言った、加藤君の1000人切り達成の快挙だった。
彼の名誉のために言うが女性に告白して振られた人数のことだ。
決していかがわしい方の意味では無い。
ちょっと待てよ・・・俺が把握している限り彼の告白人数は10月の段階で約月15人。
10月の中くらい同学年を制覇し、そこから先輩に行ってるから、どう考えても数が合わない。
少なくとも12月の終わりまでは、そのままだったはずなので、去年の告白人数は150を超えていないはずだ。
そうなると、この7ヶ月くらいの俺達が目を離した隙に告白した事になる。
日数にして約210日、そして足りない人数は850人。
1日4~5人に告白していた事になる。
いくら奇跡の男だとしても、それは無理だろう。
ここから俺と大輔の尋問が始まった。
尋問とはいっても加藤君は相談したくて俺達に声をかけている。
始めは言い出し辛かったとしても、ある程度話した後なら彼は素直にしゃべった。
「僕が日焼けしていたのを覚えているかい?」
そう言えば、春休み明けに加藤君は謎の日焼けで真黒になっていた。
普段色白なだけに、嫌に目立っていた記憶がある。
「僕のおじさんから助言をもらってね。海外に行ってきたんだ。」
そこからの加藤君の話は笑撃的だった。
おじさんに南国の女性は恋に飢えていると吹きこまれた加藤君は春休みになると同時にパスポートを取得。
ハワイとグアムを1人で回ってきたのだ。
そして、7泊8日のお笑いツアーで1日平均100人の現地女性、旅行者に声をかけ撃沈されていた。
恐ろしいまでの行動力と攻撃的本能に言葉が出ない。
その後、加藤君と仲が良いというおじさんの写真を見せてもらった。
加藤君と瓜二つだ。
「ちなみに、助言してくれたおじさんは結婚してるの?」
「おじさんは自由人なんだ。結婚して欲しいって言われてるみたいだけど、自由じゃ無くなるのが嫌で断わってるって。」
俺と大輔は即座に理解した。
騙されてると・・・。
加藤君の話では昨日、記念すべき1000人目に告白し玉砕したのだそうだ。
そして、どうしていいか分からなくなってしまい俺達に相談したと言っている。
奇跡の人と言われたメンタルモンスターでも流石にちょっと考えたようだ。
「加藤君!加藤君は高橋に2度告白してるだろ!だから正確には999人じゃないか!」
もう多少強引でも、まだ1000人切りは未達成って事にしてしまおう。
俺の意図に気付いた大輔も畳み掛ける。
「そうだよ!まだ999人だ!記念すべき1000人目で成功すればいいんだろ!」
馬鹿!成功なんて言葉を出すな!
先送りでいいんだ!成功しないとまた同じ目にあうんだぞ!
「そう・・かな・・・。」
「そうだよ、加藤君!大輔の言う通り駄目なら次に全力を出せばいいんだ!ただ、次から告白する時は事前準備を整えてからの方がいいよね。」
「準備・・・?」
「そうだよ!ほら、ここに我が校の女神の1人を射止めた男がいるだろう!大輔に相談したら完璧だよ!」
俺が言い切ると加藤君から大輔には憧れの眼差しが、大輔から俺には殺意の籠った視線が投げかけられる。
その後、加藤君と別れた俺達はファミレスで罪のなすりつけ合いを行った。
「お前!どうすんだ!加藤君すっかりその気だぞ!」
「お前が成功するとか言うから悪いんだろ。誤魔化して告白させるな。それで皆が幸せになれる。」
「どうやって誤魔化すんだ。」
「日が悪いとか、天気が悪いとか何とでも言えるだろ。最悪、暑いからとか寒いからとかを使え。」
「くっそ・・・絶対お前も巻き込んでやるからな。」
残念だが俺は独り身だ。
加藤君は絶対、俺よりお前を頼りにするはずだ。
こうして俺達の波乱含みの夏休みが始まった。
誤字報告有難う御座います。
未だに頂いていますが、まだまだ隠れてそうで、本当に申し訳ないです。
本日3本目の投稿をさせて頂きます。
色々助けて頂いて有難う御座います。




