スケープゴート
4月8日、今日から俺は二年生だ。
そして、明日は入学式。
つまり、今日も明日も半日で学校が終わる。
うちの学校は3年への進級時にクラス替えがあるが2年への進級時はそのままだ。
だから、大輔達とも同じクラスだ。
約2週間ぶりにあった級友達は加藤君が真黒に日焼けしていた以外、普段と変わりなかった。
ちなみにカイムは自宅でパソコンにへばりついている。
買い与えた直後からパソコンに夢中で、高い買い物だったが爆弾が一緒にいない分、学校では俺の心には静寂が訪れた。
春休み後半はダラダラすごした。
思ったより疲れが溜まっていたようで、かなり寝てすごした気がする。
今日は久々に新宿ダンジョンに行く。
カイムは家から約束の時間までに新宿に行ってるはずだ。
ちゃんと家の窓を閉めているかだけが心配だ。
新宿駅から出て新宿ダンジョンまで歩いていると、カラスたちが矢印のようになって編隊飛行しているのが目についた。
嫌な予感がする・・・。
都庁まで地下通路で行こうとすると、矢印のような物が急に方向を変えこちらに突っ込んできた。
無駄に性能のあがった動体視力が先頭の影をとらえる。
カイムだ!
そして、その後ろの鳥はカラスだ!
どのくらいいるか分からない数の鳥が、俺めがけて突っ込んでくる様は恐怖しかない。
地下通路に逃げ込むと、一羽の鳥・・カイムだけが俺を追って来る。
『主、何故逃げる?』
全力疾走する俺の横を滑空しながら首を傾げ、カイムが聞いてきた。
辺りを見回し、カイムしかいないのを確認してスピードを緩める。
心臓がまだドキドキしている。
「あ、あの、カラス共は何だ!」
『儂の部下達だ。既にこの地は儂の支配下にある。』
それってカラスだけだよな・・・。
翼を広げ、褒めろとばかりに胸を張るカイム。
なんで、いちいちこいつはポーズを決めるんだ!
無言で歩きだす俺の頭にカイムがとまる。
加減はしているのだろうが、爪が食い込み地味に痛い。
前から歩いてくる通行人が驚きで立ち止まる。
あっ!こら!写メはやめろ!顔を写すんじゃない!!!
俺はダッシュで新宿ダンジョンへ駆け込んだ。
「・・・・というわけで酷い目にあいました。」
「あ~・・・本当ならペット枠といえど、従魔を独りで外に出して欲しく無いんだけど・・・。」
『ならば、儂が独りでここに入れるように取り計らえば良かろう。無能な小人よ。』
「う~ん・・・本当はあまりよく無いんだけど、窓の一つを開けといてあげるよ!それでいいだろ!」
『やれば出来るでは無いか、小人よ。今後も我が主のために励め。』
「ああ、うん!」
こいつは何で大石さんに対してだけ高圧的なんだ?
前世で敵同士だったとかあるのかよ。
『主も儂の主として、しっかりしてくれ。』
「う、うん。」
違った、俺に対しても偉そうだ。
この日はリハビリも込めて6階のボスを1度倒して帰ってきた。
家に帰ると親父が珍しく早くに帰って来ていて、夕飯を家族そろって食べた。
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4月9日、入学式が無事終わり、終わりのHRの時だ。
「菅原、お前はこのあと教務室へ来てくれ。話がある。」
今まさに帰ろうと腰を上げた俺に、高坂の一言が突き刺さる。
「直道、お前、何やったんだ?」
大輔が聞いてくるが心当たりは無い。
「宿題写したのがバレたとか・・・。」
それは無い。
筆跡鑑定されても書いたのは俺自身なのだ。
バレるはずが無い。
「俺もついてくわ。」
ビビりの大輔が付いてくると言い出した。
自白するんじゃねえぞ。
とはいえ、大輔は中に入る理由がないため、部屋の外で待ち、俺だけが高坂の元に行く。
「高坂先生、来ました。」
「ああ、ちょっと待ってくれ、これだけ終わらせるから・・・よし!」
よし!じゃねえ!!俺は忙しいんだ!さっさと要件言えやぁ!!!
「じゃあ、ちょっと、付いてきてくれ。」
立ち上がり、俺を先導する高坂。
折角入った教務室を抜け、校長室の前で立ち止まる。
視界の隅にいる大輔の顔色が悪い。
大丈夫だから、堂々としてろ!
「失礼します。高坂です。」
ドアをノックし返事を待たず、開けやがった。
ズカズカと中に入ったため、俺も仕方が無く後を追う。
ドアを閉められると目の前のソファーを勧められる。
目の前に校長と教頭、俺の横に高坂。
なんだ!この布陣は!!!
「実はまだ、公表されてないのだが、文部科学省から新たに冒険部の発足を打診されてる。」
「これは全国の高校に向けて行われており、主旨は優れた冒険者の育成を・・・・。」
校長と教頭が交互に話しかけてくる。
話しの流れが少しも途切れない。
凄いコンビネーションだ。
2人の話を要約すると以下の通りだ。
今後、国は冒険者の育成に力を入れるため、高校生の時分から教育を行って行きたい。
ただ、現段階ではそこまでするための設備や知識も劣っている。
10年後くらいには引退した冒険者を教員に招き、本格的にやっていきたいが今はまだ出来ない。
そのため、部活の一環としてまずは取り入れていきたい。
だから各高校は部活を発足させろ。
その代わり何か大会を開いて、いい成績を収められたら高校に予算くんでやるからな。
これを聞くと先生もサラリーマンと一緒だなと悲しくなってしまう。
「なんで、俺なんですか?」
「菅原はうちの高校で一番冒険者ランクが高いからな。それどころか全国的に見てもトップレベルだと聞いている。」
高坂の話を聞くとバッチリ協会から俺の個人情報が漏れているようだ。
だが、ハッキリ言って、そんな事に時間を使うのは嫌だ。
「すみません、残念ですが僕はその部活に参加できません。高ランクという事で分かると思いますが、
装備品等で出費が多く借金まみれなんです。頑張って返していかないと凄くマズイんです。」
「す、菅原・・・ち、ちなみに借金をしてるとは、いくらの借金なんだ?」
「現状で7000万ほどです。」
「な、7000万・・・。」
もちろん、借金なんて嘘だ。
思った通り金銭面までは伝わっていないようだ。
知力が上がってるせいか言い訳がスラスラ思いつくぞ。
「先生、僕よりいい人材がいますよ。」
「誰だね、それは。」
「加藤君です。」
「か、加藤か・・・う~ん。」
ここで加藤君に二度目のスケープゴートに成ってもらう。
もしかしたら女子部員と仲良くなれるかもと言えば、加藤君なら断らない。
砂漠の砂粒の中から一粒の砂金を探し当てる。
そんな奇跡的な可能性でも彼は動いてくれるはずだ。
「加藤君は僕より先に冒険者に成っています。しかも後衛職の魔法使いです。彼ならきっと間違い無いです。」
「う~ん・・・菅原君の事情は分かった。加藤君とやらと話してみよう。
ただ、戦闘職の冒険者は原則全員が冒険部の部員となってもらう。
無理強いするつもりは無いが、菅原君にも協力をお願いするよ。」
まぁ、ここら辺が引き際だろう。
「分かりました。あまり協力出来るとは思えませんが、加藤君は友達のひとりですし、出来る限り協力します。」
・・・こうして冒険部の初代部長に加藤君が就任する事になった。
まだ確定では無いが彼は間違いなく、部長になるだろう。
外で震えて待つ大輔にも早くこの朗報を伝えねば・・・。
税金の話に思ったより食いつく人が多いのに驚きです。
どこかで詳しくかいた方がいいんでしょうかね。
あまり期待しないで待っててください。
相変らずブックマークや評価の上がり方が早いです。
こんな小説に有難う御座います。
本日3本目の投稿をさせて頂きます。
有難う御座いました。




