カイムの力
4月1日、明日は両親が返ってくる日だ。
完全な自由を満喫できる日は今日が最後だ。
当初の予定では今日の夕方帰還し、買取を頼んで・・・そういえば魔石や宝箱から出たアイテムの買取をしてもらっていない・・・。
・・・少し悩んだが別にどうしても今、換金してもらう必要は無い。
俺は親を温泉旅行に送り出せるほどリッチだ。
これで彼女さえいれば完璧なのに・・・。
カイムを探すと今の机の上に座って俺のスマホをいじっていた。
何をしてるのかと後ろから覗き込むと、骨みたいな指でスマホを操作している。
目を細めて画面を見ると、俺のスマホで冒険者協会のHPを見ている。
「カイム、なにしてんだ?」
『敵対勢力の調査だ。』
即答されたがカイムの中では大石さんとの確執は深いようだ。
「地上で暴れるなよ!」
『儂を野蛮人と一緒にするな。主に言われた事は守る。』
尚もスマホをいじろうとするカイムからスマホを取り上げ、大輔にメールをする。
メールの内容は、宿題終わったか?だ。
以前の大輔ならあり得ない話だが、バックに宮沢さんが付いたニュー大輔なら終わらせている可能性は高い。
読書感想文以外は終わったと返事が返って来たので、今日は宿題を写しに行く事にした。
今日、新宿ダンジョンに行かないのは、未だ興奮気味なカイムを小さいおっさんに近づけたくなかったからだ。
決して101階の報告をしていなかった事が後ろめたいためでは無い。
留守番してると言い出す事を期待したが、カイムも付いてくると言っている。
左肩にとまり爪を喰い込ませるため、背伸びして買った高いコートがボロボロだ、
今後は鷹匠のごとく腕にとまらせるようにした方がいい気がしてきた。
「いいか、これから俺は宿題を写しに友達の家に行くんだ。いいか、友達の家だからな。絶対暴れるなよ。」
素直に頷くカイムを見るが鳥のため、表情が分からない。
黙ってたら、ただの九官鳥で通るのに・・・。
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大輔の家に電撃訪問すると、家には大輔1人だった。
玄関先で出迎えた大輔が開口一番何しにきたと言ったが、分かってて言うこいつはやはり馬鹿だと思う。
「また俺も写すのかよ・・・。」
良く分かってるじゃないか、親友!
俺の肩にとまるカイムに視線が釘付けだが、あとで紹介してやるから早く家にあげろ。
大輔の部屋のドアを開けると中に閉じ込められていた、茶色い塊が飛び出しきた。
三沢家のペットの豆シバのコロちゃんだ。
俺にもよく馴れていて、俺が来るとじゃれついてくるのだ。
足元でワンワン吠えながら飛びつくコロちゃんをいなして部屋の中に入る。
以前は足の踏み場もないような部屋だったのが、妙にスッキリ整理されている。
宮沢さんを部屋にあげるための準備か・・。
「お前の部屋って前からこんなに綺麗だったか?」
「当たり前だろ!・・・直道、何が言いたい!」
「それならいいんだ。俺はまた、宮沢さんを部屋にいつ呼んでもいいように掃除してるのかと邪推してしまってなぁ・・・。」
俺の一言に大輔が視線を外す。
まさか・・・こいつ・・・。
「てめぇえぇええ!!まさか、揉んだのか!!!揉んだんだなぁあぁああ!!!!」
「お、落ち着け直道。俺は揉んでいない。そして宮沢さんは既に何度かうちに来ているし、俺もお邪魔している。」
こいつ、いつの間に家族公認の仲になりやがった!!!
俺が襟首をつかもうと奮戦するが、まだこの脳筋戦士の方が力が強い。
戦士の職業スキル、筋力強化がいい仕事をしているのだ。
『主よ、さっさと紹介してくれ。』
カイムの一言に俺の腕を掴んでいた大輔の動きが止まる。
ちくしょおぉおお!!!ビクともしねぇえぇええ!!!
「な、直道、今しゃべったのって、その鳥か?」
「そうだ!俺の従魔のカイムだ!カイム、大輔とコロちゃんだ。人間の方が大輔だからな。」
『見ていたら分かる。主の友人と聞いている。儂はカイムだ。』
「えっ・・・と・・・三沢大輔です。はじめまして。」
『うむ。』
騒乱の自己紹介の後、俺は大輔に部屋に投げ込まれた。
今は顔を突き合わせ、宿題を写している。
ちなみに大輔の担当は数学で、それ以外が俺だ。
俺が光の速度で手を動かしていると、大輔がチラチラとカイムを見て何か言いたそうにしている。
集中しろ!!!このエロガッパがぁあ!!
ぐおぉおぉおおお!!!!!光りを超えろ!!俺の右手よぉお!!!!!
右腕が痙攣しかけた頃にようやく俺も大輔も写し終えた。
数学1教科で俺と同着とは何してやがる!!!
「なぁ・・・ちょっと、聞いていいか?・・・カイム・・さんって何なの?」
恐る恐るという感じで大輔が聞いてきた。
本当の事を教えたらビビりそうだな、こいつ・・・。
「見て分からないか!カイムはしゃべれる黒い鳥!つまり九官鳥だ!」
「いや、それって無理があるだろ。九官鳥はこんな頭良くないだろ。」
「馬鹿め、従魔と言っただろ。ダンジョン産だ。普通とは違う!」
俺があまりにも自信満々に言った物だから、大輔も首を傾げながら渋々納得した。
俺も理解出来て無いのに説明出来るはずないだろ。
おとなしく諦めろ!
『主よ、そのコロといった犬だがなぁ・・・。』
「コロちゃんだ。ちゃんまでで名前だから間違うなよ。」
『う、うむ、そのコロちゃんだが、自分はアレクサンダージュニアだと言ってるが、どっちが本当だ?』
えっ!どういうこと?
「意味が分からんが、お前、コロちゃんと話せるのか?」
『話せるな。』
「ホントに?」
『嘘をついて何になる。』
「アレクサンダージュニア?」
『うむ、アレクサンダージュニアだ。』
俺は大輔を見る。
なんで、こんな可愛らしいコロちゃんが、どこぞの大王みたいな名前なんだよ。
「い、いや、俺は知らんぞ。コロはコロだ。うちでは皆コロって呼んでるぞ。」
春休みの宿題は〈読書感想文を除き〉終わったが、ここに一つの謎が残った。
解き明かせるかどうかは大輔次第だろう。
「いや、ちょっとカイムさんに聞いてもらってくれよ。気持ち悪いだろ。」
泣いて頼む大輔にめんじてカイムに聞き取り調査をさせると、
どうやら三沢家にくる前の、生まれた時にブリーダーさんに付けられた名前だという事が判明した。
金髪の大きな男だという事なので外人さんのブリーダーのようだ。
謎は全て解けた!
だから何なんだよって話だが、この件でカイムの不思議な力が明らかになった。
少なくとも犬と話せる。
心のメモに書いておこう。
ダラダラ書いていたら、ちょっと長くなってしまいました。
皆さんの応援のお陰で、信じられないですが、まだ日間1位にいます。
恐れ多くて萎縮してますが、頑張って続けて行こうと思います。
本日3本目の投稿をさせて頂きます。
有難う御座いました。




