竜宮城
「なぁ、カイムってなんなん?カラスか?」
翌日9時過ぎに起きた俺は遅い朝食をとりながら、部屋の中をトコトコ歩きまわっているカイムに聞いてみた。
『主よ、いくら何でもそれは少し礼を欠く言葉だな。そもそも儂は・・・。』
俺の軽い気持ちの一言にカイムの話しが止まらない。
ようやく、話が終わった時は既に昼にさしかかる時間になっていた。
カイムの話を纏めると、カイムはとっても偉い悪魔で、ここにいたのはカイムの力を借りたい者に試練を与えるためだそうだ。
何故、そんな事をしているのかカイム自身分かっておらず、魂の情報がどうとか小難しい事を言い出したので俺は聞くのを止めた。
悪魔と聞いて契約で魂を取られるのかと慌てたが、悪魔ごとにそれは違っており、カイムの場合も違うらしい。
らしいというのは違うとは言えても、それが何かを伝える事が出来ないからだそうだ。
よく分からないのだが、俺がそれを見破ったらカイムへの支払いを踏み倒せるらしい。
遅めの朝食だったせいで、まだお腹が減らない。
なので先に脱出の件についてカイムと相談した。
「なぁ、カイム、ここってダンジョンのどの辺りなんだ?外に出るにはどうするか知ってるか?俺、そろそろ帰りたいんだけど・・・。」
『ここはダンジョンの101階の隠し部屋だ。外に出たければ王座の前にある転送の魔法陣に魔力を流せば好きなところに行けるが、どこに行きたいのだ?』
101階と聞いて俺は顔を引き攣らせた。
小さいおっさんが新宿ダンジョンの最高到達階層は55階だとか言ってた気がする。
いくら何でも流石に倍はマズイだろ。
それに隠し部屋ってなんだよ。
だから扉が無いのかよ。
「なぁ、それって地上にも出れるのか?」
『特殊な場所以外はいける。特殊な場所とは一例をあげると100階のダンジョンコアの置かれてる部屋等は・・・・。』
カイムの話がまた止まらない。
何が引き金になるのか分からないが、随分口が軽い。
ペラペラ話すカイムに対して聞いている振りで対抗する俺。
どこにでも行けるなら31階のゾンビを見に行くべきだろうか。
現在の状況がかなり特殊なのは、いくら俺でも理解出来る。
たしか、小さいおっさんが何かあった際は必ず報告するようにと言っていたような気もする。
だが、優先しろとは言っていなかった気がする。
優先しなくていいなら、俺の好きに行動してもいいはずだ。
帰る際にちょっと寄って報告すればいいんじゃないかな。
『・・・という訳で、この部屋は外の世界と時間の流れが異なる。この点については・・・。』
「ちょっと、待ったぁあぁああ!!!!!」
時間の流れが異なるだと、どういうことだそれは!
「い、今の地上の時間は分かるのか?」
『先ほど言ったように、分からん。これは・・・・。』
「待て!!!カイム!!ストップ!ストップだ!!」
これはマズイ気がする。
「カイム!今すぐ帰るぞ!」
俺は荷物をまとめると、有無を言わさず地上に転移した。
「あれ?・・・直道君、もう戻ったの?」
地上に戻るといつもの定位置に小さなおっさんがいた。
「大石さん!今日って何日ですか?」
「ん?スマホの充電切れちゃったの?だからあれほど、自動巻きの時計を買っておいたほうがいいって言っただろ!
今日は3月30日だよ!随分早くに戻ったんだね!途中で負けそうになっちゃった?」
『たかが小人の分際で、儂の主を愚弄するとはいい度胸だな!』
小さいおっさんの軽口にカイムがキレた。
左肩にとまっていたのが滑空し、小さなおっさんのいる机の上に着地したら、腰のボールペンを引き抜いた。
いや、あれって剣だ!
っていうか、翼の先から鳥の足みたいなのが出て剣を掴んでる!
眼前で衝撃的な映像が展開されている。
剣を振り回す鳥と小さい小太りのおっさんの追いかけっこだ。
昔の猫とネズミの追いかけっこのアニメを彷彿とさせる動きだ。
「カイム!やめろ!戻ってこい!」
『命拾いしたな!主が止めねば貴様の命はここまでだったぞ!』
何がこいつの忠誠心を呼び覚ましたのかさっぱり分からないが、一段と扱い辛さが増したのは確かだ。
「な、直道君、その鳥って!・・・」
「ダンジョンから付いてきちゃいました。」
「て、テイムしたのかい?」
『契約したのだ!愚かな小人め!儂の名はカイムだ!』
どうやら大石さんとカイムの相性は最悪に近いようだ。
ここで、あの気色の悪い巨人とか召喚しないだろうな。
「カイムを外に連れてっても平気ですか?・・・っていうか置いておいても付いてきそうなんですけど・・・。」
「い、一応、テイマーって、魔物をテイムし戦わせる事が出来る職業があるんだけど、
彼らの中でペット枠で獣系の魔物を連れ歩く人はいるから、出来ると言えば出来るけど・・・。」
『やれ!対価は貴様の命だと知れ!』
「こら、カイム。そんな口聞いちゃ駄目だろ。すみません大石さん。」
「う、うん、大丈夫だよ!それにしても完全に意志疎通が出来るんだね!」
『儂を他のゴミ共と一緒にするな!無礼な小人め!』
「こ、こら!すみません大石さん、後で良く言って聞かせます。
それと、そのペット枠の魔物の手続きとかって、どうやれば出来るんですか?日数かかったりします?」
「うん、僕は平気だから気にしないで!手続きは書類出して登録すればいいだけだし、
仮登録は僕で出来るから問題無いよ!ただ、登録した魔物が外で何かした際の責任は直道君に取ってもらう事になるけど!」
「俺って未成年ですけど。」
「冒険者だから関係無いよ!最悪、何年も借金漬けになっちゃうけど・・・どうする?」
嫌だと言ってもこいつはついてくるだろう。
暴れないように良く言い聞かせておかないと・・・。
「いいか、カイム。お前が外で暴れたりしたら、俺が全ての責任を負う事になるんだからな。俺の許可なく攻撃したりするなよ。」
『前向きに検討しよう。』
なんだろう、これが底無し沼にハマった時の気持ちなんだろうか・・・。
抜け出せる気がしないし、いつか顔まで埋まりそうだ。
「いいか、絶対だからな!!!」
『う、うむ、承知した。』
頼むぞ!俺を借金王にするんじゃないぞ。
「直道君、書類だけど今いいかい?」
「すみません、ちょっと疲れてまして・・・ひと眠りしてからでいいですか?4月1日までここにいますので。」
「僕はいいけど、仮登録してない状態で外に連れてったら庇えないよ!それだけはちゃんと覚えててね!」
俺はカイムを連れて部屋に戻り、シャワーを浴びて爆睡してしまった。
今日は色々ありすぎて、もうキャパオーバーだ。
おはようございます。
相変わらず応援して頂き、有難う御座います。
温かい心づかいのこもった感想や誤字報告で助けて頂き、感謝が絶えません。
行けるところまでは今のままで行くつもりですので、生暖かい目で見守っていて下さい。
有難う御座いました。




