そして春休みへ
3月25日、今日は3学期の最後の日、終業式だ。
明日から4月7日までの約2週間が春休みだ。
両親は冒険者にもなれてお金も稼げるようになったから、親孝行させて欲しいと言って、明日から1週間の温泉旅行をプレゼントしてある。
そのため俺は明日から自由の身なのだ!
ここまで約3ヶ月、俺は毎日、単純作業のようなボス戦を繰り返し、準備を整えていた。
小さいおっさんの口車にのり、次々と装備や道具を購入し、その度に借金に追われたのは、今ではいい思い出である。
それも全て、明日から行うダンジョンアタックのため、ひいては短期間で荒稼ぎできるようになり、俺の怠惰に生きる栄光の未来を支えるための投資だ。
学校が終わると、俺は新宿ダンジョンにすっ飛んで行った。
今日、明日から行うダンジョンアタックのための最後のピースが届くためだ。
「大石さん、もう届いてる?」
「僕が申請したんだよ!そんなに焦らなくても届いてるよ!」
今日、届く物、それは所謂マジックバックという謎空間に物を収納出来る不思議バックの事だ。
これは、密輸防止のため、厳しい審査を通った上位の冒険者以外は全て国で買い取り管理されている。
そのため、使いたい冒険者は申請を出し、その申請に通って初めて貸し出されるとうものなのだ。
おまけに保証金を積む必要があり、準備期間の3ヶ月のうち1ヵ月はその保証金のために潜っていたようなものだ。
俺に貸し出しが許可されたものは10×10×10mの不思議空間を持つバックだ。
マジックバックとしての性能は高くは無いが、それは俺の冒険者としての信用度が低いせいでもある。
「大切に扱ってよ!これでも裏に出たら天井知らずの値段なんだからね!」
今まで買いためておいた食料や飲料水、着替えなどをマジックバックに放り込む俺に、小さいおっさんが年長者らしく注意を促す。
借りたマジックバックは背負ってつかうリュックタイプだ。
たいして大きいわけでは無いリュックの口に、それより大きい品々が次々と収まるのは手品みたいで面白い。
「ほら、これも持って行くといいよ!僕からの激励品だ!」
そう言って小さいおっさんが渡してきたのは組み立てられていない段ボール箱と麻袋の山だ。
「ダンジョンで手に入れたものを仕分けるのにあると便利なんだよ!この状態なら荷物にならないからね!」
首を傾げる俺に大石さんが説明してくれたので納得し、有難く持って行く事にする。
「それと・・・これもだ!」
小さいおっさんがそっと出してきたノートを受け取り、パラパラめくる。
これって、初日にもらったのと同じダンジョンの地図だ!
・・・49階層まで書いてある。
「僕はその49階層までしか行けなかった!直道君なら僕を超えてくれると信じてる!」
・・・いや、そこまで潜るつもりは無いんだけど・・・。
元々、今回のダンジョンアタックでの目標は31階層だ。
理由は、その階層にいるゾンビが見たいからだ。
たいして強く無いのに映画で主役を張れるゾンビをちらっと見て帰ってくるつもりだったのだ。
途中にボス部屋が10もあるのだ。
行って帰ってくるだけで利益は相当なものになる。
行きで5日、帰りは探索無しで2日と見ていたのだが、この小さなおっさんは何か勘違いしているようだ。
「今の最高到達階層は55階だ!直道君ならきっとそれも超えられる!何故なら君は・・・・・・。」
黙り込む俺に何か勘違いした大石さんが語りだす。
別にもらっておいて損はしないから、有難くこれも頂戴しておこう。
「じゃあ、大石さん。明日来ますんで、部屋の戸締りお願いしますね。」
虚空にむかって身振り手振りを交えて語る小さなおっさんを残し、俺は自宅に帰った。
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翌日、両親を送り出した俺は、家にガッチリ鍵をかけ、新宿ダンジョンにむかった。
小さなおっさんも朝からテンション高く、俺を迎えてくれた。
大石さんのメモは確かに役に立った。
迷路の地図もほぼ完ぺきだったため、俺はボス部屋に歩いて行く間に通路に落ちている魔石を拾い、ボス部屋では魔石を拾うのと宝箱を開けるのが仕事になった。
ボス部屋からボス部屋までは真直ぐ走れば1時間、歩けば3時間という距離だ。
9階層までは走り抜け、9階層のボスを倒したところで昼飯にした。
ちなみに、この部屋のボスは大ムカデだった。
全長15mほどのムカデは気色悪く、他の部屋のボスと同様に部屋の中央にいたが、左右にある細かい脚がワシャワシャ動く様子は鳥肌が立った。
この階から特製の宝箱を開ける道具を使う。
道具と言っても頑丈な釣り竿のようなもので、先端に付いている鉤爪で離れた位置から宝箱を開けるための道具だ。
これには大石さんから、煙が見えたら全力で宝箱から離れろ、爆発したら諦めろと有難い言葉を頂いている。
今のところ、煙も爆発も無いが続ける限りいつか遭遇することになるだろう。
昼休憩後、復活した大ムカデを倒し先に進む。
大ムカデの宝箱から出たのはどちらも黒い液体の入った瓶だ。
見るからに体に良くなさそうな色をしているので、きっとろくでもない物だろう。
そして、それは25階で起きた出来事だった。
調子よく24階のボスを倒した俺は25階層へ踏み込んだ。
そして26階層への道を進んでいると、左の通路の先に赤い何かが見えた。
灰色一色のこのダンジョンで赤い色は目立つ。
初めは魔物かと思ったが、目を凝らすと箱に見える。
急いで近づくとそれは豪華な宝箱だった。
いや、豪華かどうかは人それぞれだが、今まで見てきた宝箱より、宝箱に見える。
皆が宝箱といえばこれ。と言うような宝箱なのだ。
そして、初めて見つけた宝箱に俺はテンションがあがり、そのまま開けてしまった。
次の瞬間、目の前が歪み気が付くと俺はだだっ広い部屋の中にいた。
「どこ、ここ?」
こうして俺の、新宿ダンジョンでゾンビを見よう計画の1日目が終わった。
誤字を教えて頂き有難う御座います。
凄く助かります。
昨日、浮かれて祝杯をあげた結果、投稿予約を忘れるという醜態をさらしましたが、長い目で見て頂けると有難いです。
本日2本目の投稿をさせて頂きます。
有難う御座いました。




