初めてのダンジョン攻略
4時間後俺は中央奥の左に曲がった分岐路に戻って来ていた。
2分の1の確率を見事に外し、凱旋したのである。
左に曲がって1時間、徐々に増えるラミアの襲撃に俺は小部屋での狩りを選択した。
タイマーを使って1時間、周りのラミアを狩り尽くし更に奥にむかう。
そして訪れる絶望と残酷な事実。
俺は元来た道を引き返し、今に至る。
時計を見ると時間は夕方の5時だ。
8時まで探索を行うとしても3時間ある。
俺は正解のはずの石畳を進み始めた。
進み始めること1時間、俺の目の前には下に降りる階段と小部屋に続く扉が見える。
本来なら、ここで休息を取って明日の朝に階段を降るのが正しい行動だろう。
だが、この時の俺は何故かテンションアゲアゲだった。
見つけた小部屋を確かめると、何の迷いも無く階段を降りた。
この時の俺の行動を説明する事は難しい。
あえて説明するとしたら、何も考えていなかっただ。
9階層は前半部はラミアで後半部は大サソリだ。
大サソリは体長3mくらいのサソリで毒持ちだ。
この時のために俺は高価な解毒のポーションを3つも持って来ている。
ちなみに解毒のポーションは1本10万円だ。
どんな毒でも直せるので各国の軍隊が毎月一定量を確保しており、そのために高いのだ。
同じ理由で他のポーション類もかなり高い。
ラミアはもう物の数ではない。
俺は8階と同じように中央の道を真直ぐ奥にむかって歩く。
そして1時間ほど歩いて目的の小部屋を発見すると、この日最後のタイマーを仕掛ける。
小部屋に入り念のためにするようになった、ドアストッパーを扉にかまして耐熱シートを広げる。
時計を見ると7時半にちかくなっているので夕食の菓子パンをかじりコーヒーで流し込む。
扉の外からはガサガサと聞きなれない音がするので、これは大サソリだろう。
音が聞こえなくなってから更に30分待って扉をあけると魔石が山になっていた。
全て拾い集めて小部屋に戻ると寝る準備をはじめた。
横になるのではなく、扉に背中をあずけて座る様に寝るのだ。
パーティーを組んでいたら見張りを残すのだろうが、俺は独りだ。
小部屋に使い捨ての簡易トイレを設置し用を足すと、ウトウトし始めた。
疲れていたようで横になったら、すぐに寝てしまった。
目が覚め、時計を確認すると朝の7時だ。
寝たのが9時か10時なので9~10時間寝ている事になる。
疲れが抜けて冷静になると、よく襲われなかったと恐怖の感情が出てくるが、今更悔やんでも仕方は無い。
次はどうするか考えよう。
朝食のカコリーメイトをかじりながら扉の外を確認すると魔石がいくつか散らばっている。
拾い集めて小部屋に戻り出発の準備をしながらステータスを確かめる。
名前:菅原直道 Lv26→28
年齢:16
職業:呪殺師 Lv8→9
称号:
HP:171→186
MP:190→204
攻撃力:15→16
防御力:9→10
精神力:26→28
素早さ:16→17
知力 :5
器用 :14→15
運 :26→28
職業スキル
呪殺Lv4
スキル
やはり下の階の魔物であればあるほど経験値が美味しい。
たった1日で2つもレベルがあがっている。
俺は逸る気持ちを抑えながら出発準備を整える。
部屋を出て奥に歩くも、いつものように狩り尽くしたのか辺りに魔物はいない。
そして、トボトボと歩いていると珍しい光景に出くわした。
大サソリ同士の喧嘩だ。
理由は分からないが二匹の大サソリが戦っている。
尾の毒針は使わないが二つのハサミでお互い相手を挟もうとして揉み合っている。
ガチャガチャと静かな戦いだが体長が3mもあるようなモノ達の戦いであるため迫力はある。
隠れて見ていると片方が死んだのかスゥっと消える。
勝った方はハサミを上に振り上げ、誇らしげに体を震わせていた。
あまりにも無邪気な喜び方に沸き上がる笑いを堪える。
まるで、モン〇ンのダイ〇ョウサザミのようだと思っていると、体を震わせたままそいつもスゥっと消えた。
・・・どうやら俺のスキルの射程にはいっていたようだ・・・。
虚しい喧嘩跡に残る2つの魔石を拾い先に進む。
何匹かの大サソリを倒し、最奥に到達すると幸運な事にすぐに階段を発見できた。
時計を見るとまだ9時すぎだ。
そのまま階段を降りてダンジョンボスの部屋の前まで来た。
五反田ダンジョンの10階はダンジョンボスの部屋とダンジョンコアのある部屋だけだ。
ボスを倒すとダンジョンコアのある部屋に入れる。
そして、このボスは五反田ダンジョンで唯一宝箱を落とす魔物だ。
ただ、入っているのは使い捨ての魔道具で、たいしたものでは無いのだが、俺にとっては初めて魔道具と呼ばれる物を手に入れるチャンスだ。
興奮を隠せないまま鼻息荒くダンジョンボスの豪華な扉に手をかけ開ける。
中は円形闘技場の様に丸くなっており、客席は無いがその中央にボスであるトロールがいた。
五反田ダンジョンのボスはトロール(青)と呼ばれるトロールの中では一番弱い種類のトロールだ。
弱いといっても身長は5m前後あり、電柱の様な棍棒を持っている。
おまけにトロールは回復能力を持っており、一定間隔で自身のHPを回復する。
俺の能力とは真逆の正に俺対策の能力ともいえる。
今回、五反田ダンジョンのボスに挑もうと思ったのは、再生能力持ちの魔物にも俺のスキルが通用するか試す意味でもあった。
それにしても、部屋に踏み込まないとボスが襲ってこないのはダンジョンの七不思議の一つだ。
確実に目が合っている状態なのに、部屋に入るまでは仁王立ちしているだけなのだ。
俺がそんな事を考えていると不意にトロールが消えた。
死んだのかと思い目を凝らすと宝箱なのか小さな木の箱が見える。
恐る恐る部屋に入り後ろで閉まった扉を押すと、なんの抵抗も無く開いた。
どうやらトロール(青)は死んだらしい。
急いでトロール(青)がいた場所に行くと、汚く小さい木の箱と魔石が落ちていた。
魔石はいままでの魔物と違いピンポン玉くらいある丸い魔石だ。
木箱を開けると中に、これまた汚い羊皮紙が一枚入っていた。
どんなに汚くてもこれはマジックアイテムの類だ。
俺が羊皮紙を取り出すと、宝箱が空気に溶け込むように消えた。
ダンジョンの宝箱は中身を取り出すか、その宝箱のあった階層を超えると消えるのだ。
とは言っても、あんな小汚い木の箱を持ち帰りたいとは思わないが・・・。
俺はマジックアイテムの羊皮紙を落とさぬように、しっかりポケットに突っ込み奥の扉を目指した。
扉を開けると真直ぐな通路が10mほど続いており、突き当りに赤い扉がある。
今までは色付きの扉など無かったので少し新鮮だ。
ドキドキしながら扉を開けると小さな部屋で、中央に台座があり、その上にピカピカ光る水晶の玉のような物が乗っている。
ダンジョンコアだ。
本当にダンジョンを管理しているのか分からないが、これに触ると地上に強制送還される不思議な玉だ。
初めて生で見るダンジョンコアに興奮し、スマホで写メを取りまくる。
当然、自撮り棒も持って来ているので俺も一緒に写真にうつる。
夢中で撮影していると、俺の肘がダンジョンコアに当たる。
「あっ!」
視界が暗転し俺は五反田ダンジョン前にテレポートされた。
大勢の冒険者がいる中、自撮り棒を構えピースサインでドヤ顔したままの俺がいる。
一瞬の静寂の後、ガヤガヤと騒がしくなり、次に笑い声が響き渡る。
その中を赤い顔した俺が冒険者協会の人に連行されて行った。
『ご利用は計画的に。』自撮り棒に書かれたその言葉の意味を今ハッキリと理解した。
皆さんのお陰で日間13位に顔を出せました。
有難う御座います。
調子にのって本日2本目の投稿です。