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「ブ、ブランカ!?」

 アドラーがベッドに駆け寄り、ブランカの額に手を当てる。

 風呂なら足を引っ込める程の高温だった。


 森の魔女マレフィカとヒーラーのリューリアが容態を見て、女神のバスティも人型になって世話をする。


「マレフィカ、ちょっと」

 アドラーは知識のある魔女を呼んだ。


「これ、伝染病だったりするかな?」

 感染する病なら大事、しばらく前になるがギルドは熱病が流行するリザード族の村へ行った。


「いや、それはなかろう。こんな高熱、人や二足種族では耐えれない」

 マレフィカは冷静に答えた。


 頭に乗せても直ぐに乾くタオルを絞りながら、リューリアがいう。


「これ、普通の病気ではないわね。どの祈りも治癒魔法も何の反応もないの。竜族の病気なんて分からないし……」


 バスティも付け加えた。

「体内から、凄い力が漏れ出してるにゃ。主神級のやつでも、介入出来るかどうか……」


「ブランカ?」

「うー、だんちょー、暑いよー。喉が乾いたー」


 アドラーが話しかけると、ブランカはしっかりと答える。

 五十度近い熱の中でも意識があるのは、流石ドラゴンとしか言いようがない。


「よ、よし、水を飲むか? 果汁がいいか?」

「果物が良い……」


 ダルタスが大きな器一杯に、搾りたての果汁を持ってくる。

 オークの力をいかして、先程から何十という果物を握り潰していた。


 アドラーは、枕元で病人の手を握るミュスレアを見た。

 二人の目が合うと、一度ブランカを見てから何も言わずに頷く。


「ここは任せるわね」

 ミュスレアが妹に頼んで部屋を出ると、アドラーも続く。

 何をするべきか、もう決まっていた。


「どうするの?」と、ミュスレアが聞いた。

 これからでなく、方法を尋ねたのだった。


「背負っていく」

「誰にする?」

 これは他に誰を連れて行くか聞いたもの。


「一人が一番速い」

「リューリア達の足では無理ね。わたしも行くわ、三日くらい寝なくても平気よ」


「バスティも連れて行こう。ブランカの婆さんの居場所は、あいつが探知出来る」


 アドラーは、ブランカを背負ってオーロス山――遥か東にそびえる大陸の最高峰――まで行くつもりだった。

 そこには、この大陸の守護竜にしてブランカの祖母がいる。


「ドリーは?」

「どうせ森を越える、今回は使えないな」


 歴戦の冒険者の二人は、喋りながらも手早く確実に準備を整える。


「俺も行こう。あの子を背負うくらいなんでもない」

「わたしも行くよ、ほうきで付いてく。目があったほうが良いだろう? それに成竜も見てみたい」


 ダルタスとマレフィカも申し出た。

 アドラーは、少しだけ考えてマレフィカだけ同行させる事にした。


「夜道も走る、空から警戒してくれ。ダルタスお前は残れ、キャルルとリューリアを頼む」


「了解した」

 身長230センチを超えるオークは、アドラーの命令に忠実で頼りになる。


 キャルルも妹のように可愛がるブランカに付いて行くことを望んだが、無理は言わずに諦める。

 アドラーとミュスレアは、ほぼ不眠不休で走り通すつもりのだ。


 それを可能にするのは、アドラーがこの世界に来た時に授かった<<特殊強化・特大>>。


 己の指揮下、信頼を寄せる部下を攻防力共に三倍まで強化する破格の性能を持つ。

 身体能力や反応速度に、体力まで格段に引き上げる事が出来るアドラーの固有魔法。


「さあ行こう。ブランカ、しっかり掴まれよ」


 アドラーが毛布に包んだブランカを背中に縛る。

 帰宅から僅かに一時間余り、冒険者の準備と旅立ちは素早いのだ……。



 ――それから五日後。


「どーいうことだよっ!?」

 キャルルは激怒した。


「無事に戻ったんだから良いじゃないの。おかえりブランカ、よしよし」

 リューリアは竜の娘を抱きしめる。


 だがキャルルは収まらない。

「それは良いの! けどね、おいブランカ、ちょっと来い!」


 キャルルとブランカが並んで立った。


「なんでボクより背が高くなってんのさ!?」

 ブランカは、一気に十センチ近く伸びていた。



 三日三晩の八割以上を使い、常人なら二十日はかかる道と山をアドラーは走破した。


 転がり込んだアドラー達を見た白金羽衣竜(プラチナフェザードラゴン) ――ブランカの祖母――は、何事もなく言った。


「成長熱だねえ。これ孫よ、お前も分かってたんだろ?」

「う、うん……。たぶんそーかなーって思ったけど、みんなが優しくしてくれるからつい……」


 竜は、脱皮などしない。

 下等な爬虫類とは違うのだ。


 溜め込んだエネルギーを使い、時が来れば爆発的に成長する。

 このところ食糧事情のよいブランカは一気に大きくなった。


「なんだ、良かったー……」

 ミュスレアはその場にへたり込む。

 彼女でもきつい旅路だった。


「……本気で心配したんだぞ? ほら、降りろ」


 アドラーが背中を揺すると、ブランカが飛び降りて小さく「ごめんなさい」といった。


 好奇心の塊のマレフィカは興奮していた。

 これほどの存在を見るのは初めてで、聞きたい事が沢山ある。


「変だと思ったにゃ」

 バスティは、神にも匹敵する祖竜の甘えに呆れ顔。


「何やら、ご迷惑をかけたようで申し訳ない……」

 白金竜も困り顔だったが、久しぶりに孫と会えて嬉しそうであった。


「あのね、お祖母様! あたしね、アドラーやみんなとね!」とブランカがここ数ヶ月の出来事を話し始める。

 彼女にとって、信じられないほど多くの事があった時間を。


 アドラー達は一晩泊まり、翌日はワイバーンに乗って帰ってきた。


 お礼とお土産にと、白金竜は自身の羽や涙、角や爪を削って持たせた。

 マレフィカは大興奮で喜び、この素材はいずれギルドの貴重な武具に変わる。



 そして、ブランカは一回り強くなった。


「だんちょー、あれ倒すのか?」

 牛頭魔人(ミノタウロス)の群れを、ブランカが指さす。


「そうだな、気をつけろよ。強いぞ」

 アドラーが許可した。


 無人島のダンジョンに潜ったギルドからの救援依頼に、”太陽を掴む鷲”が緊急で駆り出された。


 ここ百年は報告のない、強大な牛頭魔人(ミノタウロス)の群れが出現していた。


 先に潜っていた二十名の冒険者は、盾と槍で身を守り逃げ回るのが精一杯。

 当然だが、冒険者殺しとも呼ばれるミノタウロスは一人で相手出来るものではない。


「だ、駄目ですよ!」

「助けに来てくれたのは嬉しいですけど!」

「早く逃げましょう!」


 二十名の冒険者が口々に悲鳴をあげる中、ブランカが単身で突っ込んだ。


「んもー!」とミノタウロスが鳴き声をあげる。

 身長は四メートル、体重五百キロを超える魔物が次々と吹き飛ぶ。


 成長してさらにアドラーの強化魔法をかけられたブランカは無敵の強さ。


「団長、俺も行ってくる」

「おお、いけいけ。ただし追うなよ。逃してやれ」


 オークのダルタスも進み出る。

 二十名の冒険者は、人類史上で初めてミノタウロスが群れ敗走する場面を見た。


「あの、ありがとうございます。お名前を、何処の団か教えていただけますか?」

 助けられた団の団長がアドラーに尋ねた。


「”太陽を掴む鷲”だ。あっちの小さいのがブランカ、大きいのがダルタス。俺が団長のアドラー」

「ああっ! やっぱり! 噂通りめちゃく……失礼、破格の強さですね!」


 一時は潰れかけだったアドラーの団は、今では広く名前が通っていた。

 曰く。


『命が惜しいなら入るな』

『入団試験でドラゴンと戦うらしい』

『戦争で捕らえたオークの奴隷がいるらしい』

『弱いやつは人体実験の標本にされる』


 今もって、アドラーのところに入団希望者は来ない。

 僅か七人と一匹で、通常は三十人編成で参加する大イベント”ギルド対抗戦”に挑む。


 ギルドの名誉と資金をかけた一大興行まで、あと十日と迫っていた。


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