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 キャルル、ブランカ、バスティは、誰にも告げずに廃神殿の隠し通路へ踏み込んだ。


「下へ続いてる! 行くぞ!」

 隊長気取りのキャルルは、迷わず先へ進む。


「待つにゃ!」

「待ってよ!」

 神と竜の化身がそれに続いた。


「いいのか? だんちょーやリューリアに怒られるぞ?」

 ブランカは黙って行動するのが良くないことくらい分かる。


「へーきへーき。バレなきゃ良いんだ」

 キャルルの好奇心は止まらない。


「あれ、よっと……ブランカ、ちょっと手伝って!」

「仕方ないなあ」


 キャルルは、背負った長い剣を抜こうとして失敗した。

 ブランカが鞘から抜いて少年の手に持たせてやる。


「へへっ、ありがと! いくぞお前ら!」

 ヒカリゴケが生える地下へ向かって、キャルルはどんどん進む。


 まだ下の姉よりも小柄で、ようやく150センチを超えたキャルルにエルフの剣は長過ぎた。

 あと10年もすれば、緩やかに成長して190を超える青年に育つのだが。


 そのキャルルより少し背の低いブランカを、少年は妹分だと思っていた。


 一方、将来は全長二百メートルを超える祖竜の子供は、キャルルを群れで一番弱い守ってあげる対象だと思っていた。


 そしてバスティは、幼い二人が無茶をしないように見守らねばと思っていた。


 半熟どころか卵のようなパーティが、謎の古代神殿へ挑む。


「何もないな」

「何も出ないね」


「良い事だにゃ。さっさと戻るにゃ……」


 かつての神殿の地下には、目立つものはなかった。

 リザード族も使用していたのか、所々に彼らの描いた壁画がある程度。


「この絵、ブランカに似てない?」


 キャルルが剣を向けたのは、巨大な翼を持つ竜とその前に立つ女性を、リザード族が拝む壁画。


 女の姿は長い髪に人に近い顔、それに長い尻尾で、リザード族とはあきらかに違う。


「そうかなー。あたしの方がかわいくない?」

 ブランカは余り乗り気でない。


「そういうこという女って、性格悪いんだよね。リューねえみたいに」

「なんだとっ!?」


 生意気なことを言うキャルルを、ブランカが追い回す。

 剣を持って追いかけっこなど、アドラーが見たら激怒するのだが、ここには怒る大人がいない。


「待て、待つにゃ。何か変だにゃ」


 二人の後を追うバスティの髭は、何かを捉えていた。

 敵や魔物の気配ではなく、自分に近いものの存在を。


 階段を駆け下り、通路を走って奥の部屋へ入り込んだキャルルが突然止まる。


「わっ! 危ない!」

 小さな背中にぶつかるようにして、ブランカも止まる。


「いてて、なんだよ急にっ!」

「ブランカ、この部屋なんだろ?」


 二人が見回す薄明かりの部屋には、幾つかのレバーや計器が並ぶ。


「引いていいかな?」

「良いんじゃない?」


 キャルルが好奇心のままにレバーの一つに手をかけて、ブランカの返事で引いた。


「んにゃ!? おいバカやめるにゃ!」


 追いかけて来たバスティには分かった。

 この部屋だけは、これまでの地上の種族が作ったものではない。

 自分に近い存在、神族か魔族が手を加えたものだと。


 そして変化は地上で現れた。

 アドラーの視線の先で活動を始めた、古代遺跡の塔がそれである。



 エスネを抱えて逃げようとしたアドラーは、思い出していた。


 起動した塔の姿が、彼の記憶を刺激したのだ。


「あれは……アドラクティア大陸での最後……!」


 二足種族の天敵、昆虫型モンスターの来る方角へ、少数の精鋭を選んで調査に向かったアドラー。


 アドラクティア大陸で最強のパーティは、魔物が生まれ出る塔を見つけた。

 塔の破壊を決断したアドラーは、激闘を繰り返しながらも作戦を成功させる。


 しかし、最後の最後、いざ脱出の場面でアドラーは吹き飛ばされた。

 塔は魔物を生み出すのではなく、何処かから呼び寄せるものだった。


 過大な転移魔法は、アドラーを未知の大陸まで転移させ、今に至る。


「そうだった、そうだった。いやー、どうしようか?」

「な、何がだ?」


 アドラーはエスネに尋ねてみたが、当然ながら彼女には意味不明。

 それほどにアドラーは焦っていた。


「まずい、なんてものではない。このままではこっちもアドラクティアの二の舞だな……」


「なんの事か分からぬぞ! そ、それよりも、リザード族が! いけにえは嫌だ!」


 リザード族は、神にエスネを捧げるべく祭壇を取り囲む。

 ひとまずは安全なとこへ逃げる為に、アドラーは飛んだ。


 脚力に任せた大ジャンプ、片手で抱えたエスネからは、飾りの花や果実が飛び散る。


「うん、んんーー!? ア、アドラー、待ってくれ! 服が、いや最後の鎧がなくなってしまう!」


 近くの屋根に飛び移った時に、エスネが腕からすり抜けた。

 保温の為に全身に油を塗られた全裸の美女は、べとべとのぬるぬるであった。


「エ、エスネ、暴れると落ちる!」

「そ、そんなこと言われても! こ、こんな格好で動けるものか!」


 肌に模様を描いた染料と油が混ざって光り、所々に花びらだけが張り付いたエスネの姿は、踊り子が脱ぐ店の最後の見せ場よりも卑猥。


 思わずアドラーも目をそらす。


「あの、じゃあこれを……」


 肩から腰までを覆う、旅用のマントをアドラーは差し出した。

 団長になった時に買った、革で出来た実用品。


 涙目のエスネは、無いよりはましとマントにくるまった。


「良いですか? 飛ぶよ」

「飛ぶってお主、そんなこと……うわっ!?」


 両手でエスネを抱えたアドラーは、再び跳ねた。

 屋根を伝って追手のリザード族を避け、湖岸の物見やぐらまで辿り着く。


「ここで、じっとしてて下さいね」

 やぐらの上に全裸マントのエスネを置いて、アドラーは一人で降りる。


 人間離れした動き、トップクラスの冒険者でもありえぬ動きを見たエスネは、呆然としたまま素直にうなずいた。


 アドラーは、地上に降りてからやぐらのはしごを外す。

 そして、集まってきたリザード族に告げた。


「湖から、塔から敵が来るぞ! 今直ぐだ! 逃げろ、ここは俺が食い止める!」


 暗い湖面には、既に数百のナフーヌが溢れ、真っ直ぐに村を目指して押し渡ってきていた。


 リザード族も、それに気付く。


「神の怒りだ! いけにえを!」とシャーマンは叫び、それに同調する者もあったが、アドラーに指一本も届かない。


「使いを廃神殿に出せ。俺が必ず、ここで食い止める。だからお前らは逃げてくれ!」


 アドラーの必死の叫びに、理解のあるリザードの若者達が動いた。


「アドラーさん、これを」

 ハプシェが、普通の剣を一本アドラーに手渡した。


「ありがたい! 助かる!」

 鉄で出来ている以外は、何の取り柄もない武器だが、無いよりは遥かにまし。


 アドラーは、湖へ向けて歩く。

 法術と神授、二種類のバフを最大にして。


 アドラーの動きを見せつけられたリザード族は、二つに別れて道を作り、もう邪魔はしなかった。


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