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帰りの航海


 アドラー達の帰りの船も、『樹冠を舞う四つ羽の黄金鳥』号だった。


「王家所有の船だったのか。そりゃ良い性能のはずだ」


 緑地に黄金鳥、スヴァルト王家の紋章にちなんだ名を持つ高速貨客船。

 船長のドゥルシアンが、直々に桟橋まで一行を出迎えた。


「みんな元気そうでなによりだ! 色々と世話になったようだな!」

 船長が、がちりとアドラーの腕を握る。


「帰りもお世話になります」

「ああ、任せてくれ。おい荷物を運べ、一等船室に丁寧にな!」


 全員が無事どころか、ダルタスが増えた”太陽が掴む鷲”団を、船長が案内する。


「演習を見ていくかい?」

 ドゥルシアンがアドラーに聞いた。


 結果的にスヴァルトを救うことになった、二大国の海軍演習。

 どんなものかアドラーも興味が湧いた。


「ええ、見れるものなら」

「この港の僅か六十海里ほど沖合だ。大艦隊だぞ!」


 他国のことながら、何故か楽しそうにドゥルシアンは語る。



 ミケドニア帝国とアビニシア連邦の集結海域を、かすめるように黄金鳥号は進む。


「これは、凄いな!」


 ドゥルシアンがわくわくしていた理由が、アドラーにも分かる。

 蒼い海の上に木製の長城と、さらに白い葉を付けたマストが林立していた。


「軍艦だけで110隻、支援艦を含めて150を超えるそうだ」

 海の男である船長は自慢気。


「あの船は大きいな」


 アドラーが八本マストの大型船を指す。


「あれか。あれこそがミケドニア海軍の総旗艦で、海の女王の別名があるシグルドリーヴァ号だぞ。三千人もの歩兵が乗り込めるそうだ」


 ドゥルシアンが語った全長を地球の尺に直すと、二百メートル近かった。

 大航海時代のサンタ・マリア号の八倍以上ある。


「そりゃスヴァルト侵攻どころではなくなるな……」

「ああ、運が良かった。もちろん、アドラー殿の助力あってこそだが……」


 船の片側に鈴なりの乗客に混じり、アドラーとドゥルシアンは艦隊を見つめていた。


「くそっ! 見えない! ダルタス、抱っこしてくれ!」


 アドラーの後ろでは、キャルルがさっそくオークと仲良くなっていた。


「うむ。肩に乗るがよい」

 オークは女子供に優しい。


「へへっ、あんがと!」

「あっ、あたしも!」


 ブランカまで飛び乗るが、ダルタスは子猫でも担ぐかのように立ち上がる。


「すげー!」

「たかいー!」


 二人は大喜びで、百を超える艦船を眺め始める。

 艦隊と最も接近した頃、ブランカが大きく口を開いてアドラーに聞いた。


「だんちょー、あれに撃ってもいいか?」

「駄目です! 絶対にダメ!」


 怒られるのを待っていたかのように、ブランカは楽しそうに笑う。



 これからの三百年ほど、スヴァルト国に戦争はなかった。

 ただし、戦いがなかった訳ではない。


 地を這う魔物の大集団が現れた時には、エルフとオークの同盟軍は二足種族の主力として活躍した。


 もう一つ、スヴァルトの歴史を変えることがあった。


 今より百年ほど経った頃、一冊の書物が出た。

 王家の血を引くハーフエルフの冒険者が、祖国に請われ『王子』の身代わりとしてオークと戦う物語。


 オークと友情を築いた冒険者は、白き竜と黒き虎――どちらも雄――を従え大陸を放浪する、男の友情を濃く描いた貴種流離浪漫冒険譚。


 これが世界中の女子と貴婦人の心を鷲掴みして、大ベストセラーになる。

 以後、スヴァルトは聖地として観光客が押し寄せる……。


 作者は何処かの森に住む魔女だと言われるが、不明。

 なお、主人公であるキャルルマーニの師匠として、異界の剣士がいるが、名前は一行も書かれていない。



 背中に剣を縛り付けたキャルルが、ダルタスから飛び降りる。


「兄ちゃん、ダルタス、飯にしよう!」

 姉ばかりの少年にとって、強い二人は憧れの存在だった。


「ああそうだな……。おい、キャル、剣はしまっておきなさい」


「ええー! せっかく貰ったのに?」


「それでもだ。少しお前には大きいか?」

「そんなことない! 直ぐに体が追いつくよ!」


 エルフ王は、本当にキャルルに剣をくれた。

 

 ひと目見たアドラーが、思わずため息を付いたほどの素晴らしく美しい剣だった。

 キャルルを説得して、細工は全て隠すほどの剣である。


「まあ良いか……。使いこなすには十年以上かかるかな」


 アドラーがみんなを連れて船室へ戻る。

 船室には、エルフの王からの贈り物が山積み。


「金はあまりないが、物は沢山ある。どれでも持ってくが良いぞ」


 そう言ったエルフ王は、宝物庫を開いて好きなものを選ばせる。

 アドラーは遠慮なく漁るというわけでなかったが、一つのタリスマンの前で足を止めた。


「ほう、その護符の力がわかるかね?」

「強い魔法は分かりますが……強すぎますね」


 数千年は経た秘宝で、市販されている魔法を封じた護符とは桁が違う。


「うむ、そうじゃ。下手に身につけると、魔力どころか生命まで吸い取られかねん。だが、それが分かるなら良いじゃろう、持ってけ」


 エルフ王はブローチ型の護符を投げた。

 アドラーが慌てて受け止めると、ずしりと重い。


「黄金製じゃ、売っても良いぞ?」

「売れませんよ! こんな危ないもの……」


 エルフ王は優雅に笑う。

「ほほほっ、そなたが無理なら誰も使えぬ。墓まで持ってくが良い」


 アドラーは、エルフ創世記より伝来のタリスマンを手に入れた。


 それ以外にも色々と貰った。

 女性陣が特に喜んだのが、エルフ特産の絹地。


 ミュスレアもリューリアも、さっそく船の中で服に仕立て始めた。


「へぇー。ミュスレアって、裁縫は出来るんだ」

 無礼な一言を口にした団長をじろりと睨み、長女は針を動かす。


「姉ちゃん、他は全滅だけど縫い物だけは出来るよ。ボクの服は、姉ちゃんらの古着を直したものだし」

 弟がフォローした。


「そうね、家事の中でもこれだけはね。まあ花嫁になるには、最低限ってとこ?」

 次女が追い打ちをかけた。


「このっ! あんたらねぇー!」


 生意気盛りの妹弟をミュスレアが睨むが、本気でないので二人とも怖がったりしない。


「ふんっ! もういいわ、ちょっとお酒もらってくる!」

 拗ねた長女は、食料庫に酒樽を分捕りに出ていった。


 ミュスレアの縫いかけの服を手に取ったリューリアが、アドラーを見ながら言った。


「本当に良い生地よねぇ、これ……。花嫁衣装に、ぴったりだと思わない?」


 良くない雰囲気を嗅ぎ取ったアドラーが、視線を泳がしながら答える。


「ははっ……どうかなー。さすがはエルフ産だよねえ……」


「……ふーん、まあ良いけど。わたしの方がお姉ちゃんより先に着るかもしれないものね。だって、時間はわたしの味方だもの。ね、アドラー?」


「えっ!? うっそだろリューねえ……」

 キャルルが絶句した。


 アドラーがちらりと見たリューリアは、人でいえばまだ十四、五歳。


 しかし、数年後からライデン市の女冒険者美女ランキング――冒険者酒場調べ――で前人未到の10連覇を果たし、殿堂入りする面影が既にあった。


「の、喉が乾いた! み、水は何処かなー?」

 アドラーは逃げ出した。


「ま、どっちにしろ兄ちゃんが義兄(にい)ちゃんか」


 キャルルが意味不明なことを言っていたが、アドラーは聞かなかったことにした。



 船は大運河を何事もなく抜け、ライデン市へ入港する。


 総日数は二十九日


 ・約束の金貨三十枚

 ・大量に貰った王家のお土産

 ・三姉弟の市民権

 

 さらにアドラーには、王国での冒険者ギルドの許可状と、エルフとオークを繋ぐ騎士の称号がこっそりと与えられていた。


 この称号は王家の家臣を意味するものではないが、スヴァルト国の騎士名簿の筆頭に永代に渡って残る。


 そして新しい団員の獲得と、苦労した甲斐がある冒険となった。


次から本当に新章です

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局3人は王家の血筋だったんだろうか? 王様が3人の曽祖父で祖父が王子と王女の父親で父親が出張先で作った子供ってことでいいんだろうか?王子の年齢がわからないけど90年前にライデンに居た…
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