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「他の二隊にも、大蛇は出たそうだ」


 アドラーは連絡球に浮かんだ文字を皆に伝えた。


『新しい傷がある。こいつが犯人かも』

 左側の隊から報告が届く。


 腹を開けば、犠牲になった教官の遺体がまだ残ってるかもしれないが。


『まだだ。先に進め』

 右側を進むシルベートは放置の命令を出した。

 アドラーも同意見だった。


 不思議なことに、魔物は集まる。

 野生生物なら、エリアのボスが定まると弱いものは逃げ出す。


 だが魔物やモンスターと呼ばれだすと、一匹の強力なボスの周りにピラミッドを作る。


『うーん、魔物だから集まるのか。それとも魔物の影響で凶悪化するのか。まだまだ謎なんだよなあ……』


 アドラーにも答えは分からない。

 魔物学という分野は、確立さえされていないのだ。


『魔物の起源』と呼ばれる学術書が数十年後に出る。

 そこには野生種が進化した魔物やダンジョンが生む魔物に加え、ナフーヌと呼ばれる群生体、そして祖竜の生体まで書かれた名著であるが、作者の詳細は不明。



「まだ奥に大物がいそうだ。気を付けるように」

 アドラーが注意を促す。


「はーい!」と先頭を歩くミュスレアとブランカが、元気よく返事をした。


「リュー、平気か?」

 最後尾のアドラーの前、最も安全なところにリューリアはいる。


「蛇は……苦手……けど平気よ。お姉ちゃん、こうやってわたし達を育ててたのねぇ」


 リューリアが十歳の時に母親が亡くなり、それからはミュスレアが親代わりで妹弟を育ててきた。


 苦労人だが、ミュスレアには鬱屈したところがない。

 リューリアもキャルルも世間を恨んだり、すねたりすることもない。

 命の恩人でもある三姉弟が、無事に暮らせることがアドラーの願いでもある。


「げっ!?」

 アドラーも尊敬する、強く優しいエルフの長女が汚い声をだした。


 海賊砦の最奥、ボスが居るならここと思われた大広間は、床が抜けていた。


「地図にはないな。先は洞窟か?」

「大物の出入りはこっちだな。防壁の穴は小物の通り道だ」


 タックスとアドラーが急いで確認した。

 床の大穴からは、磯の生臭い香りが吹き出していて、海に繋がってると分かる。


「どうする、引く?」

 ミュスレアが聞いた。

 ここは足場が狭く脆い、戦うにはよろしくない。


「駄目だ。ここで両翼の隊と合流する。くそっ、こんなところで襲われたら……!」


 アドラーの心配も虚しく、ブランカが四方を見渡しながら言った。

「団長、いっぱいくるぞ?」


「げぇ、本当だ!」

 タックスの持つ動体レーダーに、上下左右のあちこちに赤い輝点が光り始めた。


「二十、三十、いやもっとだ。囲まれてるぞ! 穴だけじゃない、壁や屋根裏から染み出してきやがる!」


 タックスが悲鳴をあげた。


 擬態――海の生物は岩や砂に紛れる――住処となった廃城のあちこちに、小型のモンスターが潜んでいた。


 ぼとりと落ちてきた巨大なカニを、ブランカが掴んで廃城の外へ放り投げた。


「竜は弱い物いじめはしない」

 出てくるカニやエビの化け物を、掴んでは放り投げる。


 次にはタコやイカ、頭足類の魔物が現れたが……ブランカは剣を使って真っ二つにした。


「こ、こういう、にゅるにゅるしたのは駄目なんだ!」

 竜はとても気まぐれだった。


 シルベートと副団長の隊は無事だろうかと、アドラーが連絡を取ろうとした時、左右の扉が開いた。


「やばい、めっちゃ出た!」

「急にモンスターが現れて!!」


 五人ずつ、合計十人が飛び込んでくる。


「お、早かったな。けが人はどうだ?」

 アドラーは人数を確認して声をかけた。


「こっちは二人、軽傷だ」

「こっちは一人、だが深い」


「リューリア!」

 部隊で唯一のヒーラーを呼びながら、アドラーは冒険者共通の手信号でシルベートに合図を送る。


 こくりと頷いた”銀色水晶”の団長が命令を下す。


「集まれ! リューリアちゃんを中心に陣を組め。雑魚は俺たちで全部片付けるぞ!」


「じゃあ、こっちも仕掛けるか。ミュスレア、ブランカ、行くよ」

 ”太陽を掴む鷲”の団長は、床の大穴から洞窟へ飛び降りた。


 すぐ右の後方にミュスレア、左にはブランカ、綺麗な三角形を保って奥へ進む。


「大きいなあ」

「不味そう」

 右と左の二人は、それぞれの感想を述べた。

 三人の視線の先には、二階建ての家ほどの塊がある。


 塊から、一本の太く長い首が生えた。

 次いで二本、三本と増える。


 一本首ならモノコンダ、二本首ならディアコンダ、三本首ならトリコンダ。


「四本首か、テトラコンダだな。あと一本あればヒドラに昇格だったのに」


 多頭の大蛇、この近海では滅多に出ない大物をアドラー達は見つけた。


「右と左で一本ずつ相手をしてくれ。逃がすなよ、こいつは軍艦でも手こずる」


 アドラーは指示を出しながら、二人に攻防とも三倍する<<特殊強化・特大>>の魔法をかけた。


「良いなこれ、力が溢れてくる」

 ミュスレアは確かめるように静かに動き、ブランカは目にもとまらぬ速度で跳ねた。


 アドラーだって、色々と考えて作戦を練っていたのだ。


 蛇は毒には強いが火には弱い、油を一樽持ち込んである。

 閃光魔法玉もあるし煙幕魔法玉もある、視界を塞いで正当な狩りも出来る。


 海辺らしく動きを止める網や縄、それにマレフィカから貰った温冷毛布。

 敵が蛇種だと知れた時から、冷やして自由を奪おうと考えていた。


 だが、その必要はなさそうだった。


 ミュスレアとブランカは、首を引きつけて左右に大きく別れる。

 両方に引っ張られた真ん中の二首の動きは鈍い。


「お前も、あたしと同じにしてやろう!」

 牙が一本抜けた歯を見せてブランカが喋った。


 手だけを竜の鱗と爪に変化させて、テトラコンダの口に突っ込むと一番大きな牙を引きちぎる。


 テトラコンダの物理防御は、普通の刃物など通さない。

 ブランカの剣は既になまくらになっていたが、竜の爪は易々と鱗と肉を貫通した。


 ミュスレアの剣も、突き立てた時に先が曲がった。

 身体の強化に比べて、武器が貧弱なのだ。


「あねさん、これを!」

 銀色水晶団の面々も、見てるだけではない。

 一人の冒険者が、自分の斧を投げ渡す。


「ありがと! こっちのが良さそうだな」

 刃物と鈍器の中間の斧は、パワータイプのエルフ娘に良く似合った。


 二本の首を相手にし、目と鼻先を潰したアドラーは、遁走し始めたテトラコンダの四本の首の付け根に飛び乗った。


「すまんが、逃がせんのだよ」


 このテトラコンダは、ボートを襲った魔物ではない。

 それはこの大ボスの眷属か子らの仕業。


 だがこの洞窟には、最近のものと思われる船の破片が散らばっている。

 船一隻をまるごと捕まえ、乗員と積み荷ごと食ったはあきらか。


 蛇の心臓は、首の付け根にある。

 普通の蛇は何処までが首かわかりにくいが、多頭種の場合は簡単に分かる。


「せいやっ!」と気合を入れて鱗を引き裂き、傷口に手を当てるとアドラーは魔法を打ち込んだ。


爆轟(ブラスト)!」

 余り得意ではない攻撃魔法だが、ゼロ距離から十数発も連射すれば充分。


 四つの首と三本の尻尾を、痙攣させるようにしてテトラコンダは倒れた。


 魔物は集まるが、頼りとするボスが消えれば散る。

 小型の魔物どもは、潮が引くようにいなくなった……。


 代わりに、沖の方で二隻の軍艦が戦闘を開始した。

 逃げ出した魔物への追撃戦。

 これだけ痛い目を見れば、魔物がこの海域から離れて行くのは確実であった。


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