表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/214

46


 バスティは女神さまである。

 同時にギルドの守り猫でもある。


 守るべき団員が険路を押して行軍する頃、ようやく目を覚ました。


「ふああー」

 大きくあくびと伸びをし、エサを貰いにキッチンに出たところで気付いた。


「そっか、誰もいないんだったにゃ」

 潮風は毛並みに悪いからと留守番を申し出たのだった。


 置いてあった魚の干物をたいらげると、鈴を咥えて森に向かう。


「何かあったらマレフィカのとこへ行け」と、アドラーに言われていた。

 この鈴は魔女の家へ導いてくれる魔法の道具だ。


 例え鈴がなくてもバスティなら辿り着けるが、ちりんちりんとなる鈴は猫に良く似合うと気に入っていた。


 森の広場には既に子供の群れがいた。


「にゃんこだ!」

「黒猫だ!」

「鈴を持ってるぞ!」


 早速の襲撃を受けてマレフィカの家へ逃げ込む。

 猫にとって子供は天敵、かと言って引っ掻いてやるわけにもいかない。


「うーんうーん……なんだこれぇ?」

 家の隙間から忍び込んだ先では、魔女のマレフィカが唸っていた。


「なにやってるにゃ? せっかく綺麗になったのに台無しだぞ」

 マレフィカの目元には、徹夜をしたのか黒いくまがくっきり。


「ああ、バスティちゃんか。コレなんだけどね……」

 マレフィカは指先で摘める程の牙を見せた。


「ブランカに貰ったやつかにゃ」


「そうなんだよ、確かに歯なんだよ。けど素材の積層密度が異常に高くて、魔力循環までしてる。ちょっと削ろうと思ったら鉄の針が欠けた。もう歯なのかさえ自信がなくなってさー」


「どれどれ」

 ここでバスティは人型に戻った。


 猫耳と尻尾の美少女姿、むしろこちらが本体に近いのだが。

 いきなり覗き込んで来た全裸の少女に、マレフィカが悲鳴をあげた。


「ひゃ、ひゃれ? どこからひゃいったの!?」

「落ち着くにゃ。うちだにゃ」


「え、なんで、満月でもないのに? アドラーの言ってたことってほんと? じゃあブランカちゃんも本物!?」


 常識に縛られた魔女は、ようやく答えに辿り着いた。


「た、大変だ。こんな器具では足りない! これを使えば何が出来るか!」


 バタバタと走り周り始めたマレフィカを放っておいて、バスティは家の階段を勝手に上がる。

 蔦に覆われた窓から、ほど良く日光が差し込むひだまりを見つけた。


「ここは絶品だにゃ!」

 猫型に戻ると、自慢の毛並みに頭をうずめる。


 バスティは何の心配もしていない。

 ちょっと強い程度の魔物が出ても、姉様の加護を受けたアドラーなら何とでもなる。


 大きくあくびをすると、猫は午後の居眠りに落ちた。



「ここだな」

 アドラー達は、防壁が大きく崩れた箇所を見つけた。


 砂の上には丸太を引きずったような跡があり、アドラーでなくても、冒険者達は察しがついた。


「蛇っぽいな」

「蛇型か」

「かなり大きいな」

「毒がなければ良いが」


「これだけ太ければ、毒蛇ではないかもな」

 アドラーが測ったところ、接地する幅だけで六十センチはある。


 基本的に、絞め殺すタイプの蛇は太くて逞しい。

 毒蛇は、毒袋のある頭が大きくて細身なことが多い。


「痩せてる方が毒がある、女性と同じさ」

 アドラーがセクハラ紛いの台詞で銀色水晶団の男達に説明した。


「まあ安心は出来んが、とりあえず罠だ。おい、逆刃にして埋めろ」

 シルベートが団員に指示を出す。


「うっす。あねさん方は見ててくださいな、あっしらがやります」

 団員達は慣れた様子で獣道に罠を仕掛ける。


 丸太にナイフの柄を打ちつけて、刃先だけを地面に出して埋める。

 地面を這う生き物なら避けようがない、殺す為の罠。


「蛇は金属の臭いを嫌うが、追い詰めればかかるだろう。沖にはあれもいるしな」


 シルベートがあごをくいっと向けた先では、二隻の軍艦が戦闘準備を整えつつある。

 その手前は、岩礁と暗礁が入り混じった大根おろしのような海。


「何故こんなとこに海賊が砦を作ったんだ? これでは海に出れないが」

 アドラーが素朴な疑問を地元民のシルベートに尋ねる。


「ここは海からも陸からも攻めれない、人質を閉じ込めておいたとか。それともう一つ、宝の隠し場所って伝説がある。まだ見つかってないそうだ」


 作業を終えた団員達から歓声があがる。

 冒険や探索の途中で見つけたお宝は、基本的に冒険者のものだ。


「そりゃ良いな。金貨で1500枚くらいは見つけたいところだ」

「それで借金を返すのか?」


 ”太陽を掴む鷲”の借金総額は、ライデンの冒険者なら誰でも知っている。

 頭割りで金貨500枚になれば、アドラーの心配事が一つ減る。


「ま、期待はするな。何百年も前から、この国の人間や各地の冒険者が探し回った。金貨どころか銀貨一枚見つかってない」


「大人しく怪物退治といくか」


 アドラーもお宝は期待してないが、大物ならば魔物素材として売れることがある。

 ただし蛇は使える部分が皮くらいで、良い獲物ではない。


 扉のない入り口から、右手左手と中央とに別れて踏み込む。

 石造りの壁は残ってるが、天井は落ちていて灯りは必要ない。


「何の反応もないなぁ」

 タックスが手に持つのは、半径二十メートルほどの動きを捉える魔法道具。


 魔法を使った動態レーダーで、ダンジョンに踏み込むなら是非とも欲しい逸品。

 ただし高価なもので、今回はリヴォニア軍が貸してくれた。


『あれこれと準備が良い。指揮官の艦長も優秀なのだろうが、ライデン市の冒険者ってのが良かったかな』


 待遇の良さに、アドラーも気合が入る。

 軍隊の代わりに冒険者ギルドを抱えるライデン市は、リヴォニア伯国の最大の交易相手。


 使い捨てにして仲が悪くなっても困ると、国を束ねる伯家の一員としては政治的な配慮もあった。


「おっ、一体来たぞ! 速くはないがでかい!」

 タックスが警戒を告げる。


 アドラーの手元にある連絡球――短い文章送りあえる魔法道具――にも、左右の隊から会敵の通知がきた。


 胴回りが二メートルを超える大蛇が姿を見せた。

 鎌首をもたげると、人の背の倍にはなる大物だった。


「強化する。ミュスレア、ブランカ、二手に別れてあたれ。タックス、ここでリューリアを守れ」


 明確な命令を下し、アドラーも愛用の短剣を引き抜いた……が、刃は鱗に触れることさえなかった。


「これだけか?」

「楽勝ね!」


 頭が一つしかない蛇は、左右から襲いかかったエルフ娘と竜娘に瞬殺された。


 念のために頭を落とし、更に先へ進む。


「ほぇー……ねえさんも嬢ちゃんもとんでもねぇな……ギムレットの奴も可哀想に……」


 タックスは驚いた後にニヤリと笑って言った。

「アドラー、俺はお前らの勝ちに賭けるよ。今なら大穴だ!」


 アドラー達のギルド会戦は、賭けの対象になっていた。

 しかしまともな戦闘員は、ここの3人しか居ないのだが。


『俺もあとで賭けておくか……』

 後に、当事者は賭けれないとアドラーは知ったが、探索は順調だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ