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冒険と経営、両方やるのが団長


 マレフィカとの出会いと再会から二日たった。


 ”太陽を掴む鷲”団に、新しく魔術顧問が加わる。


「顧問って……なにをすれば……?」

 マレフィカは自信なさ気に尋ねた。


 友達――ミュスレア――が困ってるなら力になると言ったところ、アドラーはさっそく彼女を団に取り込んだ。


「俺たち素材集める。顧問、魔法の武器作る。俺たちそれで戦う」

「何故カタコトに……。まあいいや、それくらいやるよー」


 冒険者ギルドの使う魔法の武器や道具を、全てを買っていたのでは、お金が幾らあっても足りない。


 適当な魔術師――だいたいは駆け出しの若手――と契約を結び、冒険で手に入れた素材を渡して色々と作ってもらう。

 時には頼みを聞いて魔法に必要とする物を集めたりする。


 宮廷の顧問魔術師などとは違う、実利に基づいた関係である。


『もし戦えるなら、いずれは団員にしてしまおう』とアドラーは密かに企んでいたが、まだマレフィカは人里に出るのは怖がっていた。


 そんなこんなで、暫定的にだが”太陽を掴む鷲”は五人になった。


 ギムレットと戦うギルド会戦は、今から百十七日後。

 グラーフ山のギルド戦まではさらに一ヶ月。

 その翌月からは、利子が跳ね上がり事実上の破産。



 団員集めに加えて、団の経営までやるアドラー団長は今日も忙しい。

 冒険者の酒場で一杯やっていると、声をかけられた。


「傭兵をやらないか?」


 傭兵――戦場で戦う職業。または手伝いの別称。

 『メガラニカ大辞典』


「俺は人同士の戦争に参加する気はないが……」

「違うって、俺のとこ手伝わないか?」


 声の主は、”銀色水晶”団のタックス。

 以前、ギムレットと喧嘩になった時、真っ先にアドラーに味方した冒険者。


「マスター、一杯くれ。アドラーのツケで」

 タックスは勝手に注文した。


「今日は奢らんぞ?」

「良い話を持ってきたのにか?」


「マスター、こいつのは別会計で。話を聞いてからだ」

「なら良かった、もう一杯奢りたくなるぞ?」


 ジョッキが届いてから、タックスは話し始めた。


「うちの団長はサーレマーレ島の出身なんだが、その縁でクエストを受けた。だが少し人数が足らなくてな」


 サーレマーレ島はアドラーも知っている。

 ライデンから船で一日もかからない大きな島。

 島がまとめてリヴォニア伯国で、ライデン市も属するミケドニア帝国の一部だ。


「クラーケンでも出たのか?」

「いや、廃城の探検だ。まあ何か住み着いたようだから、うちに依頼に来たのだがね。うちの団には十一人いる、何人か加えて三隊で探索したいんだ」


 パーティは最低でも四人から五人は欲しい、何処の団長も考えることは同じ。


「条件は?」

「聞いて驚け。船賃もあちら持ちで食事付き。探索が二日の予定、一人あたり四日で銀貨百枚だ」


「……もう一杯奢るよ」


 良い条件だった。

 冒険者一人の相場は下が十枚に上は天井知らずだが、移動にかかる日数が考慮されない。


 目的地に行くまで十日もかかると、かなりの好条件でも儲からない。

 なので近場のグラーフ山のダンジョンが繁盛するのだが。


「何人出せる?」

 さっそく二杯目を飲み始めたタックスが聞いた。


「三人、いや四人かな」

「使えないのは困るぞ?」


「俺とミュスレアと、次の一人は新人だがミュスレア級だ。最後の一人は、なんとヒーラーだ」


「ほう、そりゃ凄いな」

 口では褒めたが、タックスが信用した様子はない。


 戦鬼や鬼姫とまであだ名されるミュスレアと、同等の戦士など滅多にいるものではない。


『しかしだ……あの可憐な見た目でも鬼が離れず”戦姫”とも呼ばれないとは、ミュスレアさん、なにやったんだろ?』


 アドラーには心の底から疑問だった。

 ただ単に、ガキ大将時代に近隣の男子に恐怖を植え付けただけであるが。


「受けてくれてありがとよ、団長には俺から話しておく。お前とミュスレアが加わるなら心強い。竜の姿、見たんだろ?」

「もちろん見たさ。誰も信じてくれないけどな」


 アドラーが持ち帰った竜の羽の真偽は、いまだこの街の冒険者の間でも定まっていない。


 だが、あの総団長バルハルトが認めて一目置いている。

 この事実だけで『太陽と鷲の新しい団長はやり手』だとの噂が広がっていた。

 

「急で悪いが、出港は明後日だ。大丈夫か?」

「ああ、問題ない。気楽な船旅だ。こちらこそありがとよ」


 飲み続けるタックスを置いて、アドラーは席を立った。

 家へ戻る前に、顔から赤みを消す薬を飲む。


 魔法の薬だが、これだけは何故か安い。

 昼間から飲んで帰っては、団の貴重なヒーラーに叱られてしまう。



「えっ、海!? いーなーボクも連れってよ!」

「遊びに行くわけじゃないぞ」


 キャルルはまだ団に入るのを諦めてなかった。


「リューねえも行くんでしょ? あれよりは強いよ、ボク」


 ”あれ”呼ばわりされた姉は、弟を無視する。

 初の遠征の準備で忙しい。


「ねえ兄ちゃん。前に入団希望の人にやった、ブランカに勝ったら入団ってのボクにもやってよ?」


『何を無茶な』とアドラーは思った。

 ブランカの身体能力が人並みはずれているのは、キャルルも知っているはずだ。


「うーん、まあ良いぞ」

 しかしアドラーは許可した。

 男としては諦める理由が欲しいのだろう、との優しさだったが。


 木剣を持って外に出るキャルルとブランカの背に、リューリアが一声かけた。


「ブランカ、わざと負けたら夕ご飯半分よ」


 びくっと反応したブランカは姉と弟を見比べると……キャルルを一瞬で片付けた。


「ブランカ! 昼に卵焼きやったろ!?」

「ごめん……夕ご飯のが大事だ!」


「裏切り者!」


 買収に失敗したキャルルは、近所の友人の家に四日程お邪魔することになった。


 アドラーはこちらの大陸に来て、初めて海の船に乗る。

 一日の距離とはいえ、海を超えた冒険にわくわくしていた。


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