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「神と言ったな。証拠はなんだ?」


 猫を挟んで、魔女とアドラーが向き合った。


「バスティ、喋ってくれ」

「お菓子美味しかった。だにゃ」


「珍しいけど……魔女の使い魔も話すことが出来る」

「ならば、人型になったら?」


 マレフィカは窓から外を見て言った。


「今夜は満月だ」

「ワーキャットではないのだが……。バスティ、お前他に何か出来ないのか?」


 バスティは面倒臭そうに手の中でもがく。

「うちは、ただのかわいい猫だにゃ。女神っぽい事をする力はまだ、ない」


「……と、言ってるが?」

「次! ブランカ、おいで!」


 菓子ばかり食べていたブランカがやってくる。


「この子は竜です」

「……リザード族とのハーフ? それにしては、かわいいなー」


 腹一杯にお菓子を食べたブランカは、マレフィカにあどけない笑顔を返す。

 これでは何の迫力もない。


「この尻尾を見て下さい」

「白くて綺麗ね。将来は美人になるわ」


 ドラゴンを見たことなければ、竜の尾だとは気付かない。


 アドラーの二枚の切り札は、何の役にも立たなかった。

 マレフィカは愉快そうに眼鏡を揺らして笑う。


「ほうほう、もう終わりか?」

「くぅ……! ならば、俺の前世は異世界人だ!」


 アドラーは最大の秘密をバラした。


「それはちょっと驚いた……。で、証明出来るのか?」

「色んな事を知ってる……」


「お前さん、別の大陸の出身だろ? 魔女の記録にもおぼろげに残る。かつてホウキで世界を一周したという、伝説の魔法使いイルル・バツータの話が」


「いやいや、そんなもんじゃねえっすよ! 科学とか物理とか料理とか! あれこれあるんですってば!」


 アドラーは、マレフィカに自分たちの一味に興味を持って欲しかった。

 魔術師と言うのは、とかく好奇心の塊だ。


 だが知識層である魔術師は、当然ながら賢い。


「で、アドラーとやら。お前たち三人を賭けの机に乗せるのか。私は人体実験はやらんぞ? やる魔女に売っても良いけどな」


 魔女の脅しを聞いたバスティとブランカが抱き合って震え上がる。


「そこまでのつもりは無いですけど……。神猫の髭や竜の爪や牙、それと異世界の知識を対価に、ちょっとうちのギルドに協力してもらおうかと……」


 マレフィカの紅い瞳は、眼鏡の奥で怪しく笑う。


「素直なものだなー。素直ついでに、もう一つ教えろ。ミュスレアは、私を覚えているのか……?」


 魔女ともなれば、安い挑発には乗らないようだ。


「一団の頭脳であり、後ろから戦局を眺める魔法使いが、ほいほいと賭けに乗ったり罠に嵌ったりしたら、たまったものではないだろー?」


 森に籠もる魔女は、用心深さも兼ね備えた魔女だった。


「分かりましたよ。実はですね……」


 ミュスレアがマレフィカの貼り紙を見た時に反応したこと。

 二、三年前のミュスレアは、既に二十二歳になること。

 人族より高い魔法抵抗を持つエルフ族なら、覚えてる可能性もあると伝えた。


「それと、このお菓子ですね。味覚を司る分野と記憶を司る分野は、隣接してるんです。口に放り込めば、食いしん坊のミュスレアなら思い出すかなと」


 アドラーは自分の頭を指で叩きながら説明した。


「あながち……異世界人というのも嘘ではなさそうだな」

 マレフィカは少し納得してくれたようだった。


「兄ちゃん……」

 キャルルは少しショックを受けたようだった。


「兄ちゃんの前世はどうでも良いけど、ボクの姉ちゃんがそんな単純だと思われてる方がショックだよ……。言いたいことは分かるけど」


「違う! 違うぞ、キャルル! ミュスレアは本能的に動くから、そっちの感覚が発展してるってだけだぞ!?」


 キャルルも、本気で怒ったわけではない。

「まあ良いけどね、確かに姉ちゃんは単純だからさ。ちゃんと責任とってよ?」


「お、おう? うん、ギルドを建て直してまたちゃんと暮らせるようにするからな!」


 兄弟のようなやりとりをしばらく眺めていたマレフィカが口を開く。

「せっかくだ。会ってみようか」と。


「覚えててくれたら、お主の頼みを聞いても良い。忘れていたら……辛いなあ。しばらくは窓から子供たちを見ながら癒やされるか……」


 本当は他人になんか会いたくない、ずっとこのままで良いけど、もしもきっかけになるならと、マレフィカは決断した。


 迷ったミュスレアの為に森に道を開き、四人と一匹は家の前で待つ。


「だ、ダメだ。やっぱり吐きそう、なかったことにして!」

 マレフィカはさっそく弱音を吐いた。


「待って待って! ここで逃げたら駄目ですって、ずっと森の中で一人ですよ!? 頑張れ、ほら勇気を出して!」

「お前、言ってはならん言い方してるだろ!? 心が潰れるわ!」


 引っ張り合いをしながら、アドラーはずっと気になってた疑問を聞いた。


「そういえば、マレフィカって眼鏡かけてるよね。直ぐに治るのになぜ?」


「そりゃあ……人に会うのが嫌だからだよ。髪も梳かしてないし目も狂う、服なんて同じのをローテだし、肌はボロボロ。やっぱり私なんて家の中がお似合いなんだ……」


 再び逃げようとしたマレフィカを捕まえたところで、キャルルが声をあげた。


「来たよ、姉ちゃんだ」


 並ぶ一同を見つけたミュスレカが、心底ほっとした顔をした後に、表情を作り直してから怒った声を出した。


「こらっ、キャルル! こんな時間まで遊び歩いて。ブランカも! アドラーも、あなたが付いていながら……あら、そちらはどなた……?」


 生まれた数年後から二十歳を過ぎるまで、この家を見つけた歴代の子供たちの中でも、一番長く通ったクォーターエルフの娘がゆっくりと近づいて来た。


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