表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/214

37


 魔法はとても便利である。

 だがその道に進むのは難しい。


 魔法の商品も素晴らしいが、生産性には難があって高級品。


「やはり武器、それも魔法が付加されたものが欲しいなあ」


 先日、長剣を駄目にしたアドラーは、独り言を大きな声で言ったが、机の反対側に座ったリューリアが一刀両断する。


「駄目です。うちにそんな余裕はありません」

「けどさリューリア、グレーシャが連れてた新人ども、結構良いやつを持ってたんだよ?」


「他所は他所、うちはうちです」

 次女はとてもしっかり者だった。


 アドラーは自分の仲間を大きく強化できる。

 しかしもっと簡単に、人は攻撃力を倍増させることが出来る。

 武器を使えば良い。


 冒険者ギルドも、まずはこの法則に従う。

 魔法で強化された武器を手に入れるのは、他人を強化できる術者を探すよりずっと簡単だ。


「レオ・パレスくらいの規模なら、自前で作ったりしてるかもなあ」

 アドラーも簡単な魔法の付加なら出来るが、武器に使えるほどの信頼性はない。


「うちに魔術師を雇うようなお金もありませんからね」

 リューリアが止めの釘を刺した。


「はいはい、分かってますよ」

 さすがのアドラーも、武具を強化できる程の術者がこんなギルドに入るとは思ってない。


 席を立ったアドラーに、ブランカが寄ってくる。

「行くのか?」

「うん、そろそろ行こうか」


 アドラーとブランカ、それにミュスレアを加えた三人は、ギルド本部からダンジョンの調査を頼まれた。


 先日の試験に使ったものとは別で、生きたダンジョンになってないか確かめてくれとの依頼。


「テレーザさんには頭があがらないな」

 ライデン支部に根こそぎクエストを持っていかれたアドラーに、わざわざ用意してくれた。


 テレーザは、もう一つ気になった情報もくれた。


「ギムレットさんや主力の方々、”宮殿に住まう獅子”の訓練施設で特訓してるらしいですよ」と。

 アドラー達とのギルド会戦に備えて。


「良いの、そんな事まで教えてくれて? ひょっとして俺のこと……」

 美人の受付嬢テレーザの過ぎた好意に、アドラーは期待を込めて尋ねた。


「なに言ってるんですか? ”宮殿に住まう獅子”の本拠は帝都ですからね! 幾ら稼いでも税金はライデン市を素通りですよ。だからアドラーさんには頑張ってもらわないと!」


 とても現実的な理由での贔屓だった。


「なるほどね。グレーシャが新人の面倒を見て、ギムレットや腕の立つ奴らが居なかったのはそういう事か」

 アドラーは落胆を隠して解説してみせた。



 三人は、死んでるはずのダンジョン――新しく道や部屋が出来たり魔物を生み出したりもしない――を、丁寧に調べる。


「特に問題なさそうだな。ミュスレア、ブランカ、どうだった?」

 二人も首を横に振る。


 ダンジョン探索の基礎をブランカに教えるつもりだったが、この竜は勘も目も耳も素晴らしく良い。

 もちろん、クォーターエルフのミュスレアも感覚は鋭い。


 二人がそういうなら大丈夫だと、アドラーは調査を終わることにした。


 家に帰ったアドラーは、扉に妙なものを見つけた。

 一枚の紙切れが貼り付けてある。


 ちょうどアドラーの胸高さで、なんだろうと覗き込んだとき、内側から勢いよく扉が開いた。


「あぶねっ!」

 今度はアドラーも扉を避け、それと同時に思い出した。


 紙を扉から剥がして読むと『人数増えてないか?』と書いてある。


「キャル、今日は誰か来た?」

 出迎えに出てきたキャルルに、アドラーは聞く。


「今日は誰も来てないよ」


 この森の家に来るのは、リューリアやキャルルの友達の子供ばかり。


 大人には不気味に感じる場所だが、それでいて森で遊ぶ子供が危険な目に遭ったこともない。

 古くから”魔女の籠もる森”と呼ばれ大事にされている。


 ミュスレア一家がその端に住みつくことが出来たのも、そういった事情があるからだと、アドラーは思っていた。


「以前も貼られてたんだが、この紙に見覚えないか?」

 アドラーは、ミュスレアとキャルルに紙を見せた。


「あれ? これ、なんだっけ?」

 ミュスレアは何かを思い出そうとする顔をした。


「ボクは知らないよ!」

 嘘の下手なキャルルが逃げた。


『ひょっとして、キャルルに会いに来た女の子からか?』と、アドラーは予想を立てる。


 12歳くらいに見えるキャルルは、その年代の女子にも、少し上の女の子にも、さらに上のお姉様にも恐ろしくモテた。

 シャイロックが身柄を押さえようとしたのも良く分かる。


 だが本人は、同世代の男子に嫌われるのが怖くて女性を避ける。

 以前、男同士の悩み事だと、アドラーは相談されたことがあった。


『ならば、ここは黙っておこう』

 ろくな答えも出せなかった代わりに、アドラーは紙片を握り潰そうとした。


「あれ、これ変わった匂いがするぞ?」

 いつの間にか、ブランカが紙に鼻を近づけていた。


「どれどれにゃ」

 バスティもやってきて、くんくんと鼻を鳴らす。


「この森と……」

「薬の匂いもするにゃ」

「それと人の匂い」

「魔法混じりだにゃ」


 女神と祖竜が、匂いだけで犯人をあぶり出そうとしていた。


「こっち!」

「こっちだにゃ!」


 二匹は森の奥に向けて走り出し、慌ててアドラーも後を追う。


「えっ、待って! ボクも行くよ!」

 キャルルまで付いて来た。


 人口十五万を誇る大都市ライデン。

 その近所にしては静かで穏やかな森の中を、二人と二匹が駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ