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 骸骨のまま武器を振り回すスケルトンは、想像する以上に怖い。

 何処を見てるか分からない二つの穴が、本能的な恐怖となる。


『しかも、生きてる者の動きに反応するんだよなあ』

 襲ってくるだけでなく、こちらの攻撃を受けるのだ。


 幾つか対処法があるが、アドラーは一番簡単なものを選んだ。

 スケルトンの反応よりも速く武器を振るだけ。


『いち、に、さん!』のリズムで一体を壊す。

 最初に武器を持った方の肩甲骨、次に弱点の腰の骨。


「おい、背骨は狙うなよ。肋骨に剣を取られると致命的だからな」

 子供たちへのアドバイスも忘れない。


 同時に二人の相手が出来ないのも、スケルトンの特徴。

 一人が切り結ぶ間に横から突くか叩くかすれば簡単に倒せる。

 だが数が多い、アドラーは十五体まで数えてからペースを上げた。


「や、やった! 倒した!」

 アガランが大声を出した。


 最初は混乱した新規団の団長も、リズムに乗せて叩き壊すアドラーを見て少し落ち着いたようだ。


「気を抜くな! 直ぐ来るぞ!」

 アドラーがこれまでで一番鋭い声をだした。


 人や獣は、仲間がやられると考えるか怯むのだが、生き物にはある当然の隙がアンデット系にはない。

 崩れ落ちる骨を押し分けて次が襲い掛かる。


「く、くるなっー!」

 アガランの突き出した刃が、肋骨の四番目と五番目の間に吸い込まれるのを、アドラーは確認した。


 相手が生きてれば心臓を一突きの攻撃も、死んでいると二本の太い骨に剣を巻き取られるだけ。


 アドラーの予想通り武器を失ったアガランは、想像以上にバカな動きをした。


「うわっ!? あっ、ま、魔法で!」と喚きながら、四人の円陣を崩して中へ逃げ込んだ。


 押されて飛び出したサーリが倒れ、寄ってきたスケルトンの錆びたサーベルが四本同時に襲い掛かる。


 それを見てから動いては、いかなアドラーでも絶対に間に合わない。

 だが、アドラーは既に準備を終えていた。


 一番遠いスケルトンは、飛んできた短剣で壁に固定される。

 サーベルの一本は盾で受け、もう一本は右手で掴み取る。


『最後は背中で受ける。痛いけど、物理防御を全開なら……!』

 アドラーもちょっと薄目になる程の覚悟だったが、四体目のスケルトンには誰かが体当たりした。


「お兄ちゃん!! あ、アドラーさんも!」

 顔を上げたサーリが叫び、アドラーは勇敢な少年が誰か分かった。


 ハーストは、思い切って踏み込んだお陰で、肩口を切っただけで済んでいた。


 それでも息が荒く、今にも倒れそうな農村の平凡な少年にアドラーは声をかけた。

「偉いぞ、流石はお兄ちゃんだ。俺も助かった。下がって妹を守ってやれ」



『錆びた剣だ。破傷風なんかにならないよう、手当てしなければな』

 そんな事を考えながら、アドラーは残りのスケルトンを全て蹴散らす。


 四十八まで数えた時、立って動く骨はなくなった。

 スケルトンは、ぴったり五十体だった。


 アガランも最後だけは格好を付けた。

 兄の手当てをするサーリの前を、一歩も動かなかった。


 アドラーが近付くと、アガランは一度目を伏せたが直ぐに上げた。


「兄貴! 生意気言ってすいませんでした! 俺、兄貴に一生付いていきます!」


「いらねーよ、バカ野郎」

 割と強めにアドラーは拳骨を頭に落とした。


 調子に乗っていた17歳は、兄妹に膝を付いて頭を下げ、ハーストに肩を貸す。

 幸運な事に、続きの部屋から本来のダンジョンへ戻ることが出来た。


 ダンジョンの入口はロープで塞ぎ、六人は急いで山を降りた。


 後始末は、ギルド本部の仕事。

 直ちにまともな冒険者ギルドに依頼が飛び、十人以上のまともな冒険者で調査が行われる。



「どうなってんの、テレーザさん?」

「あは、ははは。本当にごめんなさい! 去年の時点ではあのダンジョンは死んでたんです!」


「けど、テレーザさんに言っても仕方ないことですが……ね」

 アドラーは、受付の奥を覗き込む。


 上役がやってきて謝罪と弁解を並べ立てるが、アドラーは人さし指と親指で丸を作った。


「分かった、銀貨二十枚を追加しよう」

「もう一声!」


「無事だったんだ、それで勘弁してくれ。調査にも金が要るんだよ」

「三十枚下さい。怪我した子らに渡します」


「ああ、そうか。うん、分かった」

 上役は物分りがよく、四十枚の銀貨を追加した。

 冒険者は保険などには入れない、ギルドが面倒をみれないと悲惨なのだ。


 アドラーは銀貨四十枚をそのままサーリに押し付ける。

 迷ってるサーリの横から、アガランが口を出した。


「兄貴、この怪我が治るまで親父に頼んで家が面倒見ます! 小作料も約束通りに減らします、だから俺に任せてください!」


 アドラーは少年の目を見て尋ねた。

「なあアガラン、お前が面倒見るのか? それともお前の家か?」


 アドラーの言葉の意味が分からない、アガランは最初そんな顔をしていた。

 一度目を伏せた少年が、もう一度顔を上げると少しだけ男の表情になっていた。


「自分が働いて稼ぎます。荷運びでも農作業でもやって、必ず」

「そうか、それならこの金はお前に貸してやる。必ず返しに来い。俺は森のはずれの”太陽を掴む鷲”団にいる」


 一件落着に思われたが、少しだけ続く。


 翌日、さっそくアガランがやって来た、手下の二人も連れて。


「兄貴! ここで働いて返すから使って下さい!」

「要らん、お前は冒険者に向いてない」


「そんな殺生な! 何でもしますから!」

「あー、そうだな。ブランカ、ちょっと来い」


 竜の娘が物珍しそうにやってくる。


「この子は3日前に剣を握ったばかりだ。剣の先でもこいつに当てたら入れてやる。この木剣を使え」


 アドラーは二人に木剣を渡した。

 そして小さな声でブランカに言った。


「いいな、手加減だぞ?」

「はいな!」


 何十回か振り回したアガランの剣は全て空を切り、飽きたブランカが振り下ろした一撃が顔の真ん中を捉えた。

 アガランは、運の良いことに鼻血が出ただけで済んだ。


 それからアガランは、家の手伝いをしながらアドラーに借金を返した。

 時々は、畑で採れた作物も持ってくる。


 ただし、ブランカの姿を見る度におびえるのだけは治らなかった。


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