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「なぜだ、なぜ入団希望者が来ない!?」


 アドラーは、ギルド本部の掲示板の前で苦悶していた。


『太陽を掴む鷲団 人員募集!

 アットホームな職場です! 未経験者歓迎!

 やる気さえあれば大丈夫! 一緒に夢を追いかけませんか』


 アドラー自信作の勧誘に、何の反応もない。

 それどころか『借金を掴む鷲』『人外募集ギルド』『獅子の餌』などと、落書きまでされる始末。


 アドラー、ミュスレア、ブランカのスリートップは悪くない。

 あと3人か4人ほど手練が集まれば、大きなクエストも受けることが出来るし、ギムレットとの戦いにも目処がつく。


『いっそ、宣伝をもっと広範囲に。のぼり、ポスティング、ちんどん屋、折り込みチラシ……いや、それではなあ』


 アドラーは、贅沢にも即戦力を欲しがっていた。

 だが現状はベテランどころか新人すら寄ってこない。



「アドラーさん、ちょっと良いですかー?」

「はいはい何でしょう、テレーザさん」


 受付嬢のテレーザが手招きしていた。


「なにか良いクエストでも入りました?」

 アドラーは期待を込めて美人の受付嬢を見つめる。


 団長の主な仕事は、もちろん団のトップとして取りまとめること。

 そして一番重要で手間がかかるのが、団員の確保と維持。


 腕の立つ冒険者を集め、なおかつ維持するのはとても難しい。

 時には寄生虫のように保証された報酬だけ受け取る団員を、除名したりもせねばならぬ。


 そしてアドラーには、この弱小ギルド全員を食べさせる義務があった。

 幸いな事に、今のところ報酬で文句を言う団員は居ない。

 ただしみんなよく食べた。


 アドラーは、『団長……お腹空いたよう……』という悪夢だけは絶対に避けたかった。


「うーん、無くもないですが、その前に冒険者ランクの件です」

 以前、アドラーが申請した冒険者ランクの審査が済んだ。


 上から、星・剣・十字・枝・葉の五階級。

 その中で金銀銅鉄の4つに別れる。


 更にその上にはマイスタークラスがあるが、基本となるものだけで二十ランク。

 最上位は金星級、最下位が鉄の葉級になる


「例の魔狼でしたっけ? あれだけの大物は珍しいので、一気に金枝級まで昇進させようって話だったんですが……」


「何か他に条件でも?」

 言い淀んだテレーザにアドラーは聞いた。


「いえ逆です。審査対象になってませんが、先日の竜の羽です。本部長も立ち会ったので、更に一ランク上げて鉄十字級まで許可しても良いと」


「ほう、それは有り難いですね!」

 話を合わせたが、アドラーには各級のレベルがどんな物かさっぱり。


「一応聞きますが、鉄十字級ってどんな感じですか?」


「余り取る人が居ないのですけど……」と、テレーザは身も蓋もない前置きをしてから始めた。


「個人の能力としては一流クラスというのが十字級。さらに特別な能力があれば剣級、大きな功績を残せば星級になります」


 思ったよりもふわっとした条件だった。

 それでも評価して貰えたことに、アドラーは感謝した。


「ありがとうございます。謹んでお受けします」

「あ、そうですか。なら銀貨十枚です」


「はい?」

「登録手数料と胸章の実費ですね。まあ金十字でも本物の金を使ってる訳ではないのですが……って、アドラーさん! 何処行くのですか!」


「お金を取るなんて聞いてませんよー!」

「言いましたよ! ギルド本部の貴重な収入源ですから、ばっちり払ってがんがん宣伝して下さい!」


 冒険者ランクを申請する者がほとんどない、その理由をアドラーは思い知った。


 今のところ、四千とも言われるライデンの冒険者で、ランクを持っているのは二百人ほど。

 ライデンでの上位は銀剣級が二人、エスネとグレーシャだった。

 さらにその上に、一人だけマイスタークラスが居る。


「お金に余裕がある時にまた来ます!」

 銀貨十枚はギルドの3日分の食費だ。


「十字級となれば、本部の指定クエストも受けることが出来ますよ?」

「詳しく教えて下さい」


 アドラーは受付に舞い戻った。


「えーっと、指定クエストは、本部が直接下ろす依頼です。お手伝いみたいなのも多いですが、質を維持する為に十字級以上の冒険者が条件です」


「良いクエストがあるんですか?」


「もちろん! さっき呼んだのもそれですよ?」

『さあどうします?』といった表情にテレーザが変わる。


「……せめて、先に依頼の中身を教えてください。うちの事情、ご存知でしょう?」

 アドラーは精一杯の弱った顔をして頼み込んだ。


「ほんとは秘密ですよ?」

 テレーザは小さな声でそっと教えてくれた。


 ・新設ギルドの試験

 ・その評価と護衛

 ・3日予定

 ・一日銀貨20枚

 ・全員を生きて戻すこと 成功報酬に銀貨60枚


「3日で金貨1枚? 滅茶苦茶美味しいじゃないですか」

「新人さんのギルドです。死人なんか出すわけにいきませんから」


 テレーザはさらっと怖いことを言った。


「このギルドに付いて行くのですか?」

「そうです。グラーフ山の小ダンジョンに潜ってもらいます。冒険者になれるかの評価がお仕事です」


「それで、受けるには……?」

「十字級以上の冒険者が条件です」


 アドラーは財布の中身を数える。

 ギルド全員の食費を除いても銀貨十枚は出すことができる。


「うぅ……分かりました。鉄十字級で、お願いします」

「はい、毎度ありー! クエスト受注もありがとうございます!」


 テレーザは机上のベルを二度鳴らす。


『せっかくだ。ライデンの新人レベルを確認しておくのも良いだろう』

 報酬も良く団長としての見識も広がる、なかなか良いクエストに思えた、この時までは。

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