表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/214

ギルドは人集めが一番大変


 アドラー達は、竜に乗ってライデン市へと帰る。

 一人と一匹でオーロス山へ向かったが、今は五人と一匹に増えていた。

 

 その前に「ドリーさんを忘れるところだった」と、人類の最前線になった最果ての冒険者砦に慌てて舞い降りた。


 ついでに冒険者達に天敵ナフーヌの詳細や、エルフ達の行方を伝える。

 話すことが多すぎて、結局一晩泊まることになった。


 その夜、アドラーはやっとミュスレアと語る時間が持てた。


「ギルド、どうなったの?」

 アドラーは、ミュスレアが離れていた間に起きたことを話す。


「4ヶ月先に、ギムレットの団とシュラハト――ギルド会戦――ねえ。それまでに6人集まるの?」


 ミュスレアの目は『戻って来てって言え』と催促していた。


「まだ二人だけど……それにギムレットに勝っても、まだ300枚の借金が残るけど……」


 慎重派のアドラーはもって回った言い方をしたが、短気なクォーターエルフには耐えられない。


「もう、違うでしょ。アドラーは、わたしにどうして欲しいの?」

「……出来れば帰ってきて欲しい」


「もう一声!」

「うーん? 一緒に戦って欲しいなって。ミュスレアは強いから……」


 ミュスレアは露骨にがっかりした顔をしたが、返事は前向きだった。


「ふーん、まあいいわ。ギムレットとグレーシャは、わたしも一発殴ってやりたいからね! それとそこの二人、早く寝なさい!」


 ミュスレアは、隠れて聞いていた妹と弟を叱りつけた。

 軽い足音が二人分、パタパタと遠ざかっていく。


「ライデンに戻れるって!」

「やったねリュー姉!」


 二人の声は、アドラーの耳にまで届いた。


 

 アドラーの話を聞いた冒険者らは、にわかには信じられぬといった様子だった。

 数千や数万の群れをなす魔物など、見たことも聞いたこともなかったから。


 だが突如舞い降りた飛竜の群れは、これまでに無い事が始まるとの説得力があった。

 冒険者達は、充分な備えと警戒をすると約束する。


 アドラーはドリーを引き取って、今度は早朝の空を一気にライデン市の郊外まで飛ぶ。



「さて、戻ってきたわけだが。キャルルはまた学校な」

「なんで!? ボクもギルドに入れてよ!」


 アドラーは、なるべく元の日常に戻そうとしていた。


 ミュスレアはギルドに復帰。

 これで攻撃役ばかりが3人の偏った編成になる。


 さらにリューリアが新しくギルドに加わった。

 新生”太陽を掴む鷲”団、最初のヒーラーだった。


「いいの、本当に?」

 アドラーは何度も念を押したが、彼女の意志は固かった。


「あと5ヶ月でギルドが潰れるかでしょ? なら一人でも居たほうが良いじゃない。それにギルドって言っても事務も会計も居ないし、わたしがやってあげるわ」


「本当に良いの?」

 もう一度、アドラーは聞いた。


「あのね、アドラー。他のところで、5ヶ月後に夜逃げするかも知れないけど雇って、なんて言える訳無いでしょ! しかもギルドの拠点はわたしの家よ? もちろん追い出す気なんてないわ、アドラーもバスティもブランカもここに住みなさい。困った時は助け合うのよ!」


『まだ文句ある?』と睨んだリューリアに対して、アドラーは全面降伏した。

 3姉弟の真ん中は、とてもしっかり者だった。


 そして末っ子は……。

「だから、ボクも働くから! ギルドに入れてよ!」

 駄々をこねていた。


 アドラーはもちろん二人の姉も、キャルルを入れるつもりはない。


「あんた、何も出来ないじゃない。わたしは傷の手当も出来るし、初級の回復魔法も使える、それに簿記会計の三級も持ってるのよ?」


 リューリアは弟に容赦がない。


「うっ……けど……ギルドの弟子に10歳くらいでなるのって普通じゃん? ねえ兄ちゃん、良いだろ?」


「うちは冒険者ギルドだからなあ……」


 技術の秘匿と継承を目的に、徒弟制を組むのが本来のギルド。

 だが冒険者や傭兵などは、ある程度の戦力、つまり技術を持った者の集団経営組織。

 むしろカンパニーに近い。


「まだ中等学校が1年あるんだろ? それが終わってからで良いじゃないか」

 アドラーは先送りしようとした。


「そしたらギルドに入れてくれんの?」

「うーん……最近は、冒険者養成学校ってのもあるそうだぞ?」


 さらに先送りしたアドラーに、キャルルが切れた。


「もう良いよ! 兄ちゃんのバカ! リューねえのブス!」

 キャルルは家を飛び出した。


「クソガキめ。ま、お腹が空いたら戻ってくるわよ」

 姉は冷たかった。


 森に逃げ込んだキャルルよりも、アドラーにはやることがある。

 せいぜい野うさぎくらいしか居ない”魔女の籠もる森”は、普段からキャルルの遊び場でもあった。


「ちょっと出かけてくるね。ギルド本部へ」

 アドラーは一言断ると、今回唯一の戦利品――竜の羽――を取り出した。


 ギルド本部では、テレーザ以外にも数人の男が待っていた。

 一人はギルド本部の長、そして一人は”宮殿に住まう獅子”の東部方面総団長のバルハルト。


「早かったな」

 バルハルトは、相変わらず威厳のある声だった。


「ちょっと特急便を使ったものでね」

 アドラーは布にくるんだ羽を机の上に置いた。


「す、凄い……! なんでしょう、見たことないです。けどとても綺麗……」

 人の腕ほど長さがある銀羽に、テレーザは感嘆の声をあげた。


 見届人になったギルド本部の者達からもざわめきが上がる。

 一人が「では、本部の研究室で検査して……」と言ったが、バルハルトが遮った。


「それには及ばぬ。これは本物である。それがしが王宮で見た物と寸分、いやこちらの方が大きいな」


 バルハルトがアドラーをじっと見る。

 警戒半分と興味に称賛まで入り混じった瞳だった。


「貴公がこれ程とはな。いったい……いや、無粋であったな。良かろう、シュラハトは、わしの誇りにかけて執り行う!」


 アドラーは、第一段階をクリアした。


「ところでおぬし、これを売るつもりはないか?」

 バルハルトがアドラーに聞いた。


「いや、自分で持っておきますよ」

 ひょっとしたら、ブランカにとって祖母の形見になるかもとアドラーは思っていた。


「そうか、残念である。金貨で20、いや40枚は出すのだが……」

 アドラーは、いざとなったら売ろうと決めた。



 シュラハトは、一対一を十連戦。

 アドラーとミュスレアとブランカは、互角以上に戦える。

 だがリューリアの戦闘能力は低く、勝つためには最低でもあと二人はエース級が必要だった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「4ヶ月先に、ギムレットの団とシュラハト――ギルド会戦――ねえ。それまでに6人集まるの?」 どこか読み飛ばしてたらすみません10:10で現在アドラーとブランカが居てで後8人じゃ?バステ…
[気になる点] ドラゴンの素材を売って金策する話はなくなったの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ