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 アドラー・エイベルデイン、一生の不覚であった。


「指揮官としては慎重過ぎる」と、故郷にいた頃に言われた。

「もっと大胆な命令を出せ。それから次の手を打っても遅くない」とも。


 しかしアドラーは、部下や兵の損失に慣れることはなかった。

 むしろ危険な任務を自らこなす事を好んだ。

 自分を最前線に置くことで、よく人が死ぬこの世界と折り合いを付けようとしたのだったが……。 


 それが裏目に出た。

 ミュスレアとその妹弟は、最も安全な地に逃したつもりだったのに。


 エルフの村までは、東から一本の街道が通っている。


『だが街道は遥か南西で、原生林は突っ切れない。等高線に沿って南下して西へ折れる。森林限界の上を飛ばす方が速い』

 素早く判断を固めた。


 アドラーは、3千メートル付近から木々が途切れているのを確認していた。

 地図上で200キロ以上はあるエルフの村までの、時間的に最短のルートをあらゆる知識を使って選びだす。


 使う魔法を準備しながら、バスティと竜の羽をリュックに詰めるアドラーを呼び止めた者があった。


「ねえ、ちょっと待って!」

「ごめんね、急がないと」


 せっかく竜の子から話しかけてくれたが、アドラーには余裕がない。


「違う、送ってあげても良いよ。空から」

「えっ!?」

「にゃ!?」


 南北に伸びる山脈から、西へ向かって川が流れ出る。

 南へ進むのは時間がかかると覚悟してたところへ、思わぬ申し出だった。


「本当に!? 頼む、何でもするから手を貸してくれ!」

 一族の成竜があれほど巨大なのだ、幼体でも人くらい乗せれるだろうと推測出来た。


「だが、条件が3つある!」

「何でもこい!」


「一つ目は、あたしも連れて行くこと! 本当は人になんか付いて行きたくないんだからね! けど、山の中で500年は長いから……」

「委細承知」


「二つ目は、あたしに毎日ご飯を与えること! お婆様と違ってわたしは成長期なんだ」

「分かった、頑張る」


「三つ目は、わたしに名前を付けること! で、できるか……?」

「おう、任せ……う、うーん。俺が?」


 意外な申し出だった。

 バスティに名付けたのはアドラーで、本人からそれを聞いて羨ましかったそうだ。


「き、気に入らない名前だと、付いて行かないからな!」

 竜の娘は、ちょっと照れくさそうだった。


 リューリアと同じくらいか、十代の半ばに見える。

 白に近いが陽光浴びて輝く銀の髪と蒼い瞳、それと背中の一番下から伸びる白く美しい尻尾。


「君は、銀竜? それとも白竜?」

「雪のように光を跳ね返す羽が北方の守護たる証だぞ」


 白き竜の幼生だった。


「ところで、人里に降りてた時はどうしてたの?」

「竜語で”自分”っていう”ネイン”と名乗っていた」


『悪くない名前だな』とアドラーは思った。

 

「それじゃ駄目なの?」

「意味が無いじゃないか……考えて付けて欲しいのだが……駄目か?」


 上下にパタパタしていた尻尾が急に元気を失う。


「待って、思い付いた名前がある。前にいた世界で一番有名で一番美しい白い狼の名前、ブランカってのがあるけど……それ以外だとファルコンかな……」


「ブ、ブランカの意味は……?」

「異国の言語で白、狼王の伴侶の名だ」


 再び、竜娘の尻尾がパタパタし始めた。


「そのままだな……けど美しいというのはとても良い。それに、いずれ竜の女王になるあたしに相応しい。い、今から……ブランカと呼んで良いぞ?」


 ブランカの尻尾が大きく左右に振れた。


「あまりかわいくないにゃー。まあ猫と犬でちょうど良いにゃ」

 アドラーはバスティの頭をリュックに押し込む。


「じゃあ最後のお願いだ!」

「4つ目にゃ!」


 バスティの頭が飛び出してきた、この猫は数が分かる賢い猫だ。


「そうだっけ? えっとね、あたしの生まれたとこに連れてって欲しいの。卵の時にお婆様に連れられて来たんだけど、故郷に行ってみたいんだ」


 アドラーにとって、拒否する必要のない頼みだった。

 この世界の竜――少なくともブランカの一族は――神さまと並んで人の側に立つ。


「もちろん承知した。いざとなれば、飛行船を作ってでも連れて行こう」

「ひこー? よく分からんが約束だぞ! そこまで言うならお前……名前はなに?」


 名前を聞いたブランカは、忘れないように何度も口に出した。


「アドラー、アドラーだな。よしアドラー、そこまで言うならお前の仲間になってやる!」


 一足飛びに仲間に加わったブランカを見て、世界有数の力を持った彼女の祖母を思い出し、アドラーは言った。


「歓迎するけど……せっかくだから、うちの冒険者ギルドに入らないかい? 食事もお給料も出すし、その他経費は全部ギルド持ちだ!」


「い、いいのか!?」


 目を輝かせた世間知らずの竜の娘が、潰れかけのギルドに加わった。


「悪い奴だにゃー」

 また余計な事をいった猫をリュックに押し込みながら、アドラーは団長として初めての新入団員を迎えた。


 期限は、無事に生まれ故郷に送り届け、彼女が大陸の守護竜として君臨するまで。


 報酬は参加クエストの収入を人数で割った3割――新人の常識的な契約。

 財宝を見つけたり大物をしとめたらボーナスあり。


 遂に”太陽を掴む鷲”の団員が二人に増えた。


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