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 アドラーがライデンから旅立ったその日のこと。

 バルハルトの部屋には、アドラーが名前を思い出せなかった若い魔術師が居た。


 それもそのはず、この魔術師は”太陽を掴む鷲”の元団員ではなかった。


「アスラウ、お前の伝えてきた通り変わった若者だった。しかし、よく気付いたものだな。わしでも実力をしかと見通せたか怪しいものじゃ」


 アスラウと呼ばれた魔術師は、こともなげに答えた。


「じい様でも、半分も分からないかもね。ボクが気付いたのも、あれが古代呪文、いやボク達のと違う系統の呪文を使ったからだし」


「お前が知らぬ魔法を使うとはのう。ますます気になるものじゃ」

 

 アスラウが若い頬を膨らませて抗議する。


「違うよ、知らないんじゃない! ただ導く式が異なるだけさ、ボクに分からない魔法なんてないよ。けどあいつ、3つも同時に魔法を使ってた。それはちょっとだけ凄い」


 アスラウが、アドラーの魔法を看破したのは偶然ではなかった。

 帝国御用達のギルド”宮殿に住まう獅子”には、賢者や宮廷魔術師となる素質や血筋の者が預けられることがある。


「それでじゃ、成り行きとはいえライデン支部には当分参加は無しじゃ」

 ギルド会戦の条件で決まったこと。


「つまんないな。いっそボクを団長にして、あいつと戦わせてくれれば良かったのに!」


「そう無茶を言うものではない。わしらは、ライデンの冒険者ギルドを潰したいわけではないぞ?」

「だからこそ、力を見せつけてやれば良かったのさ!」


 アスラウは、”宮殿に住まう獅子”の大幹部にして帝国の男爵号を持つバルハルトを困らせると、部屋から出ていった。


 それと入れ替えに、二人の男が入ってくる。


「申し訳ございません。馬で追ったのですが、アドラーとやらを見失いました」

「なんじゃと? まかれたのか?」


「いえ……それが、ロバが凄い速度で走り出して……馬も振り切られました」


 バルハルトは大声で笑うと、二人の男に今回は責を問わぬと告げた。


「面白いことが起きるのう。長生きはするものじゃが……新大陸とやらは、ひょっとするのか?」


 バルハルトの見つめる机の上には、アドラーが狩った魔狼の頭骨があった。




 追跡に気付いたアドラーは、少し迷ったがドリーで駆けることにした。

『名前も告げずに付いて来るのにろくな者は居ない』


 3倍に強化されたドリーは、アドラーと荷物を乗せ軍用馬よりも速くタフに走り続けた。

 出発が遅れた分を取り返してなお余裕があったが、アドラーは先を急ぐ。


「バスティさん」

「にゃあ?」


「やっぱりミュスレアや、リューとキャルに会いに行こう。勝手だけど、ミュスレアに戻ってきて欲しい」

「それがいいにゃ。きっとエルフの村でいじめられてるにゃ」


「そんなことはない!」とアドラーは思いたい。

 彼の知るエルフは、ハーフやクォーターも仲間として扱っていた。


 しかしこの大陸では分からない。


「どっちを先にしようか? ドラゴンとエルフの村」

「そりゃ竜から。竜の羽か骨でも手に入れないと始まらないぞ。だにゃ」


 ドリーを降りたアドラーは、今度は荷物を自分が担ぎ、身軽になったロバを引いて走り出した。


 この能力を活かして早飛脚として開業すれば、アドラーは一財産築ける。

 しかしそれには馬借や輸送ギルドの親方株が必要だった。


 そしてこの大陸の生まれでないアドラーが手に入れるには、莫大な金を支払って市民権ごと買うしかない。


『まあ、流れ者が出来る仕事といえば、冒険者か傭兵くらいだもんなあ』

 あとはせいぜい農家や荘園の下働き。


 けれども――『見知らぬ世界の冒険者暮らしも悪くない』


 満点の星空の下で野営しながらアドラーは心の底からそう思った。


「バスティさん、おいで」

 猫は素直にアドラーの毛布に潜り込む。


「ドリー、今日はありがとうな。明日もいっぱい走るから頼むぞ」


 迷惑そうに歯を向いたドリーに、両手に抱えるほどの餌を与える。

 朝までには食べ終わるだろうと、アドラーは目を閉じた。


 お腹の上の猫は暖かく、熟睡できそうであった。

 オーロス山まであと4日、予定の倍の速度で走り抜けるつもりだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「だから言ったのです。実戦とは、恐ろしいものであると。いずれ戦う時はありましょうが、その時はじいがお側で支えますからな?」 「いや、あれは何か違うし……戦いとは別のもの……」 この話と…
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