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203


 ブルゴーニュ公領の首府セダンで、アドラーは商人の様な格好をしていた。

 隣を歩く魔女のマレフィカが楽しそうに見上げる。


「団長、似合うなぁ。庶民的な感じがよく出てる」

「いや、紛れもない平民ですけどね」


 商人風のアドラーと黒い魔術衣のマレフィカは、地味で街によく溶け込んでいた。

 今は公爵ウードの居城であるセダーン城から出てきたばかり。


 裏オークションへの参加を希望し、商品――キャルルとリューリア――を預けたところ。

 ロシャンボーの用意した身分証明は完璧で、誰もアドラー達を疑う者は居なかった、それ以前に警戒していたかも怪しい。


 城の衛兵は緊張感もなく「しばらく調べるから、待て。かなり時間がかかるかもな」と賄賂を催促しただけ。

 アドラーが袖の下を渡すと、何の検査もなくあっさりと通した。


「マレフィカから見て、セダーン城の守りはどうだった?」

 アドラーは魔法の専門家からも意見を聞く。


「造りは古いが、魔法防御はしっかりしてるねー。と言うよりも最高峰だな、戦いに備えて作られた本物の戦闘城塞だった。並の攻撃魔法では焦げ目すら付かないだろう」

「ふーん、やっぱりね」


 アドラーの見立てもほぼ同じ。

 ほぼ正方形の城郭に胸壁と尖塔、四方の要所にクリスタルが埋め込まれ外からの魔法を防ぐ。


 攻略するには、四つの塔を順番に制覇しクリスタルを砕いて回らなければならない、正統派のお城。


 アドラーはもう一つ情報を付け加える。

「作ったのは先代だそうだ。ミケドニアの侵攻は、ここセダーン城で食い止めると」


 先代のブルゴーニュ公爵、豪胆公フィリップの情報は直ぐに集まった。

 サイアミーズ国では歌に謳われ、史書の先頭にも載る大英雄。


 現王の大叔父で、自らが王位に付くことも可能な立場だったが、継承順位を守り内乱を鎮め外敵を退けた。


 マレフィカも付け加える。

「先代は魔法に造詣が深く、魔術師と騎士団の混成部隊を率いて、会戦に挑んでは負けなしのつわ者だったそうだ。それがこの城にも受け継がれてるなあ、息子には伝わらなかったけど」


 その息子ウードの情報も大量に手に入った。

 一応は、アドラーも警戒していた。

 ただの素行の悪い駄目な二代目ということはないだろうと、思っていたから。

 ただしウードは予想を超えていた、悪い意味で。


 ウードの評判は、ブルゴーニュの領内でも良くない。

 最近でも道行く母子を馬で跳ね飛ばし、ウードは素知らぬ顔で逃げ去った。

 幾ら自分の領内でも、普通の領主なら見舞金くらいは出すものだが、ウードは『領主の往来を邪魔した』と残った父親も投獄したという。


 集めた話を、アドラーが口に出してまとめる。

「正式に嫡子として認められたのは十年前、ウードはもう三十歳になっていた」


 これは無用な争いを生まぬために、今のサイアミーズ王が成人するまで豪胆公フィリップが控えたがゆえ。


「これにウードは強い不満があるようだ。幼い王に代わり父フィリップが王位に付けば、自身が次代の王だったのにと。以後は、英雄である父の庇護の下に、贅沢三昧のやりたい放題。家督を譲られても所業は直ることなく、しかも二年前からフィリップは公の場に姿を見せてない」


 マレフィカは「父君は殺されたかなー?」と尋ねる。


「いや、その線は薄そうだ。まだフィリップの署名付きの書類は出てる。それにウードの権力の源は親父だ。死ねば立場が危うい、ロシャンボーが大軍率いてセダーン城を接収にくるな」


 またマレフィカが尋ねる。

「なら、何処かにいる親父を探して殺す?」

「マレフィカ、よしてくれよ。俺達は暗殺者ではない、冒険者だ。困ってる人を助け出す」


 マレフィカが「ひひひ」と魔女らしく笑う。

「父君を見つけて叱ってもらうかねー」

「まあ、見つかればね……」


 アドラーは余り期待せずに答えた。

 とりあえずの目的は、ウードの資金源となっている裏オークション。


 公国のトップが主宰者なのだ、何を売ろうが罰せられるはずもない。

 各種族の少女のみならず、魔法で作った興奮薬、変わった生き物や死体、裏と呼ぶに相応しいものが品出しされていた。


 そして、今回の目玉は南の大陸には生息しない有翼族の一家。

 星の反対側に連れてこられ、寄り添って震えるばかりの一家のとこには、キャルルが居た。


「もう心配ないよ! 兄ちゃんが来るからね? あ、わかんないか。アドラーっていうの、バシウムって知ってる? 翼の生えた生意気な奴、そいつと一緒に戦ったアドラー」


 警戒されることない笑顔で、キャルルは話しかける。


「バ、バシウム様ですか?」

 鎖で繋がれた父親が顔を上げた、表情には希望が灯る。

 

「うん、そう。あいつ有名なのかー、生意気なのに」

「バシウム様は、一族の最高傑作と言われた魔法使いですから、お名前くらいは。それにヒト族のアドラー様も、お噂はお聞きしてます。しかし、どうしてここへ……?」


 キャルルはきょとんとした顔になる。

「どうしてって、助けに来たんだよ。だから心配しないでね?」


 有翼族の両親は抱き合って喜び、間に挟まれた子供が窮屈そうな顔になった。

 キャルルが子供の頭に手を置いて笑いかける。


「もうちょっとの辛抱だからね」

 間近でキャルルの笑顔を見た子供の頬がピンクに染まる。

 捕まった子は、女の子だった。


 オークション形式ということは、新しい値段が付くまで所有権は出品者にある。

 預かった商品は大切に扱わねばならず、味見などといった外道な真似も出来ない。

 競り場に出された少女が、ぼろぼろと泣いていては高値にならないから。


 商品の見栄えを良くするのもオークショニアの役割で、二十人ほどの少女は一斉に風呂に入れられる。

 獣人やエルフにドワーフやオークまで、いずれも年端もいかない美しい子ばかりが、ウードの用意した遣り手ババアに磨かれる。


 もちろん、キャルルもこの群れに混ざる。

「なんでだよ! ボク、男の子だぞ!?」


 どれだけ叫んでも、離れるくらいなら一緒にと、姉のリューリアが弟を手放さない。

 その他の少女達も、助けに来てくれたなら仕方ないとキャルルを追い出したりしない。


 キャルルは、姉の背中にぴったりくっつく様にして歩いて行く。

 リューリアの髪と肌以外は見ないようにだ。


 手に洗い布を持った遣り手ババアが言った。

「おや、これは坊やだね。しかも飛び切りの美少年、お前さんは高く売れるよ」


「ひぃ!」と悲鳴を上げたキャルルが、リューリアの平らな胸に逃げ込む。

 怯える弟をリューリアが庇い、周りの少女たちも捕まってから初めて楽しく笑った。


 あとほんの半日、深夜にはアドラーが城に来る。

 指揮下には、エルフ、オーク、リザード、有翼族に魔女と竜を従えて。


 だが、風呂に入る少女達とキャルルを覗いている者が居た。


「エ、エルフの少年は初めてだ! あれはわしが買うぞ! 今直ぐ連れてこい!」

 城の主、ウードがさっそくキャルルに目を付けていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] こ、この受難の少年が将来プレイボーイになってしまうのか……笑
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