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 有翼族のバシウムと、竜の子のブランカが交互に話しかける。


「アドラー隊長はさ、何してたの? 行方不明の間、全部教えて!」

「だんちょーだんちょー、あたしとお喋りしよう?」


 左右から取り合うように引っ張られるアドラーは閉口気味。

 これから、遺跡を守るミケドニア軍の司令官と重要な話があるのだ。


 アドラーの三歩後ろには、リヴァンナが付き従っていた。

 物静かなダークエルフは、ジト目でアドラーの背中を見つめながら、何度か話しかけようとしてその度に諦める。


「頑張れ」と言いたげに、イグアサウリオがリヴァンナの肩を叩くが、稀代のネクロマンサーは、悲しそうな目でかつての教官を見上げるだけだった。


 縦に並んで歩くアドラーとリヴァンナは、十年前には軍学校の同期生。

 そしてイグアサウリオは、二人を鍛える教官の一人だった。


 ――今より十年前、まだ転生したことに浮かれていたアドラーは、軍学校の同期で一番大人しそうな女の子に話しかけた。

「今度こそ上手く生きよう」との想いが強かったのだ。


 無口な美少女だったリヴァンナは同期生でも浮いていると、アドラーには見えた。


 今のキャルルと同じくらいのアドラーは勇気を振り絞って声をかけた。

「や、やあ、おれは、アドラーって言うんだけど……」


 リヴァンナからの返事はなく、ただ大きな紫の瞳で見つめられただけ。

 そして直ぐに取り巻きの女子たちがやって来て、無礼な男子――アドラーを追い払う。


 浮いていたと思ったのはアドラーの勘違い。

 闇エルフの首長を務める一族のリヴァンナは有名人で、一目置かれていただけだった。


 取り巻きがアドラーに聞こえるように放った言葉が、さらに追い打ちをかける。

「なにあいつ? 慣れなれしい」

「無礼にも程があるわ、これだから繁殖期のヒト族のオスは」


「そんなつもりではない」と、十年前のアドラーは言えなかった。

 以後、リヴァンナには嫌われたと思っている。


 理由もある。

 少年アドラーの寝るベッドに、夜な夜なリヴァンナの使うレイスがやってくるのだ。

 この嫌がらせに、少年アドラーは漏らす程に恐怖した。

 だが毎晩の事に次第に慣れ、今ではアンデッド系の敵は得意とするほどになったが。


 しかしリヴァンナの視点では違う。

 突然話かけてきたヒト族の少年は、不思議な魂を持っていた。


 しかも誰もが距離をとる自分に、何の屈託もなく微笑みかけた態度は好ましく思えた。


 それからリヴァンナは、毎晩のように使役するレイスを通じてアドラーと交流を深めた、と本人だけは信じている。

 イグアサウリオに見いだされ、傑出した前線指揮官となったアドラーが、愛する自分を側に呼んだのも当然のことだとも。


 塔と共にアドラーが消えた時は、一生独り身で喪服を着て過ごすと、リヴァンナは決めた。

 それどころか、毎晩のようにアドラーの魂を呼び出すべく秘術を重ねていた。


 残念ながらアドラーは生きていたので、成功はしなかったが――。



 左右から引っ張るブランカとバシウムに困り果てたアドラーが、後ろを振り向いて立ち止まる。

 同時にリヴァンナも止まる、ぴったり三歩の距離を保って。


 もちろん古風な古代(ハイ)エルフの少女は、奥ゆかしい妻のつもり。

 方やアドラーにとっては避けられているとしか思えない。


「あのーリヴァンナ?」

「はい?」


 言い辛そうにアドラーは頼む。


「この二人、ちょっと預かっててくれない? 司令官と話してくるからさ。も、もちろん嫌ならイグアサウリオに頼むけど……」


 特に表情も変えず、無言のままでリヴァンナは子供二人を引き寄せる。

 内心ではまるで家族みたいだと歓喜していたが、これもアドラーには伝わらない。


「い、行こう、イグアサウリオ」

 代表する二人が司令官の部屋へと消えた。



 ミケドニア帝国の遺跡守備隊、そこの司令官はアドラーに協力的だった。

 まず自己紹介でアドラーに伝える。


「自分は、バルハルト閣下と半年前もこちらに来てましてな。アドラー殿は、命の恩人でもありまして、自分に出来ることならば何でも仰ってください」


 以後の情報提供はスムーズに進む。

 有翼族を攫っていないと証明するために、司令官はあらゆる書類を持ち出し、各階級の士官を呼び出して話をさせる。


 そしてアドラーは、一つの結論に辿り着く。


「まさか、サイアミーズが、あの時の有翼族を全員返していないのか?」


 半年前、ドラゴン軍団を従えたアドラーは、連れ去った十数人の有翼族の返還をきつく求めた。

 交換条件でなく前提として。


 サイアミーズ軍の現場の指揮官、ロシャンボー上将は名誉に賭けて約束し、アドラーもそれを信じた。

 実際に、三ヶ月後には「送り返した」と外交ルートを通じバルハルトに報告が渡り、アドラーも確認した。


 それからさらに三ヶ月、アドラーは己の甘さを悔やむ。

「俺が自分で引き受けに行くべきだった……」と。


 南の大陸に生息しない特殊な有翼族を、サイアミーズ王国は一家族だけ囚えたままだった。

 そして種族で最強の戦士バシウム――国の区別など付かない――は、間違えてミケドニア帝国の方に殴り込んだ。


「バシウム、済まないな。俺のせいだ、今から直ぐに、必ず絶対に取り戻すからな」


 灼熱の天使バシウムは、隊長を慰めながら満面の笑みで返した。

「へへ、隊長が手伝ってくれるなら解決したも同然だ! けど俺も行くよ?」


 同行すると聞いたブランカが頬を膨らませて抗議したが、口には出さなかった。

 仲間を救うなら仕方ないと、そのくらいの我慢は竜の子も覚えたのだ。

 そして代わりに言った。


「なら、さっさと片付けてやるから、お前は早くうちに帰れ!」


 もちろんバシウムも言い返す。

「尻尾娘の助けなんて要らないよ。俺と隊長だけで充分だ!」


 それから睨み合いになる。

「なんだと!」

「やるか!?」

「竜の力を見せてやる!」


 二人を引き剥がしながら、アドラーが残りの皆に尋ねる。


「と言うわけなんだが、イグアサウリオ、手伝ってくれるか?」

「水臭いな、当たり前だ」


 次にリヴァンナと付いてきた三人のシャーン人にも。


「ちょっと大事になりそうなんだが……」と聞いたアドラーに、「行く」とだけリヴァンナが答え、シャーン人は自分たちの立場を説明した。


「リヴァンナ様には良くして頂いております。お手伝いさせて頂くのに、何の異論も御座いません。ですが、もし一つだけお許しをいただければ……」


 シャーン人が望んだのは、南に残っている数十家族のダークエルフの、アドラクティア大陸への移住。


 差別が厳しい南の大陸で、ヒト族にも馴染めず、近親婚を繰り返し数を減らすばかりのシャーン人にとって、リヴァンナの元へ行くのが血を繋ぐ唯一の方法だった。


「分かった、出来る限りのことをしよう」

 アドラーも約束した。


 六人の助っ人を連れてアドラーは戻る。

 ただし目的は変わっていた。


 まだアドラーにも迷いはあったが振り切る。

「うーん、団長が率先して団イベから逃げていいのかな? いや、それどころじゃないか、うん」


 ギルド対抗戦まで残り十二日の出来事だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今後まだ明らかになっていない2大陸についての話の執筆予定などありますか? [一言] 団イベから逃げるな (闇パ鍛えつつ)
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