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「ギムレット!!」

 叫んだアドラーも、いきなり武器を抜いたりはしなかった。


 冒険者としては駆け出しでも、彼の戦歴は長い。

 感情は高ぶっても頭は冷静に、戦いになっても良い準備をする。


『ギムレット、左右にスパークルとマティーニ。後ろに三人、ヴァーンとゴッサムと……あいつは誰だっけ?』


 スパークルとマティーニは元幹部で剣士とタンク役、ヴァーンとゴッサムは兄弟のスカウト――罠師と斥候を兼ねた役目。


 全員が以前の主要メンバーで、アドラーの怒りを見ても動じたりはしない。


 ギムレットと幹部の二人は『気まずいな』といった程度の表情。

 残りの三人は何事だろうかといった様子。


『ミュスレアを落とし入れたのを、全員は知らないのか』

 アドラーは攻撃用の手札を一枚手に入れ、6人に向かい合った。



「よう、アドラー。久しぶりだな」

 ギムレットから声をかけたが、その目は鋭い。

 

 ギムレットは、アドラーの事を微々たる強化魔法が使える戦士としか認識していない。

 実際、アドラーのバフはこの大陸の人間には、5%程しか効果がなかった。


『余計な事を言うな。黙っていろ』

 ギムレットの目つきは上から脅し付ける者のそれ。

 だが、アドラーは無視した。


「ギムレット、クォーターエルフを売り飛ばした金でお買い物かい?」

「いきなり何のことだ。言いがかりはやめて貰おうか」


「カナン人の高利貸しがギルドへ来たぞ。きさまが借りた金の取り立てにな」

「ギルドの借金だ」


「違うな、お前が借り入れた。ミュスレアの家族を担保に、新たに金貨を二百枚も」


 一般団員だった後ろの3人の顔が曇るのをアドラーは見た。

『私腹を肥やしたことまでは知らぬか、やはり』


「団長を侮辱するのか!?」

 スパークルが声を上げて一歩前に出た、アドラーごとき簡単に叩きのめせると思っている態度だ。


「事実だ。黙ってろ、腰巾着」

 アドラーは正式に喧嘩を売り、三種の魔法を同時に発動させる。


「あっ!?」

 大きな声を上げた者がいた。

 アドラーが名前を思い出せなかった一人で、若い魔術師。


『まさか、気付いたのか。隠蔽する魔法と一緒に使ったのに』

 乱戦になれば、この魔術師を真っ先に気絶させておこうと、アドラーは決めた。


「ははっ、そう怒るなアドラーよ。ミュスレアは市民でもない混ざり者だ、誰かが責任を取る必要があったのだ。今からでも、うちの団へ来るか? 聞いて驚け……」


「レオ・パレスに住むなんざ御免こうむる」

 アドラーは、懐柔しようとしたギムレットを一蹴した。


「……よく知ってるな」

「この街の冒険者はみんな知ってるよ」


「なんだと!? まさかお前か? そう言えば、お前も市民権がない流れ者だったな。恩知らずめ!」


「貴様に恩義を感じたことなどない」

 アドラーは旅立つ直前で、胸甲に手甲、足元もしっかりと固め武器も数本持つ。


 ただでさえ立場が弱い上に、完全装備で喧嘩となっては言い訳の余地もない。

 背負った槍や手甲を外し、後ろへ投げた。


「やる気かよ」

 スパークルが薄ら笑いと共に踏み込んだ時、脇から声がかかった。


「スパークル、およしなさい。こんな往来で名誉ある”宮殿に住まう獅子”の幹部が喧嘩など」


 さらに店から出て来た3人組、その内の女が止めた。


「グレーシャ、お前も居たのか」

 先の副団長グレーシャ、ギルドを潰そうとした張本人だとアドラーは確信している。


「あらアドラーさん、ごきげんよう。あなた、人前で無謀な争いをする方でしたかしら? 新しい団長の悪いとこが伝染ったのかしらねえ」


 アドラーと九人の元団員の周りは、大きく円形に空けて人垣が取り巻いている。

 冒険者同士の喧嘩など絶好の見世物でしかない。


「今の団長は俺だよ」

「あら……意外。でしたらミュスレアさんはどうなさったの?」


「故郷に戻ったよ」

 アドラーの言葉に、グレーシャは整った顔を歪ませて笑った。


「それは良かったわねぇ。あの娘にも帰れる所があったなんてねぇ」

 心の底から勝ち誇った笑顔だった。


 ミュスレアの生まれた所は、ライデンの郊外にある小さな森。

 その事はギルドの者なら誰でも知っていた。


 アドラーは、少しだけ品の無い言葉で言い返す。

「笑うと、化粧がひび割れるぞ」


 ミュスレアとグレーシャは同じ年齢。

 成長の遅いクォーターエルフと違い、グレーシャはそろそろお肌が気になる。


 笑みを引っ込めたグレーシャが、周りに『やってしまえ』と合図しながら質問した。


「で、その新団長さんは何処へ行く気かしら? 旅装なさってるけど」

「ちょっとドラゴン退治さ」


 距離を詰めようとしていた男達は、声を揃えて笑いだす。

 笑い終わったギムレットが、アドラーの正面から一歩右へ動き道を開けて言った。


「行けよ。門出に水を差す気はない」


 ”ドラゴン退治”とは、冒険者の間で理由を言わずに団を去る時の常套文句だったとアドラーは思い出した。


 ここから『本気だ!』と言い張っても、更に笑われるだけ。

 ならばと、アドラーは宣戦布告することにした。


 真っ直ぐに二人に指を向け、周りにも聞こえるように堂々と述べた。


「そこのギムレットとグレーシャは、ギルドの財産である武具を売り払い、その上で団員の身柄と引き換えに金を受け取った。その額は金貨で300枚だ。俺は”太陽を掴む鷲”の団長として、お前たちの団に決闘を申し込む!」


 かつての仲間だった九人は、驚くと言うよりも呆れ顔。

 だがしかし、見守っていた見物客が湧いた。


 1人が9人に決闘を申し込むなど、前代未聞。

 もちろん私闘を禁じる法はあるが、有名無実。


「待ったー! それなら俺が助太刀する!」

 観客から一人の男が転がり出た。


 アドラーには見覚えがある。

 昨日、酒を飲んでも友人から聞いた話を思い出せなかった冒険者だ。


「えーっと……助っ人は募集してないけど……」

「まあ良いじゃないか。俺の名前、覚えてないのか? ”銀色水晶”団のタックスだ」


 余計なお世話だったが、これで勢いが付いたのか次々にあちこちから冒険者が参加し始める。


 争いの様相は、ライデンの土着ギルド対帝国最大手のギルドチェーンになり始めていた……。


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