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 ”太陽を掴む鷲”が野営の準備をする。

 薪を拾うのはキャルルとブランカ、二人で競争しながら集める。


 ダルタスが斧を器用に使って辺り一面の草を刈る。

 地面が見えていないと、何が潜んでいるか分からない。


 リューリアが食事の準備と、ミュスレアはそれを手伝いながら周囲に目を配り、魔法を使えるアドラーとマレフィカは結界を張る。


「どうする?」

 結界の強度や種類についてマレフィカが聞いた。


「広めに取ろうか。五十歩内に侵入されたら分かるくらい。それと焚き火の灯りは空へ逃がそう」


 あと一日か二日の距離で、大軍同士が睨み合っているとビガードから聞いた。

 用心してし過ぎることはない。


「にゃー!?」

「きゃー!」


 突如、バスティとリューリアの悲鳴があがった。

 アドラーは隣に立つマレフィカを抱えあげ、全力強化で走る。


「あら団長ったら、そんな強引な。私は何時でも準備出来てるのに」


 誰かに運ばれる事の多い、体力不足の魔女は慣れたもの。


 三十歩の距離を二秒で飛んで戻ったアドラーが見たのは、大きな蛇と向き合う黒猫と次女だった。


「りゅーりあ、見て。へび」

「や、やめなさい!」

 リューリアが涙目でブランカに怒鳴る。


「へびがへび食ってる」

「ふぎゃー!」

 蛇の口の中を見せられたバスティが全力で威嚇する。


「こら、ブランカ」と、ようやくミュスレアが竜の子を叱る。

 手に蛇を持ったブランカが、リューリアに見せようと持ってきただけだった。


「あーあ、ボクは止めたんだよ? やめとけって」

 キャルルが言い訳がましくいった。


「だんちょー、見てみて。へび! で、口を開くとへび!」

 アドラーにも三メートルほどの大蛇を見せつける。

 捕まえた蛇の口からは、他の蛇の尻尾が垂れていた。


「おお!? キングスネークじゃないか、珍しい。口から出てる尻尾はクサリヘビの一種だな。食ってる方に毒はないが、食われてる方は猛毒だ」


「へぇー、蛇って蛇を食べるの?」

 不思議そうにキャルルが聞く。


「そりゃもちろん、むしろ主食だ。何と言っても、蛇の胃にぴったり収まるからな」


 キャルルとブランカは笑ったが、他の女性陣は笑わない。


「ブランカ!」

 少しきつめにミュスレアが声を出した。


「あい?」

「遠くへ捨ててらっしゃい。うちでは蛇は食べません!」


「貴重なタンパク源なのに……」

 アドラーは若干惜しいと思ったが、ミュスレアに睨まれて黙った。

 冷静になれば、腹を割ると別の毒蛇が出てくる蛇は食べる気がしない。


 偉大な祖竜の末裔であるブランカは、団長と長女に言われたら素直に従う。

 リューリアとダルタスの言うこともだいたい聞く。

 マレフィカは実験しようとするので苦手、バスティは遊び相手で、キャルルは群れの一番下。


「キャルル、捨ててきて?」

 群れの序列に沿って面倒を渡そうとした。


「ブランカ、自分で放してきなさい」

「はーい」

 アドラーに言われて、ようやく近くの茂みに放り投げた。


「あんな近くで大丈夫かしら?」

 ミュスレアが心配そうに聞く。


「満腹だから平気だよ。しばらく動かないし、逆にあの大蛇の臭いで毒蛇は逃げ出すから」


 それよりもアドラーには、他に気になる事があった。

 ドラゴンのブランカは、時々普通の生き物に対して残酷になる。

 進んで蟻の行列を潰したりはしないが、気づいても足を避けたりしない。


「けど、ああ見えてドラゴンだしなあ……」

 アドラーも迷う。


 もし噂を聞きつけた冒険者が、無謀にも成長したブランカを狩りにやって来たなら、遠慮なく消滅させるのが竜という存在。

 人に慣れて優しくなると、ブランカの方が危ないかも知れない。


「竜は怖い存在だと、今の内に見せつけることが出来ればな。けどお前、まだ竜体になれないんだよね?」


「うん、無理だね!」

 にこっと笑ったブランカが、蛇の鱗でべとべとの手をアドラーの服で拭く。


「こいつっ……!」

 アドラーが怒る前にブランカは逃げ出した。


 焚き火の側に腰を降ろし、夕ご飯が出来るのを待つ竜の子は、まだまだ成長期だった。



 食後、アドラーはみんなに聞いた。

「さて、これからなんだけど……どうしよう?」


「時間を稼げば良いのではないか? 幸いにも、軍勢同士がぶつかる」

 ダルタスは至って冷静沈着な意見で、理由も手堅い。


 アドラーは、持って来た魔弾杖と製造法、改良すべき点、省くべき点などを書いてイグアサウリオに託していた。


「武器商人は気がすすまぬが、仕方ない。良き役に立つことを祈るか」

 イグアサウリオは神妙な顔で受け取った。


 新兵器の手作りでの量産で、早ければ五年もすれば「我々も同じ武器を持っている! でかい顔をするな!」と言えるようになるだろう。


「男同士、戦いたいっていうなら放っておきなさいよ」

 ミュスレアの意見はもっと冷たい。


 ミケドニア軍もサイアミーズ軍も、戦争を生業にした職業軍人だらけ。

 やる気に満ち溢れ、やめろと言って止まるものでもない。


「ま、決着が付くまで待つのは私も賛成だ」と、マレフィカ。


 アドラーは皆の意見をまとめる。

「二つ同時には相手に出来ない。話し合うにも一つが楽だものなあ。二蛇共食の計か……」


 聞き慣れない単語にキャルルが聞く。

「兄ちゃん、なにそれ?」


「これはアドラクティア大陸に伝わる故事でね、蛇が二匹戦ってたら、決着が付くまで待つ。片方を飲み込んだ蛇はお腹が膨れて動けないから、簡単に捕まる。争いは手を出さずに見守れって意味だよ」


「さっきのへび!」

 ブランカが大声で反応した。


「そういうこと。ひとまずは様子を見に行くか。ただし、バルハルトは話が通じる。いざとなればそっちを味方するかな?」


 アドラーの言葉に、六人と一匹は頷く。

 最善の状態は、バルハルトが苦戦していて、アドラーの助力でひっくり返して恩を売り、さらに双方ともに被害甚大でしばらくは休戦になること。


 無い可能性でもないはずだ、とアドラーは思いながら寝ることにする……。


 そして翌日、昼もとっくに過ぎた頃。

 アドラー達は、他人の大陸まで来て一大決戦をする迷惑な両大国の姿を見つける。


「こいつら、ここで向き合ってまだ四日とか五日のはずだけど……」

 アドラーも呆れるしかない。


 両軍合わせて兵士だけで五万人、補給や工事にその他の人員を合わせて八万人以上の人々が、二つに別れて睨み合っていた。

 両軍とも周囲十キロはある、重厚な野戦陣地の建設中。


「お前らヒト族は、本当に戦争が好きだにゃ?」

「ほんと、すいません」


 肩に飛び乗って来た神様の言葉に、アドラーは謝るしかなかった。


「本気でどうしよう?」

 一応心の中でだが、アドラーは大きくため息を付いた……。


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