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 アドラーが拠点としてるのは、ディエンという名前の集落。

 元は千人近い人口があり、この大陸では町と呼べるほどの規模。


 アドラーは、救出した三十人のドワーフを連れて穴だらけの町へ戻った。


「ディエンまでこの有様に……」

 助けられたドワーフ達は、呆然と眺める。


 彼らはもっと小さな村に住んでいて、近づいて来る大軍を怪しんで道を塞いだところを蹴散らされた。

 死者十人に、捕虜が三十人の全滅だが、その隙に女子供は山に逃げたらしい。


「今、ディエンの男達が女達のところに向かってる。心配しないでくれ」

 アドラーは、安心させるつもりで声をかけた。


「すまんです」

 髭の長いドワーフが代表して礼を述べたが、後ろから茶化す者が出る。


「むっ、うちの母ちゃんに手を出されなければ良いが」

「誰が樽みたいなお前の嫁に手を出すかい」


 助けられた山の男達は、無理にでも冗談を飛ばし明るく振る舞う。


「俺にはドワーフ女の良さが分からんなあ……」

 アドラーも乗った。


「旦那さん、助けられといてなんですが、エルフ女よりはマシですぜ。ドワーフ女の肉厚な腰に豊満な胸、一度味わうと他の種族なんて」


 ドワーフがミュスレアを見ながら饒舌に答え、アドラーを除いた一同が下品に笑う。


「ちょっと、今なんて言ったの?」

 山の男達の視線に晒されたミュスレアが、アドラーに聞いた。


「あーっとね……とても細身な美人ですね。こんな場所には似合わない、だって」

「あらやだ、もうそんな」


 褒められたと思ったミュスレアがにっこりと笑顔を返す。


「にゃにをやってるにゃ……お前達は……」

 戻ってきていたバスティが、アドラーの肩に飛び乗った。


 バスティとマレフィカは、戻ってきていた。

 アドラーの昔の仲間、リザード族の総首領イグアサウリオには直接会えた。


「にゃんと言っても、うちは本物の女神だし!」と、猫が自慢そうに語る。

「けどね」とマレフィカが付け加える。


「アドラー団長の画像を見せた瞬間、怒って怒鳴り始めたぞ? 大丈夫かな?」

「そうそう、『生きてやがったか、この野郎! 殴りに行くから待ってろと伝えろ』と言ってたにゃ」


 いかついイグアサウリオの顔を思い出しながら、アドラーは聞いた。

「ふーん……それで直ぐに来れるって?」

「それはもう、部屋を飛び出してそれっきりにゃ」


 マレフィカもバスティも、誰も居なくなったので仕方なく飛んで帰ってきたそうだ。

 大歓迎されなくとも、南の大陸から来た客人に対して余りに冷たいと文句の一つも出る。


「なんか……ごめんね……」

 アドラーが代わりに謝った。



 アドラーは、陽が山にかかる頃まで一休みをする。


 マレフィカの見立てでは、助けたドワーフには弱い信号を発する水晶を埋め込まれ、取り出せばバレるそうだ。


 それを聞いた三十人のドワーフの男達は、協力を申し出てアドラーは受け入れた。


「敵を呼ぶ囮になってもらう。武器も渡す。俺の指揮で戦えるか?」

「お任せください。あのアドラー殿の指揮を受けるとは、ひ孫まで自慢出来ます」

 

 魔物や天敵の居る大地で男達は戦うことに慣れている、軍に居た者も半分ほど居る。

 アドラーは、この地の戦力を束ねて戦う覚悟を決めた。


「よし、行こうか」

 これからアドラーと三十人のドワーフは、待ち伏せに適した場所へと移動する……。



 ――サイアミーズ王国 新大陸遠征第二軍 本陣


 二個軍団に加えて、多数の文民――学者・魔術師・記録文章家など――が駐在し、一つの都市と化した駐屯地をまとめるのは、ターレス・ドラクロワ上将であった。


 ドラクロワ上将は、軍政に携わる官吏から抜擢されて軍編制本部へ、三十を超えて軍学校に進み軍団長も務め、そしてミケドニア帝国に対する要塞線の総司令にまで登り詰めた、言わば駐屯軍の専門家。


 他に代えがたい優秀な人材を引き抜いてまで、サイアミーズ軍は遠征作戦に投入していた。


 ドラクロワ上将は部下に「規律、規律」と口うるさいが、官吏経験者の割に用兵は大胆。

『様子を見るくらいなら、攻撃して反応を見よ』という実戦向きの司令官。


 指揮下に置くのは、サイアミーズの第三軍団と第四軍団、合わせて一万二千。

 第一から第八までの八個軍団は、即応の実戦部隊で陸軍大国サイアミーズでも最精鋭である。


「それが、たった二日で大隊長に加えて三人も小隊長を失うとはな……」


 百人を束ねる小隊長は、末端の下級士官ではなく、これから軍を背負うと期待されるエリート将校。


「申し訳ありません」

 第四軍団の軍団長が、代表して司令官に謝罪した。


「怒っても失望してもおらぬ。これまでが上手く行き過ぎた。今一度、全軍の気合を入れ直す必要はあるが」


 ドラクロワ上将は、今まで事故でしか死傷者が出なかったのは幸運であったと判断していた。


「問題は、我らと同じ言葉を喋る茶色い髪の男だな」

 その男――アドラー――が姿を見せてから、戦死が続発した。


 新兵器である魔弾杖に、原住民は対抗する手段がないと軍事顧問が結論を出した直後であった。


「恐らく、人足にでも化けて潜り込んだミケドニアの間諜であるかと……」

 参謀の一人が推測を述べる。


 サイアミーズ国は、初期は遺跡を使って日帰りの探索を行っていた。

 ところが、数千年をかけて貯め込まれたマナも、毎日数千人が行き来すると二ヶ月程で底を見せ始めた。


 そこで、大規模な駐屯軍で恒久的な陣地造りへと方針が変わり、適任であるとしてドラクロワ上将が呼ばれた。


「何処の誰かなど問題ではない。奴がここで何をするかだ」

 ドラクロワ上将は、参謀の予測を一蹴する。


「まだ友軍との連絡も付かぬというのに、困ったものだ。本日、ドワーフに仕掛けた罠は生きておるか?」

「はい。気付かれた気配はありません」


 魔術師が上将に返事をした。


「まあ気付かれても構わん、我らが夜の山に踏み込むとは思ってなかろう。シャーン人を出せ。目的は一人だ、茶色の髪の男を殺せ。捕まえてどうこうなど考えずとも良い」


 ドラクロワ上将は、王家から預かった暗殺部族を使うと決めた。

 命令は明確に一つ、アドラーを始末しろ、であった。


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