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「全然足りないぞ……」

 アドラーがぼやいた。


 バルハルトから巻き上げた金貨百枚は、銀貨に換算して一万二千枚。

 大金なのだが、集まった人数は予想を遥かに超えた。


「五十人から百人くらいが手伝ってくれて、七日もあれば見つかるかなーって」

 アドラーは予想していた。


 馴染みの連中に加え、エスネがクエストに出てない五十人ほどを引っ立ててきた。

 ハーモニアの団と、”宮殿に住まう獅子”団も幹部のアスラウが率いて参加した。


 この時点で百人は大きく超え、しかも慣れた連中ばかり。


 ライデン市で第二位のギルドは、”陸に上がった魚の目”というふざけた名前。

 団旗も青地に白丸という簡略なもので、団長のサバーニ・カツウォヌスは漁師上がりの陽気な男。


「なんだなんだ? 大漁か? 戦争か?」と寄ってきた所、ミュスレアとエスネが「お前らも手伝え」と引き込んだ。


 まだ団長歴一年未満のアドラーよりも、二人の美女は顔が広い。

 ライデンで一位と二位のギルドが参加した後は、なし崩し的に増えた。


「わははは、暇人が多いからなこの季節は。良かったな、アドラー」

 エスネが能天気に笑う。


 目的も聞かずに興味本位で集まった八百人が、ライデン市を見下ろすグラーフ山を見上げる。


 委員長のエスネが、集まった連中を分配してダンジョンへ送る。

 『グラーフの地下迷宮』以外にも、周辺には数百の小ダンジョンや遺跡があり、実数はライデンの冒険者ギルド本部でも把握していない。


 そこへ、優秀な受付嬢テレーザとギルド本部の上役までやってきた。

「この機会を逃す手はない!」と。


 半年ほど前、アドラーは新設ギルドの試験官を務めた。

 その時、死んだはずのダンジョンからスケルトンが湧き出して、大問題となった。


 ギルド本部は、こつこつとダンジョンと遺跡の再調査を始めているが、まだ二割も終わってない。


 テレーザは、満面の笑みでアドラーにいった。

「自腹で調査してくれるなんて、流石はアドラーさんですね!」


「えっ、ちょと待って! こんな人数、破産しちゃいます!!」

「冗談ですよ、冗談。まあギルド本部で特別予算を組みます、激安の」


 冗談だと否定したが、テレーザの目はあまり笑っていなかった……。

 ライデン市を代表する冒険者がこぞって集まった一団は、まともに雇えば一日で金貨百枚を軽く超える。

 大した収入にならないと分かったが、集まった冒険者はよく働く。


「えー、ほんとにすいません。目的の魔法陣を見つけた組には金貨五十枚。残りの五十枚は、打ち上げに使って下さい」

 アドラーの思い切った一言が効果的だった。


 二日目は、参加者が更に増えて千人を超えた。

 これはライデン市に登録する冒険者の実に四分の一にもなる。

 三日目も三百人ほど増え、昼過ぎに怪しい遺跡を見つけた組が出た。


「アドラー、来てくれ。見たことない魔法陣で、うちの魔法使いも知らない波動だと言っている。金貨五十枚、忘れるなよ?」


 三千メートルはあるグラーフ山の八合目まで登った一隊が、異常に長い横穴の遺跡を見つけた。


 夕暮れにも関わらず、ブランカを連れて登山したアドラーは、目的の物を見つける。

 転移装置は、まだ稼働していた。


「目当ての物は見つけたのですが……」

 一旦、山を降りたアドラーは優秀な受付嬢に告げた。


「まだです。このままこき使いますから、黙ってて下さい」

 テレーザは容赦なかった。


 だがテレーザの企みに反して、賞金の五十枚が出たとの噂は直ぐに広まったが、冒険者達は四日目も働いた。


 グラーフ山は、ライデンの目と鼻の先。

 この一帯のダンジョンを把握してマッピングしておく重要性は、ベテラン冒険者ほどよく理解しているのだ。


 四日間で述べ四千人もの冒険者が潜り、調査したダンジョンと遺跡は、七百を数えた。

 新しく見つかったのも一割ほどあり、これで全体の八割程が調査済みとなる。


 魔物が出た生きてるダンジョンもあったが、死者も重傷もなし。

 ギルド単位でなく、実力者をリーダーにして十人ほどを編制した作戦が功を奏した。

 このような均質な部隊を多数作るのは、ミケドニア帝国軍が目指す新しい軍制と偶然ながら一致していた。


「ギルド単位の冒険者も、変革の時が来るのかなあ……」


 アドラーだけが、誰に聞こえるでもなく呟く。

 数人から数十人の仲間でつるむ冒険者ギルドというものを、アドラーはとても気に入っているのだが。


 そして四日目が終わった夜に、ライデン市に雪が降った。


 冒険者達は街中に繰り出して飲んでいる。

 本格的な冬となれば大きなクエストは組めない、その代わりに新人の訓練や新しい力を求めて神殿通い、武器と防具の整備に体力作りとやることは山程ある。


 何度か顔を合わせた程度の、とある冒険者がアドラーに声をかけた。


「詳しくは知らねえが……行くのか?」

「ああ。詳しく言えないが、ちょっと遠くへな」


「そうか、気をつけてな。なかなか楽しいイベントだったぜ。春になったらよろしくな」

「おう、またな」


 冒険者は、クエストに出る仲間に「さようなら」とは言わない。



 麓まで雪化粧を始めたグラーフ山を、アドラー達が登る。

 あと三日もすれば、山は閉鎖されていた。


 エスネやタックス、それにアスラウら、馴染みの数人が見送りに来た。


「ついて行ってやりたいが、ロゴス団長が腰に魔女の一撃を食らってなあ。今は私が仕切りなんだ」


 エスネが残念そうに、アドラーとミュスレアに言った。

 ぎっくり腰は、この世界の治癒魔法を使っても全快まで時間がかかり、また再発もする。


「気持ちだけもらうわ、ありがと」

 ミュスレアとエスネが軽く包容して別れの挨拶に代える。


 次は自分の番かとアドラーの胸が高なったが、エスネにはリューリアが飛びついた。

 最近のリューリアは、姉以外の女性が団長に近づくことを許していない。


 空振りしたアドラーには、タックスが肩を回す。

 キャルルとアスラウが、ぽんぽんと素早く腕と手を合わせて二人だけの意思疎通をする。


「と、尊い……!」

 美少年二人の友情を見たマレフィカは、感激の余りに涙しそうになっていた。


「僕も行きたかったけど、爺ちゃんが駄目だってさ」

「土産話、楽しみにしてろよ。またな」


 若い二人も流儀にならい「さよなら」は言わない。


 ハーモニアは見送りに来なかったが、ダルタスは「戻ったら食事の約束を取り付けた」と、自慢そうに語っていた。


「みんなありがとう、またな。さて、行こうか」

 アドラーに続いて、「にゃー!」と毛布にくるまれた団の守り猫が気合を入れる。


 ”太陽を掴む鷲”が古代遺跡に踏み込んだ。

 ドリーさんだけは近所の農家に預けたが、七人と一匹がいざ北の大陸へ――。


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