表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/214

女神に頼むと高くつくのは常識


 アドラーとダルタスの怪我の具合は……良かった。


 骨折ともなれば、いきなり全快は難しい。

 最初にズレないように魔法でくっつけて、後は定期的に治癒魔法をかけるか、放置でも良い。


 ロバのドリーが引く荷車に乗ったアドラーとダルタスは、定期検診を受けていた。


 上半身裸の団長とオークが、リューリア相手に古傷自慢を始めた。


「リューリアこれ、こっちの傷はグレイハウンドフォックスの爪が……」

「なんの、お嬢見てくれ。これはイボマンモスの牙がな……」


 リューリアは団のお医者さん。

 いまさら上半身の裸なぞで騒いだりはしないが、この数ヶ月、何十人もの冒険者を看てきたリューリアは不思議だった。


「なんで男の冒険者って、絶対に傷自慢をするんですかねー?」


 わざわざ上着を脱ぎ捨て、世界が別なら通報される格好をしていた男二人が大人しくなる。

 丁寧に骨折箇所を看ていたリューリアが、両手で同時にアドラーとダルタスの肌を叩く。


「はいおしまい。もう振り回しても大丈夫よ。けど、あまり無茶はしないでね?」


 優しい言葉をかけた次女は、荷車から飛び降りた。

 二人の古傷を見た弟が、ナイフ片手に自分の左腕をじっと見ていたからだ。


「バカなことするんじゃないわよ!?」

「ああっ、やらないから返して!」


 キャルルは腕に十字の傷を作る前にナイフを没収され、ブランカが「ばーかばーか」とからかう。


 子供らを見つめるマレフィカは楽しそうに一メートルほどの高さを飛び、バスティはロバの背中で昼寝。

 この女神さまは、人型になると自力で歩く必要があるので、旅の間はほぼ猫になる。


 普段の一行の中で、ミュスレアだけがおかしかった。


「あな……た……いや、アドラーどうかな? 魔法の薬飲んだのだけど?」

 ダークエルフ化していたミュスレアは、高価なマジカルコスメで日焼けから肌を回復中。


「あ、うん。何時も……どおりだね……」

「ほんと!? 嬉しい!」


 長女が白い頬を桜色に染めるのを見た次女は、捕まえていた弟に聞いた。

「お姉ちゃん、どうしたの? それ以前に、今の返事に喜ぶ要素あった?」


 ようやくナイフを返してもらった末弟は、何事もなげに答える。

「あー姉ちゃんね、なんか一晩中膝枕してたよ。あと告白しようとして、しっぱ……うわっ!?」


 キャルルは、この世界で唯一女神バスティの加護を持っている。

 まだ力のないバスティが授けた精一杯の贈り物は、自身の速度強化というレアな神授魔法。


 反応速度が上昇したキャルルでも、ミュスレアの動きを捉えるのは不可能だった。

 キャルルが生まれてから何千回とこなした弟の捕獲、あっさりと捕まえた長女は聞いた。


「起きてたの?」

「ちょ、ちょっとだけ……」

「忘れなさい」

「うん。けどボクは別に反対しないよ……」


 姉は本気の目で弟に頼む。

「いいから、忘れて」

「はい」


 ようやく地面に戻されたキャルルがほっと胸を撫で下ろす。

 ぽかんとした顔でブランカが言った。


「あたしの目でも追えないとは……さすがみゅすれあ」



 ルーシー国は、砂漠から南東の方角にあり特徴的な地形を持つ。

 国の真ん中を大河レーナが流れ、しかもそこに守護女神が在住するだけでも凄いのだが、国の大半が外輪山に囲まれいる。


「標高もあるからたぶん火山だ」とアドラーは思うが、ルーシーの民は別の神話を信じている。


 ルーシー国に入る直前で、”鷲の幻影”団が待っていた。


「ようこそ我が国へ!」

 案内するアストラハンも少し誇らしげ。


 気候も穏やかで女神付き、人々は多少閉鎖的でも気立ては良いとの評判だが、辺境のルーシー国へ訪れる人は少ない。


 アストラハンら”鷲の幻影”団は、女神アクアの運営する孤児院の出身。

 この国から出るのも珍しかったが、客を迎えるのは初めてだった。


 ギルド対抗戦で一度はぶつかった仲なので、会話も弾む。

 鷲の幻影の少女達は、やはりミュスレアの話を聞きたがった。

 そして少年達はアドラーとダルタスに寄ってきては、戦いの話をせがむ。


 アドラーからも一つ質問した。

「ところで、何か困ってることはないか? まあ手伝えるのは討伐関係に限るけど……」


 アストラハンは、首を捻ってから「特にないです」と答えた。

 幻影団は、女神アクアのコネで有用な神授魔法を備えて実力は高く、アドラー達の力もきちんと測れるほど。

 彼らに手が負えねば遠慮なく頼むはずだった。


「なんだか申し訳ないね。手伝いだけをさせてしまって……」

「いえそんな、みんな楽しみにしてたんですよ。ライデン屈指の冒険者に話を聞く機会なんてそうありませんから!」


 アストラハンは本音で答えていた。


 情報の集積と拡散が未発達な時代では、僅かな書物以外には直接か間接に聞く以外に方法がない。

 この大陸にも旅の吟遊詩人は居て、国を超えたギルドを形成している。


 アドラー達の語った冒険譚は、幻影団や孤児院で長く話の熾火になるのだ。



「ここに良い温泉があるんです。是非浸かっていってください」

「えっ、ここ? 勝手に入って良いの?」


 アドラーが驚くのも無理はなく、案内されたのは豪奢ではないが広くて良く手入れされた神殿。


「平気ですよ。アクア様の意向で開かれてますし、そもそも祈りに来る人と掃除の人以外は、みんな温泉目当てです」


 アドラーにも、何となく分かる。

 オケアニデス――水神の一族――の一柱、女神アクアが直々に君臨するなら、偉そうな神官など全くの用無し。


 権威で着飾った者がいなくとも、そこに本物の神様が居るとなれば参拝客など幾らでもやって来る。

 近隣の女達が日を決めて掃除にやってくる神殿の温泉は、古傷にもよく染みた。


「これは、体がほぐれるな……」

 風呂嫌いのダルタスも満足げ。


「キャル、泳ぐんじゃないぞ」

 一応注意したアドラーを尻目に、キャルルは広い湯殿に飛び込んだ。


 男湯は三人だけで広々、女湯には人の形に戻ったバスティも含めて五人。

 乾いた砂漠を行き来した太陽と鷲にとって、まさに命の洗濯であった。


 元は地球の人らしく、アドラーは風呂の作法にはうるさい。

 オークとエルフの少年にあれこれ指図しては面倒がられていたところ、お湯の中から何者かが現れた。


「はーい、アドラー団長。おひさし」

 軽い言葉と共に、神殿の主がやって来た。

 それも全裸で。


 硬直するアドラーと、実に嬉しそうな笑顔を見せたダルタス、そして姉以外の女性の裸を初めて見たキャルル。


 三者三様の反応を楽しみながら、ルーシー国で最も愛され敬われている女神は続ける。


「せっかく好きな神の力をあげるって言ったのに、ずっと放置って酷くない? それとも、それが北の大陸流の口説き方?」


 上半身を湯面から起こした女神さまは、豊かな青い髪と胸を揺らしながらいった。


自分が主にやってるのはグラブルとアイギスです

エスネなどのネーミングはFfH2から貰ってます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ