表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/214

13


 面接会場は、ギルド本部となる。


 複数ギルドの合同クエストや、新規ギルドの立ち上げや、新人勧誘の場として部屋を貸し出している。


 だが「何故だ!? なぜ誰も来ない!」

 募集から二日経っても、アドラーの元に加入希望者は現れなかった。


「宣伝が足りないかな……。シャイロックとの話がまとまれば、あちこちに貼ってみるか」


 前世は動物好きの雇われ人だったアドラーに、会社を運営した経験はない。


 ともあれ、まずは借金を何とかせねば始まらない。

 踏み倒す気満々だったアドラーも、多少は心境が変わった。


 いざと気合を入れてシャイロックの店に乗り込んだが、意外な結果が待っていた。


「あれ、今日は一人ですか?」

 思わずアドラーの口から漏れた。

 シャイロックは護衛も付けずにアドラーを迎え入れたのだ。


「あんさん相手に、ずらっと並べても意味ないですしな」


 シャイロックは手段を問わぬ悪徳商人だったが、計算は高かった。

 金の卵――クォーターエルフの3姉弟――を追いかけて、猛獣を敵に回すのは避けた。


「本部での人員募集は聞きましたで。一応、団長はんも本気のようなんで、わても勉強させてもらいましたわ」


 新人こそ来なかったが意外な効果があった。


 シャイロックが新たに差し出した書面は次の通り。

 一つ、次のギルド戦が終わるまでの半年間の利子は月に金貨1枚。

 一つ、この間は元本の返済は無用。

 一つ、その後は月に5%の利子になるが、一度でも滞ればアドラーはシャイロックの手下となる。


『悪くない』がアドラーの本音。

 シャイロックの譲歩は、ボッコボコにするのを我慢したのを差し引いても、十分だと思った。


 アドラーは半年もあれば何とかなると思っている。

 一方のシャイロックは、返済が不可能ならば武力として手駒に加えたいとの判断。

 なんと言っても、奴隷にしたとこでアドラーに大して価値はない。


 即座に『ならこれで!』と言いたかったが、アドラーはぐっと堪えた。


「手下と言っても、業務内容も期間も書いてないですね?」


「団長はんのことを、ちと調べさせて貰いましたが、この街に現れるまでの一切が謎でしたわ」

 シャイロックは質問には答えなかった。


「何処からいらしたかは、まあよろしいです。様々な人々が集まるのが自由都市ライデンですからな。わての手下と言っても、無給でこき使ったりはしません。しかもきちんと身分ある方として扱わせて頂きます。どうでっしゃろ?」


 半ば脅し、三日で調べ上げたカナン人の情報網にアドラーも静かに舌を巻く。

 シャイロックの手下となれば暗黒街の武力担当になってしまうが。


『否応もなしか』

 半年は好きにさせてやると提案してきたのだ、アドラーは条件を飲んだ。

 アドラーが本当にぶん殴ってやりたい奴は別に居る。



 帰り道で、アドラーは肩に乗せたバスティに語りかけた。

「やれやれ。商人ってのは恐ろしいなあ」

「にゃおん」


 バスティは慰めるかのように、アドラーの頬を一つ舐めた。



 ギルド本部へ立ち寄ったアドラーを、テレーザが手招きした。


「なんですか?」

「これ今入った依頼なんだけど、どう思う?」


 差し出されたのは二つのクエスト。


・ガラガ村から

 村人を食殺したコボルトの処刑と報復。腕の立つ者。


・コボルトの村から

 ガラガの村で理由なく仲間が捕まった。救出の交渉役。


「同じ案件ですねえ」

「だよねー。どっちも安いのだけど、同時に解決出来れば報酬は二倍よ。それにね……」


 テレーザの言いたいことを、アドラーは先回りした。

「コボルト族が人を食うはずがない。勘違いか、犯人は別にいる」


「そう、それ! アドラーさん、少数種族にも優しいでしょ。だからお願いできない?」


「よし、このアドラーが請け負いましょう!」

「ありがとうね!」


 クエスト受領の合図として、テレーザが机上のベルを二度チンチンと鳴らす。


 いよいよ、団長としての初仕事が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ