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面接会場は、ギルド本部となる。
複数ギルドの合同クエストや、新規ギルドの立ち上げや、新人勧誘の場として部屋を貸し出している。
だが「何故だ!? なぜ誰も来ない!」
募集から二日経っても、アドラーの元に加入希望者は現れなかった。
「宣伝が足りないかな……。シャイロックとの話がまとまれば、あちこちに貼ってみるか」
前世は動物好きの雇われ人だったアドラーに、会社を運営した経験はない。
ともあれ、まずは借金を何とかせねば始まらない。
踏み倒す気満々だったアドラーも、多少は心境が変わった。
いざと気合を入れてシャイロックの店に乗り込んだが、意外な結果が待っていた。
「あれ、今日は一人ですか?」
思わずアドラーの口から漏れた。
シャイロックは護衛も付けずにアドラーを迎え入れたのだ。
「あんさん相手に、ずらっと並べても意味ないですしな」
シャイロックは手段を問わぬ悪徳商人だったが、計算は高かった。
金の卵――クォーターエルフの3姉弟――を追いかけて、猛獣を敵に回すのは避けた。
「本部での人員募集は聞きましたで。一応、団長はんも本気のようなんで、わても勉強させてもらいましたわ」
新人こそ来なかったが意外な効果があった。
シャイロックが新たに差し出した書面は次の通り。
一つ、次のギルド戦が終わるまでの半年間の利子は月に金貨1枚。
一つ、この間は元本の返済は無用。
一つ、その後は月に5%の利子になるが、一度でも滞ればアドラーはシャイロックの手下となる。
『悪くない』がアドラーの本音。
シャイロックの譲歩は、ボッコボコにするのを我慢したのを差し引いても、十分だと思った。
アドラーは半年もあれば何とかなると思っている。
一方のシャイロックは、返済が不可能ならば武力として手駒に加えたいとの判断。
なんと言っても、奴隷にしたとこでアドラーに大して価値はない。
即座に『ならこれで!』と言いたかったが、アドラーはぐっと堪えた。
「手下と言っても、業務内容も期間も書いてないですね?」
「団長はんのことを、ちと調べさせて貰いましたが、この街に現れるまでの一切が謎でしたわ」
シャイロックは質問には答えなかった。
「何処からいらしたかは、まあよろしいです。様々な人々が集まるのが自由都市ライデンですからな。わての手下と言っても、無給でこき使ったりはしません。しかもきちんと身分ある方として扱わせて頂きます。どうでっしゃろ?」
半ば脅し、三日で調べ上げたカナン人の情報網にアドラーも静かに舌を巻く。
シャイロックの手下となれば暗黒街の武力担当になってしまうが。
『否応もなしか』
半年は好きにさせてやると提案してきたのだ、アドラーは条件を飲んだ。
アドラーが本当にぶん殴ってやりたい奴は別に居る。
帰り道で、アドラーは肩に乗せたバスティに語りかけた。
「やれやれ。商人ってのは恐ろしいなあ」
「にゃおん」
バスティは慰めるかのように、アドラーの頬を一つ舐めた。
ギルド本部へ立ち寄ったアドラーを、テレーザが手招きした。
「なんですか?」
「これ今入った依頼なんだけど、どう思う?」
差し出されたのは二つのクエスト。
・ガラガ村から
村人を食殺したコボルトの処刑と報復。腕の立つ者。
・コボルトの村から
ガラガの村で理由なく仲間が捕まった。救出の交渉役。
「同じ案件ですねえ」
「だよねー。どっちも安いのだけど、同時に解決出来れば報酬は二倍よ。それにね……」
テレーザの言いたいことを、アドラーは先回りした。
「コボルト族が人を食うはずがない。勘違いか、犯人は別にいる」
「そう、それ! アドラーさん、少数種族にも優しいでしょ。だからお願いできない?」
「よし、このアドラーが請け負いましょう!」
「ありがとうね!」
クエスト受領の合図として、テレーザが机上のベルを二度チンチンと鳴らす。
いよいよ、団長としての初仕事が決まった。