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 このイベントの最中だけは、冒険者も朝が早い。

 朝の七時相当から、ぞろぞろとダンジョンへ魔物を狩りに潜る。


「反対なんだけどなあ……」

「いいから!」


 最終日のアドラーは、キャルルが地下の10層まで行くのに反対だった。


「みんな一緒で動くって決めたじゃん? にいちゃん、ねえいいでしょ?」

 どうしてもとせがむキャルルに押し負けた。


「救護用のキャンプを10層入り口に作るから、そこから離れないように」との条件で、キャルルとリューリアも同行させることになった。

 アドラーは可愛い弟分に甘いのだ。


 現在、アドラーのギルドは総合で55位。

 四勝してシード権利を確定した八つのギルドを除けば47位。


 56位までに入れば次回のシード権が得られる。


「どうだろ? ちょっと稼げば余裕かな?」

 アドラーは楽観的だった。

 しかし、対抗戦大好きなミュスレアが、にやりと笑った。


「なに言ってんの、この最終日が本番なのよ!」


 競争圏内にいる七十ほどのギルドが、高ポイントを求めて一斉に10層以下の深部に挑む。


 団の名誉と将来を賭けた本気の争い。

 残りの五十ギルドは、早々に酒盛りを始めたり、救護キャンプの護衛を買って出てくれたり。


 既に全勝してシードを確定させている、エスネ率いるシロナ団の第一部隊も最前線にいた。


「絶対に、総合首位を死守するぞー!」


 エスネが団員に向かい剣を突き上げ大号令をかける、いったい何がそこまで彼らをかき立てるのか。

 ここまでの四日で、五十時間以上も戦い続けたライデンのトップギルドは、異様に士気が高かった。


「じゃ、ちょっと行ってくる。リュー、キャルが勝手しないように見ててね」


 下の二人は救護キャンプに置いて、アドラーはまず10層から探検する。

 ここまで来たのは初めてだった。


 色々と興味をそそられ、また別の遺跡に繋がる穴など空いていないか、調べて回るつもりだった。

 だがしかし、アドラーは甘かった。


「うおおおっ!? なんじゃこれー!」

 次々と魔物が出るのは良い。


 問題はそれを駆逐して回る、周りの冒険者達の勢いと気迫。

 昼を前に、アドラー達の順位は一気に十も落ちてシード圏外に押し出されてしまう。


「出し惜しみはなしで、昼から強化魔法を使います。あとマレフィカ、魔法解禁。吹き飛ばしちゃって」


 昼食の後から、アドラー達はダンジョンの最深部、12層へと転戦した。


「おお、手応えがあるな!」

「よゆうよゆう」

 強化されたダルタスとブランカが、右へ左へと走り回る。


「体が軽い! これはエスネに追いついちゃうかもなー!」

 ミュスレアは絶好調で、縦横無尽に槍を振るう。

 どんな武器も器用に使いこなせるエルフ娘は、間合いと威力を両立出来る槍と相性が良かった。


 そして夜、本戦最終日が始まって12時間が過ぎた。


「もうむりー。杖を振ってもなにも出ないー」

 最初にマレフィカが限界を迎えた。


 アドラーも、徐々に強化魔法を維持するのが辛くなってきた。


「な、なんで止まらないんだよ……」


 周囲の団に、減速する気配はない。

 相手が止まらないなら、こちらも止まれない。


 シード権争いは、時間一杯までの泥沼となっていた。


 アドラーは、倒した敵を数えるのをやめた。

 何時もの癖で、二百あたりまではカウントしてたが、もう分からなくなった。


 ただひたすら、仲間と並んで出てくる魔物を倒し続ける。


 心にあるのは、一日十六時間に設定した運営への恨み節のみ。

 ただ一つ、ブランカやダルタスでさえバテて来た中で、ミュスレアが楽しそうなのだけが救いだった。


「うん、そろそろかな?」

 ようやくミュスレアも動きを止めた。


 ここ12層でも、冒険者以外に動くものがほとんどなくなった。

 ダンジョンの魔物はダンジョンが生み出す。


 魔素が集まって生まれた魔物は、半年もすれば再構築されて元気な姿を見せるだろう。


「おーい、エスネ! もう良いんじゃないか?」

 ミュスレアが大きな声で呼びかけた。


「ああ、もうそんな時間か……。よし、撤収するぞ。集まれ!」

 すっかり目つきが悪くなったエスネが、シロナ団の者を呼び集める。


 これを合図に、最下層にいた各ギルドが地上に戻る準備を始めた。

 朝から潜って十五時間半、対抗戦も残り半時間での出来事だった。


「どうだ?」

「ふっ、わたしはこれだ」


 ミュスレアとエスネは、自分の胸に付けたカードで獲得ポイントを確認し合う。

 個人の1位はエスネに決まった。


 アドラーも含め、数百人の冒険者は幽鬼の行列。

 その中で、ライデンの女冒険者三大美女の二人が元気に先頭を歩く。


「ふ、二人とも、見た目だけってわけではないなあ……」

 アドラーは、改めてトップクラスの冒険者を見直した。


 だが、死にそうな顔で迷宮から出てきた男達も、鎧を脱ぎ捨て顔を拭うと肉と酒に食らいつく。


 対抗戦は今日で終わり。

 後は朝まで飲んで歌って翌日のんびりと帰るだけ。


 日付がとっくに変わった頃、シード獲得ギルドが発表された。


 ”太陽を掴む鷲”は、ポイント順位56ギルドの54番め。

 ギリギリで滑り込む。


 しかし団の半分以上はとっくに熟睡。

 アドラーとミュスレアとダルタスは、三人で静かに祝杯をあげた。



 翌日のアドラーには、家に戻る前にすることがある。

 バルハルトと話さねばならない。


 何を何処まで教えるか、そしてバルハルトは何処まで知っているのか。

 二つの大陸に関わる、大きな問題であった。


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