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 楽しい楽しいギルド対抗戦も、残り二日。


 連日、同レベルのギルドと朝から晩まで競い、勝てば対戦相手も魔物も強くなる。


 四日目までは、ギルド同士の争い。

 そして最終日は、シード権利と個人順位のラストスパート。


 個人の10位のまでには、”対抗戦の英雄”という微妙な称号がもらえる。

 さらに個人100位まで副賞が出るが……昨年はミン国特産の花瓶というこれまた微妙なもので、閉会式は大いに荒れた。


「さーみんな、今日も全力で稼ぐぞ? どーした元気ないな?」

 四日目も、この過酷な対抗戦が好きなミュスレアの士気は高い。



 三日目の夜、アドラーは団員に全てを伝えた。

 反応は様々だった。


 キャルルは、アドラーとブランカが戻ってきた事を素直に喜ぶ。

 少年はまだ若く、別れてもまた会える、それか自分も付いて行けばいいと、深刻には考えてない。


 女の子のリューリアは、今の安定した状況が壊れることに抵抗がある。

 それでもブランカを抱き寄せて、「勝手に行っては駄目よ?」と釘を刺すにとどめた。


 ミュスレアは、困ったなどうしようという表情を隠さなかった。

 もともと彼女は、直ぐに顔に出る。


 視線も真っすぐで、物言いたげにアドラーを見ては、気付かれて視線を外すというのを何度か繰り返す。


「ブランカ、おいで」


 ミュスレアは、妹の腕の中にいたブランカを呼び寄せる。

 何時もキャルルやリューリアと同じ様に可愛がり、時に叱るもう一人の妹。


「離れたくない!」

 ブランカの方から抱きつく。


 アドラーは、選択肢はブランカにあると気付いた。

 団の中で、一番寿命が短いのはアドラーだった。


 オークも寿命は長い方で、マレフィカは魔力に支えられながらよぼよぼの魔女になるだろう。

 そしてブランカは、皆の子や孫を見届けてなお、永劫の時を生きる。


「もうちょっと……」

 みんなで一緒にいようと、アドラーが言おうとした時、ミュスレアが続きを奪う。


「今度はみんなで行きましょう!」

「えっ?」


「え、じゃないわよ! 二人とバスティで行っちゃうから、みんな心配なんでしょ? 全員で行けば問題ないわ!」


「いやいや! 人跡未踏が盛りだくさんで、魔物もこっちより大きく強い。あちこちに国や冒険者ギルドがある、この大陸とは違うんだよ?」


「だったら尚更じゃないの!」

 この話し合いで初めてミュスレアが怒った声を出した。


 しかしそれも無理はない。

 別の大陸に繋がる遺跡を見つけたとの、アドラーの話から小一時間。


「次に行く時は、お前も一緒に来い」と言われるのを、ミュスレアはじっと待っていた。


 何時まで経っても誘わないアドラーに対して、短い怒りの導火線にあっさり火が付いた。


「ねえ、ブランカ?」

「なに?」


 ミュスレアは、ブランカには優しく語りかけた。


「あっちに行ったら、住む家を探すんでしょ?」

「うん。一番高い山に住む」

「だったらみんなで、お引越しの手伝いをしないとね」


 大陸の守護竜になるブランカが、それなりの竜になるにも数百年はかかる。

 それをまるで、妹のひとり暮らしの準備のようにあっさり片付けた。


「もしも、黙って勝手に行ったら許さないわよ? 海の果てでも追いかけてくから」


 アドラーは、比喩でも何でもない言葉で脅された。


「へー、兄ちゃんの故郷か。どんなだろ」

「かわいい服、あるかしら?」

 キャルルとリューリアは、姉の決定に異論なし。


「いいの?」

 アドラーは、マレフィカとダルタスにもそっと尋ねた。


「新大陸かー。興味深いな、十年や二十年くらいなら付き合うぞ?」

 魔女は好奇心の塊。


「問題ない。強者に付き従うのがオークだ」

 ダルタスは、何時もの仏頂面で断言した。


「ダルタスさ、ハーモニアとはどうなったの?」


 キャルルが突然聞いた。

 自分の四倍以上の体重があるオークを、少年はまったく怖がらない。


「ん、んな!? そ、それは!」

 珍しく、ダルタスが表情に出して動揺する。


「良いから言えよー」

「むむむ……ほ、ほとんど相手にされぬ……やはり強さが足りぬようだ。未知の大陸で鍛え直し、再度突撃しようかと……」


「なんだ、じゃあみんなの目的は同じか。ブランカの新しい家、探してやらないとな!」


 アドラーの代わりに、キャルルがまとめた。

 このギルドは、これからも一丸となって動くと決めた。



 そんな訳で、今日もギルド対抗戦が大好きなミュスレアは元気いっぱいだった。

 他のみんなも、気分は晴れているのだが三日目の激闘のせいで体が重い。


「まあ、そうだな。今日は七層の様子を探ろう」

 アドラー達は、日が高くなってからダンジョンに潜る。


 個人ランキングで二位につけるミュスレアは暴れ続ける。

 現在の個人一位は所属ギルドも三連勝している青のエスネだった。


 まだ一勝で六層や七層で戦う団の者が二位に付けるなど前代未聞。

 アドラーの強化魔法を限界を超えて受け取るミュスレアに敵う魔物はなく、見つけるを幸いに殲滅していく。


 それを見ていた、四日目の対戦相手が白旗を上げた。


「アドラー、すまんが先に上がらせてもらう。今回は結構きついからな、これ以上の怪我人は出したくない」


 相手の団長がやってきて、そう告げた。


「良いのか?」

 団員七人のアドラー達との対戦は、ボーナスステージのはずだが。


「良いんだ。お前のとこの連中を見てると……勝てる気がしない」


 相手の団長がちらりと見た先では、ミュスレアを先頭にブランカとダルタスが突っ込み、キャルルが数歩後ろを付いていく。

 起立した二足のオオトカゲ、ティラノスと呼ばれる中型魔物が蹴散らされるところだった。


 四日目も終わった。

 対戦形式はこれで終わり。

 もう一層から九層までの魔物はほとんど討伐された。


 最終日は、深部と呼ばれる十層から十二層にかけて慎重に踏み込む。

 どの団も、怪我人や新人は外して精鋭を出す。


 本戦進出128のギルドから、おおよそ千人ばかりが参加する締めの一日。


 もう対戦が無いので、地上のキャンプには和気あいあいの空気が流れる。

 ライデン市のギルドが集まる焚き火では、リューリアが引っ張りだこ。


「一曲、一曲でいいから歌って!」と、みんながエルフの歌を聞きたがった。


「なんでわたしのとこには、頼みに来ないんだ?」

 ミュスレアが妹との扱いの差に憮然としながら、アドラーに酒坏を差し出した。


 リューリアが歌う度に、差し入れが増えた。

 肉に酒にパンに、七人のギルドには多すぎるくらい。


「まあ、今回も無事に終わりそうで良かった」

 アドラーは、受け取った酒杯を美味そうに傾ける。


 あとは現在55位のギルド順位を維持して、エスネとミュスレアの一騎打ちになった個人ランキング――特典はない――の行方を見守るのみ、なはずであった。


 だがしかし、この前日、三日目の夜にアドラーが出した報告書は、運営から即座に一人の男にも通知されていた。


 ”宮殿に住まう獅子”東部総団長のバルハルトである。

 バルハルトは、帝国と冒険者を繋ぐ役割を持っている。


 いざミケドニア帝国が外敵との戦いになれば、国内で四万とも五万とも言われる冒険者は重用な戦力。


 それゆえ帝国政府も、冒険者に基本的には寛大な方針を取る。

 帝都に居たバルハルトが、四日目の夜に驚くべき報告を帝国政府から受ける。


「馬鹿者どもめ! そのような態度で冒険者を挑発するなど、愚の骨頂! えーい、馬を引け!」

 バルハルトが、ライデン市へ向けて夜の街道を駆ける。


 帝国や周辺列強がここ数十年、『未知の大地』のことを調べているのは帝国中枢に繋がりがあるバルハルトは知っている。


 そしてアドラーの出した報告書に、ミケドニア帝国は僅かながらもヒントを見つけた。


 バルハルトは、冒険者に関する問題は自分に下命されると思っていたが、帝国政府は直接の強行手段に出ていた……。


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