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「えーっと、ここってどの辺りですか?」

「大陸本土の、北西だ」


 アドラーは、村人を質問攻めにしていた。


「本土……アドラクティアと行き来は出来ますか?」

「冬が終わり春になれば船が来る。今は海が荒れる」


 アドラーの生まれ故郷は、大陸東岸のヴィエンナ地方でかなり遠い。


「大陸の情勢は……聞いていますか?」

 一番気になっていた事を聞いた。


「二年ほど前から落ち着いてるそうだよ。何でも、出てくる魔物の数が急激に減ったとか」


 アドラーにしては珍しく、拳を強く握って突き上げ感情を表に出した。

 かつてのアドラーは、敵――昆虫型の魔物――の本拠地で補給線を吹き飛ばした。


 いきなり平和にならなくとも、戦況は好転するはず。

 だが、突然に羽を持つように進化するや、別のゲートが開いて大群がやってくるなど、ありがちな状況をアドラーは心配していた。


 喜ぶアドラーの側に、ブランカとバスティもやって来て、よく分かってないが一緒に跳ね回る。


 その様子を見て、逃げ散っていた村人達も集まってくる。


「ね、猫と踊る男……」

「いや、あの子……竜神様じゃね?」

 見ていたリザード族がブランカを見ていった。


 こちらの大陸は、種族が混ざり合って生きている。

 人族はもちろん、ゴブリンやコボルトにリザード族、各種族の混血に獣耳を持つ者と多種多様。


 遠巻きにしていた村人が、アドラーに尋ねた。


「なあ、ここらでどデカイ怪物見なんだか?」

「三つ首の黒いやつですか?」


 村人達がざわめいた。


「そいつだ!」

「ど、何処さ行った?」


「二日ほど前に、退治しました」


 村人達は、驚いた表情で見つめ合い、肩の荷が降りたとばかりに笑いあった。


「よ、良かったー!」

「死なずにすんだ!」

「し、死骸はあるかね!?」

「兄さん、そんな強いのか?」

 今度は、アドラーが質問攻めにされる。


 収拾がつかなくなり、村長にも聞かせたいとせがまれ、アドラーは一時間ほどの距離にある村へ行くことにした。


 道すがら、お互いに色々と話を聞いた。


「二ヶ月ほど前かな、三つ首の化物が現れてな。島に住むタタンカを襲い始めてな」


 タタンカとは、毛の長い野牛のこと。

 この島の住人の貴重なタンパク質だが、暴れ狂うケルベロスにはとても手出し出来ない。


 ここしばらく姿を見なくなったので、意を決して様子を伺いに出たらアドラー達を見つけたとのこと。


「うーん、こっちは何処まで話すかなあ……」

 アドラーは迷った。


 全て伝えても良いが、信じてくれるかが問題。

 悩むアドラーの前に、ブランカが周り込んで来た。


「だんちょー。あいつ、あたしのお尻ばかり見るんだ」

「な、なんだと!?」


 ブランカが指さしたのは、一人のリザード族。

 うちの子をそんな目で見るなど許せんと、アドラーは激怒しかけた。


「ちがっ、違うんだ! その尻尾、俺たちの種族のものではない! ひょっとして、伝説の竜族かなって!」


 慌てたリザード族の若者が言い訳した。


「ほう、分かるのか?」

「神話に出てくる、白き竜そっくりだ」


 アドラーの問いに、リザードは正直に答えた。


 それを耳にしたブランカは途端に嬉しそうになる。

 なにしろ、初めて初見で竜族だと分かってもらえたのだから。


 自らの力を示すように、突然ブランカが高く跳ねた。

 垂直に二十メートルは飛び、白い髪に陽光が反射して煌めく。


「はえー、やっぱりあんた方が倒してくれたのかね。三つ首の魔物は」

 村人達は、牧歌的で素直だった。


 彼らが手に持っているのは、鋤や鍬といった普通の農具。

 着いた村の様子を見ても、魔法の補助を受けた武器や道具など見当たらない。


 魔法技術を元に進歩した南の大陸と、ようやく平和の糸口が見えこれからの北の大陸。

 万が一にも、この二つがぶつかればどうなるかは明らか。


「やはり人口と軍事技術に差がありすぎる……」

 アドラーの懸念は、現実のものになりかけていた。



 村長は、アドラーの話を丁寧に聞いて、アドラーは包み隠さずに喋った。

 村にあった大陸の地図については、アドラーの方が詳しかった。


「種族連合ヴィエンナ方面軍の特殊遊撃隊。そこの隊長でした。この辺りにあった敵集団が湧き出る塔を破壊して、見知らぬ土地へ飛ばされました」


 アドラーの話は荒唐無稽でも、行動は全て事実。

 淀みのない説明に、村長達も信じざるを得ない。


 この島は、巨大な大陸の北西。

 アドラーは大陸東岸の生まれで、中央部に向けて戦った。


 村長が尋ねた。

「それで、船が来るまで村におられますかな? もちろん歓迎しますぞ」


 有り難い申し出だったが、アドラーは断る。


「いえ……ここは、私の故郷には遠い。大陸の横断は避けたいので。それに、まだイベントの最中なんです」


「い、いべんと?」

 村長達は、何のことやらといった顔になる。

 みんなの所へ戻ると決めたアドラーは、何通かの手紙を書いた。


「届くか分かりませんが、これを船に託して貰えますか? これでお願いします」


 アドラーは、手持ちの金貨を取り出して渡す。


「み、見たことがない金貨ですな。それに質も恐ろしく良い……」

 村長達は、アドラーの話を再び信じることになった。


「重要な事が書いてあります。それと私が帰った後、あの魔法陣は隠して下さい。壊したら駄目ですよ、何処に飛ばされるか分かりません」


 アドラーは自分の経験を参考にしてアドバイスした。



「戻っていいのかにゃ?」とバスティが聞いた。

「だって、対抗戦の最中に団長が消えたら困るだろ?」

 アドラーは本気で答えた。


「みんなと、お別れもないなんて嫌だ!」

 ブランカも賛同した。


「うちは嬉しいけどにゃ」

「今は、帰れると分かっただけでいいよ。この遺跡は、グラーフ山の何処かにある。また見つけても良いし、別の遺跡を探しても良い。出来れば、アドラクティア大陸の東へ繋がるとこが良いなあ」


 アドラーは、自分が消えてしまうことで、南の大陸の人々が転移装置に気づくのを恐れた。


 二つの大陸は、もっと準備を整えて平和的に出会うべきなのだ。

 文明間の突然の出会いは、不幸を呼ぶ可能性が高いと地球出身の団長は知っている。



 南の大陸(メガラニカ)に戻ってきたアドラーは、転移装置のある遺跡へ続く通路を崩落させた。

 そして、グラーフ山の大迷宮へと戻る。


 大穴から顔を出すと、リューリアの歌声が聞こえる。

 どうやら怪我人が出たようで、歌に乗せて治癒魔法を広めていた。


「おう、遅かったな」と、冒険者の一人が声をかけた。

 もう五時間ほど経ったが、誰一人去らずに穴の前で頑張っていた。


「先程、大群がやってきてな。入れ食いだぜぇ?」

 冒険者が楽しそうに教えてくれる。


「楽しそうで良かった。ブランカ、俺らもいこうか」

 アドラーは全隊を見回す。


 ミュスレアは、魔物が一番分厚いところで暴れている。

 キャルルも長女の隣にいて、マレフィカは後ろから援護。

 ダルタスは、ハーモニアの横で戦おうとして追い払われる所だった。


「なんだ、余裕あるな。ちょっとひと暴れしますかね」

「あい!」

 アドラーとブランカが参戦し、魔物は急激に数を減らす。


 ”太陽を掴む鷲”はハイペースで稼ぎ続けたが、同じ場所で三十人が戦い続けた”偉大なる調和”団の方が、少しだけ討伐ポイントが多かった。


「くっそー、負けたか」と悔しがるアドラーと、「悪いな、あたしらの勝ちだ!」意気揚々のハーモニア。


 対抗戦の三日目を終えて、アドラー達は1勝2敗。

 しかし総合ポイントでは、遂に60位とシード圏内に食い込んだ。


 本戦はあと二日。

 この二日で次回のシード権が取れるかが決まる。


 それと、アドラーは報告書を一つ書いた。

 運営本部に出すもので、繋がっていた遺跡の詳細だが、適当に誤魔化す。


「事実の方が荒唐無稽、バレるはずがない」と、アドラーは思っていた。

 だが、アドラーの行動に特別な注目を払う人物がいた。


 この報告書を呼び水に、対抗戦の最終日はとんでもないことになる。


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