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二つの大陸と二つの文明


「だんちょー、崩れそう!」

「脆くなってるにゃ!」


 未知の遺跡へ続く通路は、巨大なケルベロスが通ったせいでボロボロだった。


「行ったきり戻れなくなると困るなぁ」

「困る!」

 ブランカとバスティが、勢いよく同意した。


 少し背が伸びて地上最強に近づいた竜の幼生と、猫と冒険の女神に怖いものなど……なくもない。

 居心地の良い仲間と暖かなベッド、それに美味しい食事は失いたくないと思うに充分。


 ブランカには、生まれ故郷のアドラクティア大陸に戻るという使命はあるが、せいぜい五百年もすれば自力で飛んで行けるのだ。


「あたしの故郷に連れていけ!」と、アドラーに頼んだことなど八割方忘れていた。


「変な感覚だにゃあ」

 バスティがアドラーの肩の上で周囲を見渡す。


 魔物などの気配はないが、ブランカは服の裾を握ってアドラーの後ろについた。

 膨大な力を秘めるとはいえ、まだ守ってもらいたい年頃である。


「離れるなよ?」

 アドラーは右手をブランカの頭に、左手をバスティの頭に伸ばした。


「うん!」

「はいにゃ!」

 神と竜と人は、同じ側に並ぶ存在。

 反対側には、巨人族や昆虫型の群生体がある。


 かつては神の敵もあった。

 全てを混沌に統一しようとするモノで、多数で個別に生きようとする神々と争い負けた。

 この世界は、個体が自由に生きる世界を選びつつある。


 三世代同居とも言えるアドラー達が、小走りで進む。

 目的地は、はっきりしている。

 強い魔力の集中する遺跡中央部。


 ブランカにとってアドラーは、祖母が託した保護者で群れのボス『だんちょー』


「離れるな」と言われれば手を回してくっつき、「待て」と言われれば待つ。

 そのブランカが意識せずに命令を破る。


 大きな空間の床に描かれた複雑な魔法陣。

 そこから溢れ出す懐かしい感じに、思わずアドラーの服から手を離して駆け寄った。


「ブランカっ!?」

 アドラーは驚いたが迷わなかった。


 魅入られた様に手を放した竜の子に追いつき、そして庇うように抱き寄せる。

 魔法陣に踏み込んだ瞬間から、強い魔法が起動したのを感じ取っていた。


「だ、だんちょー! ごめんなさい、何故かつい!」

「大丈夫、大丈夫。魔法に抵抗するな、逆らおうとすると酷い目にあうぞ。経験済みだ」


 腕の中にブランカとバスティを抱えて、アドラーは落ち着いて全ての魔法を切る。

 かつて一度だけ経験した長距離転移魔法。


 アドラーには以前、この魔法を制御しようと介入した時、凄まじい反発力で体を引き裂かれた体験がある。


「今度は無理しない。二人とも、心を落ち着けてしっかり掴まれ」


 ふと、転移した瞬間に三体が混ざったらどうしようと、アドラーは不安になった。

 神と竜と人が融合した、至高の存在が誕生してしまう。


 ――そして、転移魔法が発動した。



 アドラーにとっては二度目である。


「うー気持ち悪い……」

 腕の中で、ブランカが転移酔いを訴えた。


「バスティ、いるか?」

「こ、ここにいるにゃ」


 猫の神はアドラーの右腕にしがみついて付いていた。


「よし、一旦離れるぞ!」

 二体を抱き上げ、アドラーは魔法陣から走り出る。


「何処か痛いとこないか? 平気か?」

「怪我はないよ。それより、だんちょー、ここ……」


 そう言いながらブランカが上を見渡す。

 先程まで居た遺跡とは、あきらかに違う。


 天井には大きな穴が空き、薄曇りの空から細かな雪が舞い落ちる。

 アドラー達が参加していたギルド対抗戦は、夏の終わりに開催されていたはずだった。


「まさか、本当に戻れてしまうとは……」

 アドラーとブランカは、生まれ故郷に居た。


「げっ、まじか。姉さまの存在が凄く近い……」

 バスティが一つ身震いした。


 穴をよじ登ったアドラーは辺りを見渡す。

 祭祀場だろうか、環状列石の中央に穴はあった。


「だんちょー、どうしよう?」

 ブランカが不安そうに尋ねた。


「心配するな。さっきの魔法陣も、あっちのとほぼ同じ。つまり、行き来できるぞ?」

「ほんと!?」


 ブランカに笑顔が戻る。

 二人とも、まだみんなと離れる覚悟はなかった。


「それどころか、二つの大陸の交易を独占して大儲けだ!」

「なんと!?」


 アドラーは地球経験者らしく算盤を弾く。

 ブランカもバスティも、よく分からないが喜んで団長の周りを走る。


 ――そんな怪しい集団を見つめる視線があるとも知らずに。


「しかし、ここ何処らへんだろう?」

 アドラクティア大陸の何処かだとは推測しても、正確な場所が分からない。


「探検する?」

「うーん、少しだけな」


 穴の空いていた小高い丘を降りる頃には、アドラーとブランカは気付いた。


「だんちょー?」

「分かってる。バスティ、肩に乗ってて。お出迎えだ」


 少し離れた茂みから注がれる視線。

 狩人のように上手く消してる者もいれば、全くの素人も混ざる。


「余り強そうじゃないね?」

「そうだね。普通の農民かな? 怪我させちゃ駄目だよ」


「あい!」

 ブランカの返事を合図に、二人は一気に距離を詰めた。


 茂みから人々が慌てて飛び出し、ばらばらの方向へ散る。

 アドラーがその中の一人、若い男を捕まえた。

 手には農具のくわを持つが、抵抗する素振りはない。


「やあ、怪しい者ではない。言葉は、通じるかな?」

 男は何度も頷いてから叫んだ。


「ね、猫と踊る男!」

「なんだそれっ!?」

 この短い間に付けられたあだ名に、アドラーは思わず抗議した。


 アドラーの故郷、アドラクティア大陸は恒常的に昆虫型の魔物に襲われていた。

 竜語で”奴ら”を意味するナフーヌと、アドラーは名付けた。


 それ故、どの地方のどの種族も防衛の戦力を整えている。

 しかし、捕まえた男も散り散りになった男達はどう見ても素人。


「あれ、ここってアドラクティア?」

 不安になったアドラーは尋ねた。

 若い男は、二度頷いたが横にも三回首を振って答えた。


「ほ、本土から、離れた島だよ! あんたら、本土から来たのかい?」


 アドラーが辿り着いたのは、目的の大陸からちょっと遠い場所だった……。


今回は団イベの最中なので直ぐに戻ります


物語の主人公は、地球の新大陸の様にさせない知識と力を準備中です

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