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「まいったな、これ。どうしよう」


 ダンジョンの壁に空いた大穴は、下へ向かって伸びその先は不明。

 今のアドラー達に出来ることは二つ。


 見なかったことにして魔物のハントを続けるか、何とか塞ぐ努力をするか、である。

 放っておいても、半年もあればダンジョンが自力で修復するが……。


「噂は本当だったかー」

「流石だなあ、アドラー団長」


 他団の者がにやにやしながらアドラーに近づく。

 行く先々でトラブルが起きるというのが、最近のアドラー達の評判。


「まぁ……放ってもおけないか。手伝ってくれる?」


 アドラーの誘いに、付いてきた三つのギルドはいずれも文句を言いながらも応じた。


 文句といっても、本気ではない。

 このギルド対抗戦、地上ではお祭り騒ぎで莫大な金が動くが、建前上は『地上に溢れ出る前に魔物を討伐』である。


 ついでにダンジョンで宝探しが出来て、最高水準の報酬が出る。

 三勝するギルドならば、金貨換算で三百枚は稼ぐ。

 最上位の天上ギルドとなれば、並のギルドの1年分の収入があると言われる……。


「悪いな」と言いつつも、アドラーも悪いとは思ってない。

 埋め戻すか安全を確かめねば寝覚めが悪い。

 冒険者とは、そういうものである。


「マレフィカ、ブランカ来てくれ! あと他の魔法使いも」


 魔法使いたちに、マナの痕跡を辿らせる。

 ケルベロスの巨大な足跡は地面にあったが、他の魔物も出てきたのか知らねばならない。


「駄目だな、ケルベロスの痕跡が強すぎる」


 マレフィカは最初に匙を投げて、穴の方を調べ始める。

 ”偉大なる調和”団の精霊使いが、代わって名乗り出た。


「わたしがやってみよう。ユグドラシルの葉と引き換えに、ここを通ったモノの姿を教えておくれ、精霊たち」


 精霊使いは、希少で高価な触媒を使って情報を仕入れた。

 意外に協力的な”偉大なる調和”に、アドラーはハーモニアへもお礼を言うべきか迷う。


 普通の相手なら普通に言えるのだが、ハーモニアの周りは三十人ほどの怖い女性が固めている。

 二の足を踏み続けるアドラーより、先に動いた男がいた。


「よう、お前のとこの団員もなかなかやるな」

「あん、誰だ貴様?」


 身長は190近く、肩幅はアドラーの五割増し、純粋な腕力ならこの集団でも二番手と目されるハーモニアに声をかけたのは、ダルタスだった。


「俺はダルタスという。名前を聞かせてもらっても良いか?」

 アドラーも見た事がないほど緊張したオークの雄がそこにはいた。


 気は優しくて力持ち、ライデンの冒険者で最も筋肉量の多い戦士が、固い表情でハーモニアに語りかける。


「な、なんでてめぇなんかにっ!」

 初めて見上げる程の男に声をかけられたハーモニアの反応は、意外と乙女。

 驚くと同時にぷいっとそっぽを向く。


「そう言わずに教えてくれないか。その……なんだ、オークの村でも、君ほど逞しい女性は見たことがない」


 この一団は百人ほど居たが、ほぼ全員がざわついた。

 しかし、冷やかすわけにもいかない。

 なんと言ってもこの二人、他の女や男よりずば抜けて立派な体格を持つ。


「て、てめーうちの団長を口説くつもりかよ……?」

 調和団の者が、やっと一言絞り出した。


「い、いや、そんなつもりはないが」と言いつつも、ダルタスは照れて鼻の頭をかいた。

 身長230センチを超える大男がである。


「ふっざけんな!」

「消えろ、ボケっ!」

 それを合図に女達が爆発した。


 女性だけの団を作るには理由がある。

 男嫌いに男性不信、粗野な男冒険者に耐えきれないなどで、男女交際など当然ご法度。


 ダルタスでさえ、勢いに負けて追い返される。

 寂しそうなオークの大きな背中に、小さな声がこつんと届いた。


「……ハーモニア。オークの父が名付けてくれた」


 ダルタスは立ち止まり、振り返らずにいった。

「……美しい名だな」


「だ、団長ぉぉぉお!!?」

 ”偉大なる調和”団の女達の声が、地下迷宮の天井に響いた……。



「で、お前らは何をやっとるんだ?」

 壁の穴を調べていたマレフィカが、呆れ声でいった。


「いや、面白い見世……いや、ロマンスが」

 アドラーも、顔のにやけが収まらない。


「青春も良いがな。この穴の底から、変なとこに繋がってるぞ。恐らく、別の迷宮だ」

「詳しく教えてくれ」


 アドラーは表情を戻した。

 ケルベロス以外には、大物の出入りがないことは精霊が教えてくれた。

 問題はそのケルベロスが何処から来たかだが、単純に下層から登って来た訳ではなかった。


「一度、別の迷宮に繋がる。これは良くあることだな。そちらへ迷い込んだケルベロスが、力を付けてこちらに戻ってきた。多分間違いない」


 それからマレフィカは、アドラーだけに聞こえるようにいった。

「別の迷宮だが、波長が湿地帯のものと似ている。ひょっとするぞ」と。


 グラーフ山は、この大迷宮以外にも古代遺跡だらけ。

 アドラーの探す転移装置が、その一つにあっても不思議はない。


「そうか……」

 しばらく考えたアドラーは、ハーモニアを始め各ギルドの団長に話した。


「この穴は、別の生きてるダンジョンに繋がっている。中の様子を俺が確かめてくる。何らかの仕掛けがあるのは間違いない」


 結論を述べたアドラーに、各団長の顔は渋い。


「危険過ぎるだろ」

「運営に任せる案件では?」

 当然ながら制止する。


「それは正論だが、何があるか確かめたい。あの魔獣が、半年であそこまで成長するのは異常だからな」


 今現在、アドラーの戦闘能力には高い評価がある。

 それでも冒険者ギルドをまとめる団長達は、容易には賛同しない。


「うちからも手練を一人だす。せめて隊を組んでいけ」

 危険を一人に押し付けないが冒険者の流儀、せめて分け合おうとの提案もあった。

 有り難い申し出をアドラーは丁重に断った。


「ブランカ、おいで。ここは二人で行く。なあに、様子を見てくるだけだ」


 渋々ながらも団長達は同意した。

 その代わりに、キャルル達は彼らがしっかり守ってくれる。


 穴の底へと縄を垂らし、アドラーは降下の準備を始める。


「あたしもいくにゃ!」

 バスティが猫型に戻ると同時に服を脱ぎ捨て、アドラーの肩へ飛び乗った。

 見ていた冒険者たちは驚くが、今更”太陽を掴む鷲”が何をやってもと直ぐに納得する。


「一刻半――およそ三時間――は待つ。それまでに戻ってくれよ」

 縄を握る冒険者が告げたのを合図に、アドラーとブランカは垂直に穴を降り始めた。


 深さは四十メートルほどで、そこからは横穴が続く。


「魔物の気配はないけど、あっちに何かあるね」

 ブランカが指差した方向に、アドラーも強い魔力の集中を感じる。


「さてと、何が出るかな?」


 アドラーとブランカとバスティは、未知の迷宮へと踏み込んだ。


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