表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/214

104


 アドラーは復活した。


「わーい!」と、斜め後ろからリューリアが体当たりして腰に抱きつく。

 思春期の乙女心よりも、嬉しさが勝ったのだ。


「ボクも!」

「あたしも!」

 キャルルとブランカは遠慮なく背中や肩によじ登り、バスティは猫の姿で頭に飛び乗った。


 ダルタスは遠慮したが、どさくさに紛れてマレフィカも抱きつく。

 魔女の背の高さは、キャルル以上ブランカ未満。

 ついでにくっついても、アドラーはギリギリ耐えた。


 ミュスレアは出遅れていた。

 抜群の戦闘能力を誇る彼女の背丈は、女性の中では高い。

 引き締まったスタイルも抜群だが、内包するのはしなやかで実用的な筋肉。


 密度の高さと引き換えの体重が、クォーターエルフの長女の悩み。


「うっ、どうしよう……」

 アドラーで空いてるのは真正面の腕の中だけ。

 考えるより体が動くと言われるミュスレアもこれは迷う。


 ここで腕を広げて待ち受けるなどの甲斐性など、アドラーにはない。

 それどころか、ちょっと目が合った二人はそのまま別の方向を向いた。

 これにはリューリアもキャルルも呆れてしまう。


「仕方ないわね」

「うん」

 かわいい姉弟は、長女の為に少しだけ離れてあげようと企む。


 だがアドラーには後遺症があった。

 マカイキノコは、幸いな事に気管や体内で発芽することはなかった。


 しかし体表以外で、女神の聖水洗浄を潜り抜け、育つ場所が一箇所だけあった。


「は、はーっくっしょん!!」


 くしゃみをしたアドラーの鼻から小さなキノコが勢いよく飛び出し、地面に直立する。


「あは、ははははっ!」

 笑いすぎたブランカが、アドラーの背中からずり落ちた。


 ミュスレアも吹き出して、リューリアは団長の服に顔をうずめて震えている。

 ダルタスまで大口を開けて笑ったところで、浪漫風な空気は笑い飛ばされて消えた。


「えーっと、今日も頑張ろうっ!」

「おーっ!」


 ヤケクソなアドラーの掛け声に、全員が声を合わせた。

 太陽と鷲は、本戦の三日目に挑む。


 しばらくの間、アドラーは鼻から出てくるキノコに悩まされたが、もう倒れることはなかった。



 初日の勝利ギルドが64で、二日目も勝った32が八層と九層に進む。

 この32ギルドは、自他共に認める最上位ギルド。


 さらに十層へ進むためのルート開拓が託される。


 三日目のアドラー達は、六層に居た。

 初日に勝ったが二日目は負けた32ギルドと、初日に負けて二日目は勝てた32ギルド。

 合計64のギルドが六層と七層の掃除にあたる。


「いよーアドラー、もう良いのか?」

「体からキノコが生えて、死にかけたって?」


 顔馴染みになったギルドの面々が朝の挨拶にやってくる。


 相変わらず運営は全くあてにならない。

 自分の仲間と、一緒に潜ったギルドとの横の繋がりだけが頼り。


 ”シロナの祝祭”団は、二つの部隊を参加させていたが両方とも連勝して最前線。

 ”鷲の幻影”団は、二日目に勝ってアドラーと同じ層に居た。


「アドラー団長、おはようございます」

 ”鷲の幻影”団のアストラハンがやって来た。


「おはようさん。先日は、そちらの団長に世話になった」

「いえいえそんな。ケルベロスと戦った方が大変だったでしょう。それと……これからも、よろしくお願いします」


 アドラーの団とアストラハンの団は、同盟ギルドになった。


 ”太陽を掴む鷲”は、冒険者の巣窟、ライデン市のギルドである。

 救援依頼を出せば必ず何処かが助けにやってくるが、辺境のルーシー国ではそうもいかない。

 有力なギルドと関係を持つのは、このギルド対抗戦に参加した目的の一つだとアストラハンは語った。


「ところで、アドラー団長はシード権取れそうですか?」

「うーん、まだ圏外なんだよなあ」


 シード権は、四勝した八つのギルドと、それ以外のポイント上位56ギルドに贈られる。

 ケルベロスを倒したとはいえ、”太陽を掴む鷲”はまだ75位。


「そうですか……うちは90位ほどで厳しいです」

 女神のアクアを含めて、十三人しか居ない”鷲の幻影”にシード獲得は困難。


「けど、今日も勝って下に進めば可能性もありますから!」


 アストラハンは前向きだった。

 下の階層ほど敵が強くポイントも良くなる、ただし大物も出る。


「それで、勝てそうな相手なの?」

「いえ、よく知らないところです。アドラー団長は?」


「こっちは有名所が相手だよ……」

 アドラーは組み合わせの紙を見せる。


 三日目の対戦相手は、遠いルーシー国のアストラハンでも知っている、ライデンの名物ギルドだった。


「が、頑張ってくださいねっ!」

 好青年のアストラハンは、引きつった表情で去っていった。


 今日の相手は、アドラーも余り関わりたくない。

 最初から敵視される事が分かっているのだ。


 実力はあり、団員の結束は冒険者ギルドにあるまじきレベル、そして他の団とは一切関係を築かない。


 ”偉大なる調和”団――大層な名前と意味を持つこの団は、女性のみで構成された世にも珍しい冒険者ギルドだった。


「ミュ、ミュスレアさーん! 挨拶に行くから一緒に来てー!」

 アドラーはビビりまくっていた。


 曰く、団員にちょっかいをかけた男冒険者は半殺し。

 魔物もオスだけ選んで殺す。

 酔って絡んだ男冒険者が泣きながら全裸で逃げ出した。

 普通の少女も猛牛のような戦士に育て上げる。


 などなど、流れる噂は半端ないものばかり。


「仕方ないわね―」と言いながら、ミュスレアがやってくる。


 アドラーの持つ組み合わせの紙を、最近の勉強をいかして読み上げたミュスレアがいった。


「あれ、この団って誘われたことがあるわよ」

 アドラーは、数々の噂が本当だと確信した。


 地上最強の女性専用ギルド”偉大なる調和”の、地上最強の女とも言われる団長ハーモニア。


 アドラーは、ミュスレアの後ろに隠れながら彼女らの集まる一角へ向かった……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ