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死神の失敗  作者: 紅
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最悪のはじまり

サラリーマンにとってかけがえのない花の金曜日、毎週のように入っていた飲み会の予定も今週で途切れ定時でサクッと仕事を終わらせ、私はすぐ家に帰り大好きな映画観賞をはじめた。


そのときに忘れてはいけないのが、スマホの電源をオフにすることだ。


そうしないと、飲んべえな友人たちから横ヤリが入るのも面倒だし、1人の時間を邪魔されたくないときはこのような手法をとっていた。


晩御飯を食べながら、1本目の映画が見て、まだ21時を少し過ぎたあたりだったので、2本目の映画にも手をかけたが、半分くらい見たところで眠気が襲いかかってきたので、抗うことをせず睡魔に促されるまま私は眠りに落ちていった。


次の日、早く目覚めた私は、久しぶりに学生時代バイトをしていた喫茶店に足を運んだ。


通勤と同じ道を自転車でゆっくり走り、駅の横の歩道橋から線路を超え、国道に出ると海沿いのところに元バイト先、喫茶店マサはある。


重厚感がある木の扉を開け、カランコロンと鐘の音のあとにコーヒーの良い香りが漂ってくると奥から「いらっしゃい」とマスターの声が聞こえた。


玄関口からフロアーに進み、一段下がっている段差をおりると、カウンターの中央に黒い紺色のカッターに腰エプロン姿のマスターが立ち、ちょうどコーヒーを入れていた。


「おはよ、マスター」

マスターがこっちをむいた。


髪は真っ白で黒ぶち眼鏡とだんご鼻に、整った口髭が特徴的な顔が私を見るなり歯を見せ、にかっと笑った。

「おお、健人久しぶりだな。」

「久しぶり」

客は1人もいないのにマスターはコーヒーを

いれていた。


「誰の分入れてるの?」

「あ、これ?自分のだ」

「店員はインスタントだろ?」

「俺は特別なの、どれ、

モーニングでいいだろ?」

「うん、よろしくね。」

私がお気に入りの席に行こう背中を見せると、

「コーヒーはいれてやるから、

あとは準備しな!」

マスターはしれっと答えた。


「え~客だぜ?」

「元関係者は客じゃねぇよ。ほれほれ」

そう言って食パンの袋を渡された。


仕方なくカウンター側に周り、パンをトースターに入れ、冷蔵庫からサラダとゆで玉を取り出し、それぞれ皿に盛り付け、トースターのパンを取り出し、バターを塗って、その上から上白糖をスプーン一杯ふりかけ、皿に置き、それをトレーに全て乗せてから、またフロアー側に戻った。


そのタイミングで「はいよ。」とマスターがホットコーヒーを乗せてくれ、モーニングは完成した。


「これで350円はお手頃だろ。」

得意満面にマスターは言う。


「セルフじゃなければね。」

皮肉で返すもマスターは聞こえないふりをしているのか、自分のコーヒーを一口飲み、

「味よし。」

わざとらしく大きな独り言を言った。


そんなマスターを冷ややかな眼差しを送り、私はトレーを持ちカウンターから離れ、

瀬戸内の海と美しい明石海峡大橋を望むことができるテーブル席へと移動した。


席に座るとちょうど大型船が明石海峡大橋の下を通り過ぎるところで、大きな汽笛を鳴らす所が見られ、橋も海峡大橋も朝の太陽に照らされてピカピカと光、とても美しい光景であった。


そんな絶景を見ながらコーヒーを一口飲む、キリッとした苦さが口に広がったと思うと苦味はスッと消えて、ほのかな甘みと香り高いコーヒーの風味が鼻を抜けていきつい、「うまい。」

そう口走ると私のあとを追って、テーブル席の前に座ろうとしていたマスターが、「そりゃよかった」とにかっと笑って答えた。


「それにしても今日はずいぶん早いじゃねぇか、いつも来るのは大抵夕方ぐらいなのに」

「今日は早く起きたから、たまにはモーニングもいいかなって思ってね。」

トーストを一口食べた。


「なるほど、じゃあ仕事は順調か」

マスターはコーヒーをすすった。


「まあまあかな、もう3年たつと自分のペースで仕事が出来るから、楽なもんだよ。」

印刷メーカーの営業をしている私は、1年目は新規飛び込みの仕事が多かったが、

3年もたつとルート営業の仕事がメインになり、

ノルマというストレスもほぼほぼなかった。


「順調はいいことじゃねぇか、じゃああれか?あっちの方は?」とマスターが小指を立てた。


私はすぐさまに首を振る

「へ?」

「いないよ。」

「え??なんだって」

マスターは耳に手をかざした。


「いないよ、いませんよ。」

ムキになって答えた。


マスターはわざと目を大きくして、

頬にフグみたいに空気を入れて腹を抱えて笑った。


「はっはは、前の子と別れて2年もたつって言うのに、まだお前は彼女がいないのか。合コンも行ってるんだろ?」私はうなづく。


「じゃあ、なおさらじゃねぇか、いつまでも彼女いなかったらホモだと思われるぞ。」

「仕方ねぇだろ、いい女がいねぇんだから」

「いい女ね、お前選び過ぎじゃねえのか?いい女なんかごまんといるだろう?」私は黙り込む。


そんな私の様子を見て「まあなんだ、確かに、前の彼女はいい女だったからな、あれ以上を求めてもなー難しいか」マスターは手を組み首を少し傾けて、うんうんと首を縦に振った。


「別に七海と比較してるわけじゃねぇよ、今はいい出会いがないだけなんだよ。」

久しぶりに彼女の名前を言葉に出したので、ふっと頭の中で彼女の後ろ姿を思い出した。


「そうか、まあ、なんだお前もまだ20代なんだから、心が枯れちゃわない前に、たくさんの女と付きってみろや」そう言った矢先、玄関口の呼び鐘が鳴り、「いらっしゃい。」

マスター瞬時に席を立ち、「健人、金はいらねぇから、最後食器だけ引いといてくれや。」だけ言ってカウンターに戻っていった。


家路につきコタツのスマホに目がいく、前日に電源を切ったのを思い出し、何気に手をとり電源を入れて、またコタツにポンと置いた瞬間、スマホはメールを受信したのかブーブーと何回もバイブが鳴ったので、再びスマホを拾いあげた。


スマホの画面を確認すると中学時代からの親友、真人から複数の電話とメッセージが入っていた。


そんな緊急な用事かとメッセージの文面を確認した瞬間、私はあまりにの衝撃でついスマホを落としてしまった。


真人:広瀬さんが亡くなった。理由はまだわからないとりあえず、明日通夜があるから、早く連絡くれ

真人:おい、健人

真人:健人!!

真人:酔ってんのか?早く連絡くれ

真人:通夜は明日だから俺、実家にもどるから、また明日連絡するからな。とりあえずこれ見たらすぐに連絡くれ。


急いで私は真人に電話をかけた。

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