容姿の話をしよう1
この世界の紹介をする前に今日はやらなければならない任務がある。
まずはその任務の為に頭をサッパリする。
人間にも分かりやすく言うと散髪である。
吾輩の頭もさびしくなる一途。近頃はいつ頭を丸めようかとばかり考えている。
しかしまだその時ではない。気がする。
駅の手前にある美容室。
吾輩の屋敷から歩いて20分。ガラス扉を開けて受付で予約を確認する。
今日のお姉さんはとてもきれいだ。年の頃は20代中盤だろうか。明るめの緩くウェーブのかかった髪を肩にかからない辺りまで伸ばしている。かわいいというよりきれい系だが物腰はとても優しげだ。よし、心の中で石原さとみと呼ぶことにしよう。
ロッカーのキーを渡す細く伸びた指がとても白くて細い。強く握れば潰れてしまいそうだ。
カギを受け取る際に触れた指先は少し冷たかったように感じる。
「お、左利きだ」と思ったが口には出さない。豚のたしなみである。
カウンター横にあるロッカーに手荷物を預け、待合スペースのソファーに深く腰掛けて待つ。
手荷物と言ってもボディバッグで、めぼしい中身も財布とデジタルカメラくらいのものである。
見ているようで見ていない雑誌より、吾輩の興味は受付の石原さとみ(仮名)に向けられている。
このまましばらく呼ばれなくても構わないと思っていたら電話が鳴って受付の石原さとみが出る。
どうやら準備ができてしまったようだ。とても残念である。
上のフロアへ案内されるエレベーターの中で二人きり。エレベーターに止まって欲しいと思ったことは秘密にしよう。豚のたしなみである。