長すぎた一日
「冗談ですよね?」
雷電さんの頼み事に驚いて食事の手が止まる。
「冗談ではないが安心してくれ、リーメ王国を案内したり相談役になってほしいということだ。欲を言えば時々俺に報告してくれると助かる。」
それくらいなら僕でも出来るかもしれない、けれどもそれなら前もって連絡があってもいいと思う。それにセリアの父親であるチエーニさんと知り合いなら、伝えるチャンスはいくらでもあったはずだ。
「頼み事の件は分かりました、僕の出来る限りの事はやります。でもどうしてこのタイミングなんですか?」
僕の問いかけにナポリタンを平らげた雷電さんは腕を組みながら目を瞑り押し黙るが少しして喋りだす。
「お嬢さん盗み聞きとは少しはしたないのではないか?」
雷電さんの一言に僕は周りを見回すが客が多く誰を指しているのか分からなかったが、僕の後ろからメイトさんがひょっこり顔を出してくる。
「盗み聞きだなんて~ただお皿を下げに来ただけですよ~」
いつもの調子で現れたメイトさんは空になった皿を、手際よくお盆に乗せてからそそくさと戻っていく。
「メイトさんがどうかしたんですか?」
雷電さんは盗み聞きだなんて人聞きの悪い事を言っていたけど、メイトさんはウエイトレスだから客の会話が多少なり自然と耳に入ってしまう、そう考えていた僕は特に気にしてはいなかった。
僕が不思議そうにしていると、水を一口飲んでから雷電さんは真剣な顔で話し始めた。
「いや気にしないでくれ、それよりも話を戻そう。頼み事が今日になってしまったのは今日以外に話すことが出来なかったからだ。」
頼み事の内容は僕より先生にした方が安心できそうだけど、日取りを気にする程の用件では無いと思う。
「じゃあ僕にしか頼めない理由ってなんですか?」
「言うと俺は君の秘密を知っている、君よりもずっと詳しく。」
僕は血の気が引くような感覚に襲われた、秘密を知っている?しかも僕が知らない事まで、元からこの頼み事は断れない様になっていたのか。大の大人が頼み事一つの為に脅迫だなんて馬鹿げてる。
「この言い方だと完全に脅迫だな、全部は話せないが留学生の事は用心棒だと思ってくれ、頼み事はその口実だ。ではそろそろ店を出ようか、カレン・ダリオンの話はまた今度してあげよう。」
そう言って席を立ち雷電さんは僕の肩に手を置く、全然心の整理が出来ていなかったが雷電さんに続いて店を出る事にした。
「家まで送ろう。」
雷電さんはそう言って僕の隣を歩く、お互い無言で歩き続けるなか僕はずっと雷電さんの言う僕の秘密について考えてた。
僕の秘密それは、僕が国王の隠し子である事、それが世間に広まる前に僕は教会に捨てられた。だけど隠し子である事しか僕は知らない、捨てられた理由も紹介状が来た理由も。
「ほら、着いたぞ。」
雷電さんに声を掛けられるまで気が付かなかったが、もうシーベルト家の屋敷の前に僕たちはいた。
「お昼ご飯ご馳走様でした。」
「気にしないでくれ、それよりも申し訳ないな、不安にさせるような事を言って。」
か細い声でお礼を言う僕に申し訳なさそうにしている雷電さん。雷電さんは悪い人には思えないが今は不信感しかない。お互い黙り込んだまま向きあっていると雷電さんが沈黙を破った。
「入学式では言わなかったが、留学生には俺の倅がいるんだ。目つきは悪いし不愛想な奴だが仲良くしてやってくれ、宜しく頼む。」
「いや!そんな頭を上げてください!」
深々と頭を下げる雷電さんに慌てて駆け寄る。
なかなか頭を上げようしない雷電さんはその体勢のままで話し始める。
「俺に不信感を抱いていると思うそれは当然だ、だが留学生達は純粋にここに来るのを楽しみにしている、だから彼らには正面から向き合ってほしい。」
「そんな気にしないでください。僕の中で整理しきれてないだけですから、それに頼み事については安心して下さい約束は守ります、なのでそろそろ頭を上げてください。」
僕は雷電さんを信用したわけじゃないけど、シスターに言われた事を思い出していた。
「そう言ってくれると助かる、では俺は帰るとしよう。」
ようやく頭を上げてくれた雷電さんは笑顔で別れを告げて歩き出すが、ちょっと進んだとこで立ち止まる。
「最後に親はいつでも子供の事が心配なんだ、だからあまり無理はしないようにな。」
そう言い残してまた歩き出す、僕は雷電さんの背中が見えなくなるまで見送った。
屋敷に入るとシーベルト家でメイドをしているサーシャさんに出迎えられる。
「予定より遅いお帰りでしたね、お昼はどうされますか?」
「済ませてきたので大丈夫です、僕は部屋で少し休ませてもらいますね。」
「承知しました。」
会釈をしてサーシャさんは仕事に戻っていく、僕は部屋に向かいながら今日の事を思い返していた。
部屋に入り制服のままベットに寝転がる、雷電さんの真意は分からないし留学生が用心棒とはどういう意味なのか、そのことを考えているうちに僕の意識はゆっくりと遠のいていった。
「ライオ様、起きてください。もう晩御飯のお時間は過ぎていますよ。」
いつの間にか寝てしまっていてサーシャさんが起こしに来てくれていた。体を起こして外を見てみると、帰って来た時は全然明るかったのに今はもう真っ暗になっている。
「お目覚めですか?ご主人様たちは今お食事を取られています、ですのでライオ様も着替えてから食堂へお願い致します。」
「わかりました、着替えたらすぐに向かいますね。」
サーシャさんは会釈をして部屋を出ていく、部屋に一人になり制服から普段着に着替え食堂に向う。
食堂を扉を開けようとすると中からチエーニさんやセリアの話し声が聞こえてくる、笑い声が聞こえてきてとても楽しそうに食事をしているのがわかる。
雷電さんとの会話で家族について敏感になっていた僕は、一家団欒によそ者の僕が入る事で邪魔をしている気がして扉を開けられずにいた。
「中へ入られないのですか?」
突然声を掛けられて驚き後ろを振り返るとサーシャさんが立っていた。
「気にしないで下さい、僕は今日の食事は大丈夫なので部屋に戻りますね。」
「お待ちください。」
嫌なところを見られてしまい気まずくなった僕は、早足で部屋へ戻ろうとすると呼び止められ立ち止まる。
「ライオ様はシーベルト家に来られてもう6年になります、そろそろ遠慮せず気楽に接していただきたいのです。あなたはシーベルト家のライオ・シーベルトなのですから。」
サーシャさんの言葉に返事をせずに部屋に戻った、僕にはとても嬉しくそして辛い言葉だった。
枕で顔を覆い外に聞こえない様に泣いた、泣いて泣いて泣き疲れて僕は眠りに落ちた。
たった一日書くのにかなりの長文になってしまい申し訳ないです。
少しでも面白いと思っていただけるように頑張ります。