筋肉痛のレクリエーション
先生のもとに皆が集合する。
「欠席者はいないな、これからレクリエーションの説明をする。やる事は昨日と一緒だがルールを変更する。」
先生が指を鳴らすと昨日と同じ大きな砂時計が出現するけど昨日より少し小さくなってる。
「制限時間は砂時計が落ち切るまで、鬼は変わらず私がやるが肩を触られた者は手足に枷をつけてもらう、簡単に言えば重りだが、その重さに耐えきれず動けなくなった者からリタイアだ、そしてこのルールは私にも適応される私の肩に触ることが出来れば私の手足にも重りがつく。」
説明する先生の視線が幸若君と美剣さんに向けられる。
「つまりお前たちは制限時間まで逃げ続けるか私を重さで動けなくすれば勝ちだが、幸若と美剣の二人には最初から枷を付けてもらう。」
もう一度指を鳴らすと石で出来た枷が二人の手首と足首に巻かれるが、二人とも平然としているからそれほど重いものではないのかもしれない。
「今日はレクリエーションの後に昨日の模擬戦の解説をするからな、では始め!」
先生の号令と共に昨日と同じように爆発が起きる、だけど昨日とは違い皆は落ち着いて先生から距離をとる。
始めは動かないのは昨日と同じだけど先生の表情は真剣そのものだ、本気で来るとは思えないけど今日は筋肉痛だし逃げに徹しよう。
「ようライオ!お前はどうするんだ?」
ウィリアムが駆け寄ってくる、先生を視界から外さない様にしながら僕も近寄る。
「僕は逃げるよ、筋肉痛だから触りに行っても返り討ちに合うだけだし。ウィリアムはどうするの?」
「俺は先生を倒すつもりでさ、他に倒そうって奴を探してたんだけど皆チーム組んでるのに逃げるしか言わなくて、最後にライオに行きついたんだけど…やっぱり誰も倒そうって考えないよな~。」
お互いに先生の動きを確認しつつ移動する、さっきから先生は一切動こうとせず周りをずっと見ているだけだ。
「それでも昨日のあれで筋肉痛かよ~まぁあんだけ速く動けばなるか。」
「見てたんだ、あれは奥の手みたいなもの…、ウィリアム!せ…『よそ見とは余裕だな。』」
もう遅かった、先生が視界から消えその事を伝えようとウィリアムを見た時には手足に枷が付けられ、重さに耐えきれず四つん這いになっている彼とその背中に座っている先生がいた。
「他の奴らはずっと警戒しているのにお前らは大した自信家だな。」
足を組み真っ直ぐに僕を睨め付けてくる、僕一人で逃げ切る事すら不可能だろう、けれど僕が会話に気を取られたのが原因でウィリアムは捕まった、だから彼をこのままにするわけにいかない。
「ウィリアム・オーランドお前はもうリタイアか?」
「うおぉぉぉぉ!先生この枷重すぎるんだけど!留学生につけたのと同じ重さじゃないだろこれ!」
雄叫びを上げながら必死に立ち上がろうとするが全く動けていない、先生は立ち上がり僕と正面から向き合う。
「重さは個人差がある、枷をつけられた本人の移動が困難になるようにしてあるからな、つけられたら歩くのがやっとのはずなんだが…。」
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて視線が動く、その先には留学生の二人がいてこっちを見ていた。
「美剣は平然としているが昨日より動きが悪い、だが幸若はまるで魔法が意味をなしていない、そう思ってしまう程変化が無い。本来であれば枷をつけた時点であれと同じ事になるのだが…おっ?」
先生が後ろにいるウィリアムを親指で指すと彼が立ち上がっているのに気づき振り返る。
「へへっ!留学生には負けてられないぜ!」
「フッ良い根性をしている、だがそんな状態でどうするつもりだ?もう一度私に肩を触れられたら次は完全にリタイアだぞ。」
確かにウィリアムは額に汗を浮かべ肩で息をしていて目に見えて疲労しているのがわかる、先生の言ってた通り枷はかなり重くて立っているのがやっとなのだろう、このまま彼を一番最初にリタイアさせるのは彼に申し訳ない。
「せめて先生に枷をつけてやるぜ、ライオ!今のうちに逃げろ!」
先生がゆっくりウィリアムに近づいていく、僕は彼を助けるために賭けに出ることにした。
「ウィリアム!腹筋に力を込めて!」
「お?、おう!」
僕は叫び戸惑うウィリアムの腹に向かって全力でタックルした、しかも普通のタックルではなく風魔法で超加速した高速タックルだ。
「ゲフッ!!!!」
先生の脇の下を潜り抜けウィリアムにタックルをしそのまま担いで走り出す、短い悲鳴が耳元で聞こえるだけど必死にカレン先生から逃げるため構わず走る。
一瞬だけ振り返ると先生は反応出来ていないのかその場から動いていない、そのまま速度を保ち走り続け
るけど加減せずに魔法を使ったので魔力が切れそうになる。
「ウィリアムごめん、もう魔法が解けるから降ろすよ。…ん?ウィリアム聞いてる?」
僕の言葉に全く反応しないので何度か名前を呼んでると虫が鳴くような声で返事する。
「ライオ、ヤバい降ろして吐く…、」
「あ、ごめん、必死だったから。」
ウィリアムを降ろそうと壁際にむかう途中で突然体が重くなる、魔法を使って移動をしていたためそれなりの速度は出ていたが、その勢いは一瞬で殺されて僕は転がるように転倒しウィリアムはその勢いのまま壁に向かって跳んでいく。
「昨日も言ったが油断は禁物だぞライオ。」
三回転程して仰向けに倒れる僕にカレン先生が笑顔で顔を覗き込んでくる、今になって僕の両手足にウィリアムと同じ枷がついてることに気が付く。
全然分からなかった、先生が近づいていたことも肩に触れられたことも、戸惑う僕をよそに先生は話し続ける。
「だが良く気付いたな、それに友達を見捨てない心意気に勝負所での思い切りの良さ!とても素晴らしい!」
なんか物凄く過大評価されているけども、先生から逃げるのに必死で忘れていた筋肉痛が襲ってきていてそれどころではない。
「そんなお前にアドバイスだ、昨日使った魔法だがなあの類の魔法は体に纏うものではない。体を魔法に変えるのだ、そうすれば今日の様な筋肉痛にならなくなるだろう。それと!」
「うわああああああっ!!」
先生に首根っこを掴まれ放り投げられる、壁に激突する直前に魔法が発動して風に包まれると、優しく壁にもたれ掛かる様に着地する。隣には激突し穴の開いた壁からぶら下がっていて下半身しか見えないウィリアムがいた。
「魔法で加速するのは良いがあんなタックル普通の人間に使えば内臓が潰れるぞ、今回は制服が特別性だったのに感謝するんだな。では今回の最初のリタイアはライオとウィリアム・オーランドだな、そこで休みながら他の奴の動きでも見てろ。」
そう言い残して先生は走り出した、僕は壁に刺さっているウィリアムを助けようと立ち上がろうとするけど徒労に終わった。枷が重すぎる、これをつけて平然としている幸若君は異常だ。
「ウィリアム生きてる?」
「なんとか、死ぬかと思ったけどな。それと吐きそうだったけどびっくりしすぎて引っ込んだ。」
罪悪感を感じるけど声を聞く限りだと元気そうだ、彼も枷がついてるし立ち上がるだけでかなり疲弊するから自力で脱出する事は出来ないだろう。
身動きが取れないから先生の言われた通り皆の様子を眺める、逃げる生徒に追いかける先生、逃げながら連携をして魔法を使い上手く先生を躱している。
「無様な姿だな。」
突然罵倒されるが反応する気力もなく視線も動かさない、だけどウィリアムは元気が有り余っていた。
「その声はパラク・アデオン!ちょっと助けてくれ!」
「ライオ・シーベルト、君は『おい!無視するな!』…留学生と仲が、『助けろって!』…良いみたいだね。『お願いだから!』ってうるさい!今助けてやるか静かにしろ!」
ウィリアムを無視して僕に話しかけてくるけど騒がれ何度も言葉を遮られ、我慢の限界を迎えたパラク君は壁からウィリアムをひっこくぬく。
「いや~助かったぜ!てかお前まだ捕まってないんだな。」
救出されたウィリアムは僕と同じように壁にもたれかかる。確かにパラク君の手足には枷はついていなかった。
「話の続きだ。君は留学生と仲が良いようだけど、どういう関係かな?」
「友達だけど…。」
正直パラク君は嫌いだ、同じクラスになって三日目で会話をするのも今日が初めてだけど、留学生の二人やウィリアムを馬鹿にする彼と話したくはなかった。
「なんだパラク、そんなに留学生に負けたのが気にくわなかったのかよ。」
「なっ!そんな訳無いだろふざけたことを言うな!」
「じゃあ友達になりたいのか?それならちゃんと自分から声掛けないと。」
「それも違う!僕を馬鹿にしているのか!」
「なんだよそれぇ、変な奴。」
「もういいこの話は終わりだ!、一番始めに捕まるような奴らに聞いた僕が間違いだった。」
ウィリアムに茶々を入れられ碌に僕と会話を出来なかった彼は、吐き捨てる様に言い放ちその場を立ち去ろうと振り返ると目の前にカレン先生が立ちふさがった。
「パラク・アデオンお前も奴らの仲間入りだ。」
「うぐッ!」
逃げる間もなく先生に肩に触れられ枷をつけられるパラク君、彼も重さに耐えられずその場で四つん這いになる。
「なんだ枷をつけられてまともに動ける奴は留学生しかいないのか。」
残念そうにするカレン先生はパラク君が動けない事を確認して立ち去る。
「いやぁ普通にこの重さは動かないぜ、なぁライオ。」
「まぁ先生も動けないくらいの重さだって言ってたしね。」
ウィリアムの言う通りもし筋肉痛でなかったしても立ち上がれる気はしないけど、幸若君達は平然としている訳で今も先生と信じられない速さで追いかけっこしている。
「君たちはそれでよく合格できたな。」
パラク君の悪態が聞こえて幸若君達から視線を移すとウィリアムが驚きの声を上げる。
「マジかよ!お前どうやったんだよ!?」
そこには手足に枷をつけたまま仁王立ちして僕たちを見下ろすパラク君がいた。
「これくらい出来て当然さ、まぁ僕も長時間維持できるわけではないけど。」
「パラクお前凄いな!でもパラクにも留学生にも出来るってことは俺にも出来る!うおおおおおおお!」
雄叫びを上げながら力技で立ち上がろうとするウィリアムに対してパラク君は鼻で笑い肩をすくめている。
「これだから学の無い庶民は、力技でどうにかなるはずないだろ少しは頭を使ったらどうだ?だからと言ってどうにか出来るとは思わないけどね。」
ウィリアムを馬鹿にされて腹が立ってきた、でもパラク君のお陰で僕でもやり方が分かった。
「ウィリアム魔法で手足の枷を包んで浮かせるのイメージして、多分それで何とかなるよ。」
「なるほど!さすがライオ頼りになるぜ!」
ウィリアムは目を閉じて深呼吸を始めると、ゆっくりだけど座った体勢のまま彼の体が浮き始める。
浮いた状態のまま直立の姿勢になりゆっくり降りてきて地面に着地する。
「出来たぜーーー!!こういうやり方があるとは気付かなかった~。」
喜ぶウィリアムはその場でジャンプしたりパンチを繰り出したりしてるけど、僕とパラク君は唖然としていた。
やれと言われてすぐ出来た事にも驚いたけどそれ以上に魔力の量だ、ウィリアムが使ったのは体が浮いたから風魔法だと思う、けれど風魔法で体を浮かせるのは簡単な事じゃない。
僕の風の服も一応浮かぶことは出来るけど、ウィリアムが浮いていた時間より全然短く出来て10秒程で浮いた後はすぐに魔力切れをおこす、だけど彼はそんな様子はないのは桁外れな魔力量があるからだろう。
「なんで…こんなの知らないぞ…そんなこと書いてないじゃないか…。」
パラク君がぼそぼそと喋っているが声が小さくて全然聞き取れなかったけどなにやらショックを受けているみたいだった。
「ま、まぁ、庶民と言えどもこの学園に入学したんだこのくらい出来て当然さ。それじゃ僕はもう行くよまた先生に捕まりたくないからね。」
少し動揺していたけど急ぎ足で立ち去るパラク君を横目にウィリアムを見るとまだ体を動かしていた。
「じゃあライオ俺は先生倒してくるぜ!お前はここで休みながら俺の雄姿をみててくれ!」
幸若君にも負けない速さで先生に向かって走り出す彼を見送る、ウィリアムもパラク君もこの学園に入学するだけあって何かしら抜きん出た物があって羨ましい。
他のクラスメイトも同じで先生から逃げながら僕には使えない規模の魔法を普通に使っている、平地で障害物の無い闘技場で僕は逃げるので精一杯なのに、皆は障害物を出したり動きを封じて先生に触れようとしている、それを見てるだけで僕が弱く場違いな所にいる事を実感させられる。
「うおおおおおお!リベンジしに来たぜ先生!」
かなり離れているがウィリアムの大声が聞こえる、周りからくる魔法をかわしながら幸若君を追いかける先生の正面に立ちふさがる。
遠目だから詳しくはわからないけど、ウィリアムが来てから幸若君と彼で先生に接近して注意を引き付けて、他の皆が魔法で援護しているようだ。
それに先生は苦戦しているみたいだったけど、時間が経つにつれて少しずつ脱落者が増えていく。
ウィリアムが参戦してから10分程経った頃には援護はなくなり留学生の二人とウィリアムにパラク君の4人だけになった。
先生と幸若君は変わらずだが他の3人は疲れから動きが鈍くなっている、砂時計を見ると残りの砂の量から察するにまだ20分はかかりそうでこのままだと幸若君以外は捕まってしまいそうだ。
ウィリアム達を見てるとあの中に無性に僕も参加したくなる、参加しても足を引っ張るだけだと思うし筋肉痛は立つ動作だけでも辛い、だけど動かずに観戦してたから魔力は多少回復してきたし1分位なら風の服も使えそうだ。
「明日は登校できないかもしれないな。」
そう呟いて明日の登校手段は馬車かなと鼻で笑って目を瞑り意識を集中させる、パラク君のやり方は僕の使う風の服を枷だけに範囲を狭めた魔法だと思う、感覚は似てるから出来るとはずだけど、枷だけにすると多分重さが無くなるだけで速度は出ない。
だから一か八かだけど先生が言ってた体を魔法に変えるっていうのをやってみる、出来る自信なんてないだけど僕の考えが正しければ重さを感じずに高速で動けるはずだ。
だって風には重さなんて無いのだから。
投稿遅くなって申し訳ないです。
書いていたら文字数が多くなってしまい時間が掛かってしまいました。
もし意味不明な文章や誤字があれば教えてください。