僕の受難の始まり
「はぁ、これからどうなるんだろう僕」
真新しい制服に身を包み、今日から通うことになってしまったライネル魔法騎士学園を目の前にして僕、ライオ・シーベルトはため息をついていた。
この学園は僕の住むリーメ王国にあり、最高峰の魔法学と騎士学を学べると有名で王宮騎士や王宮魔法師になるための登竜門と言われている。
そんなすごい学園に魔力は平均以下で体術や剣術も中の下程度しか出来ないそんな僕が入学することになってしまった。
学園に入学する方法は2パターンある。
一つは入学試験を受けることだが、有名なだけあって超難関なのだ。
一次試験で魔法学の筆記試験に実技試験を受け二次試験で面接という順で行われるが、実技試験の相手は王宮魔法師と呼ばれる王国選りすぐりの魔法師達で、不合格者のほとんどはこの実技試験で落とされるので入学しただけ王宮魔法師のお墨付きというわけだ。
ちなみに騎士学の場合は実技試験の相手が王宮騎士に変わるだけで試験内容も不合格者の人数も変わらない。
もう一つは上級以上の貴族からの紹介状だ。
紹介状があれば面接を受けるだけという簡単なもので、学園の方から紹介状が来たという手紙が送られてきてそこで初めて招待状の差出人がわかるようになっている。
だがもし入学を辞退したり中退でもしてしまった場合は、差出人の顔に泥を塗ることになってしまうのでそれ相応の実力者にしか紹介状は出さないはずなんだけど、それが半年前に僕のところに来たのだ。
半年前
「ライオ!早くおきて!」
聞き慣れた女性の声と壊れそうな程叩かれるドアの音で僕は重たい瞼を開き体を起こす。
だけど寝ぼけている為意識ははっきりしておらず、寝ぼけ眼をこすりふらふらしながら未だにノックの鳴りやまないドアへ向かった。
「起きたからもう叩かないで」
僕の言葉はノックの音で掻き消されているようでドアノブに手をかけても音は止まない。
それでも寝ぼけていた僕はドアを開けてしまった。
結果ドアを開けたと同時に顔面に硬い何かが激突した。
「ゴファ!!!」
顔面に走る激痛に思わず蹲ってしまったが一発で目が覚めた。
「キャッ!ライオごめんね!大丈夫?」
蹲る僕の背中を優しく銀髪の女性が撫でてくれる。
彼女はセリア・シーベルト僕がお世話になっているシーベルト家の一人娘で恥ずかしながら想いをよせている人だ。
「大丈夫だから安心して」
まだ痛みのひかない鼻を押さえながら立ち上がるとセリアが何かを握りしめているのに気が付いた。
「その握りしめているのはなに?手紙かな?」
セリアは僕に言われて思い出したようで物凄い形相で詰め寄ってきた。
「ライオこれあなた宛ての手紙なんだけど!早く読んでみて!」
セリアの迫力に押されながらも手紙を受け取ったがあまりにもセリアが急かしてくるので、手紙を既に見たものだと思っていたが未開封だった為どうやら違ったようだ。
手紙を見た僕は驚きのあまり言葉を失ってしまい、ただセリアの顔を見つめていた。
「どうしたのライオ?手紙にはなんて書いてあったの?」
セリアは心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
少しづつ平常心を取り戻した僕はセリアに手紙の内容を伝えた。
「これ紹介状だったよ、ライネル魔法騎士学園への入学の紹介状、今度説明に来るって。」
ゆっくりだけどセリアに手紙の内容を伝えると彼女は目に涙を浮かべながら僕を抱きしめる。
僕よりセリアの方が10㎝以上身長が高いため顔が彼女の胸元に当たるがそれを気にせずに頭を撫でてくる。
「ライオ!おめでとう!!!良かったね私嬉しいよ!」
セリアは自分の事のように喜んでくれているが僕は戸惑いと不安でいっぱいだった。
「ねぇライオ紹介状は誰からだったの?」
セリアのシーベルト家も貴族だけれど下級貴族だから僕に招待状を出すことが出来ないがこの人から招待状が来るとはだれも予想は出来なかっただろう。
「セリア落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「えっ?どうしたの?」
僕が真剣な面持ちで話し始めたため驚いたのか抱きしめていた腕をほどいて僕を見る。
「この紹介状の差出人は国王だったよ。」
僕の言葉にセリアは信じられないといった顔をしている。
「国王?国王って、ジェリオ・ジル・オルディン国王の事?」
ジェリオ・ジル・オルディン国王
歴代の国王でも温和で有名な王で民衆からの人気も絶大だ。
だが国王は今まで一度も紹介状を出したことはなかった、理由は分からないがその国王が紹介状を出すというだけで一大事なのだ。
「そうだよ、でも普通に考えて国王から紹介状が来るなんておかしいよ」
僕は不安をもらしたが今のセリアには聞こえていなかった。
「あの国王から紹介状が来るなんてすごいじゃない!最高よ!さすが私のライオだわ!」
セリアの頭の中は僕があの有名な学園に入学できる、しかも紹介状はあの国王からという喜びのダブルパンチを食らい訳の分からないテンションになっていた。
「早くお父様達に知らせないとね、私朝ごはんの支度してくるわ~♪」
喜びのあまり鼻歌を歌いながらスキップでキッチンへ向かうセリアの背中を見つめながら僕はため息を吐く。
「今更僕に何の用があるんだよ」
自室で一人になった僕は小さい声で呟いて着替えを始めた。
それからとんとん拍子で物事が進んでいった。
セリアのご両親も紹介状の話を聞いて驚いていたが僕の入学を祝ってくれた。
数日して学院から王宮魔法師が入学の手続きや制服にクラスについての説明をしに来たのは驚きだったし、面接の相手は学園長でめっちゃ緊張したけれども、紹介状の差出人である国王に会うことも無く半年が過ぎ入学式を迎えた。