ん??
「いや、いきなり世界を救うとか言われても…。」
それはそうだろう。「あなた。新しい自分に出会いませんか?」などと言われて壺を買わされると思っても不思議じゃない。この老人はそんなことをいっているようなものだ。
「まずあんたは何者だ!?」
『ついうっかり 』魔法使いだと思ったが、名前も何も聞いていなかった。
「わしはレーザント。見た目の格好そのままの、魔法使いレーザントじゃ。お若いの。」
レーザント…どこかで聞いたことがあるような…。
世界を救うねえ…少し考えてみたが現実味が湧かない。
「ってかだいたい、オレには試験勉強があるし、親もいるから勝手に出るとか困るんだけど。」
その点は心配ご無用、とレーザントは言った。
「君の親には都合が合うように魔法をかけておく。これで問題なしじゃ。」
いや、受験という最大の問題が残っている…。
「それに君の家はお金の都合で私立へは行けないと聞いた。しかしその分くらいならばお礼として出そう。」
「いや、世界を救うのなら大学合格くらいくださいよ魔法使いなんだから。」
対価として奨学金分を出してくれるのは有り難いが、なんか安すぎる気がする。しかも合格は自分で勝ち取るもの、人に頼るとは男として情けないと思わんか?などと言われた。
「もし行くと決めたらこの石を握ってわしを呼んでくれ。」
レーザントは石と言ったが、ポケットからは綺麗な宝石を出した。もし本物ならば良い値段で売れるだろう。
「まあ興味はあるけど行く気なんて…。」
テーブルの上には石が置いてあって、コップは洗って戻されていた。まるで一人でくつろいでいたかのように部屋は静まり返り、先程の老人はいなくなっていた。




