表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

4-7

 悪魔はもうすでに、ペンライトから興味を失くしたようだ。代わりとばかりに、ハデスが眉をひそめた。

「なんなんだ、それ……?」

 マユラは肩をすくめる。

「ただの照明器具ですよ」

 問題はこれからだ、とクリスファーは考える。マユラが来たとはいえ、状況は依然として厳しいままだ。

 悪魔は憐れむようにこちらを見てくる。

「人間が何人束になろうと無駄だ」

 彼の言葉は正しいのだろう。クリスファーはエクソシストとしては半人前で、ハデスはグールで警察官だが戦う技術はそれほどでもない。マユラは一般人で、リリィも争いとは無縁の性格だ。そして、ハデスは怪我をしている。

 打つ手はない。

 だけど不思議と諦める気にはならなかった。

 背中から、少女の細い声が届く。

「クリスファーさん、あとは正直、私が手伝えることはありません。戦力としては役に立ちませんし、応援しても邪魔なだけでしょう?」

 少女の声は耳に心地よく、クリスファーの体の底から力を呼び起こす。

「ああ。マユラは下がっていてくれ」

「全力で守ってください。あなたを信頼します」

 クリスファーはその言葉の重みを理解する。マユラは、信頼という言葉を簡単には使わない。口にすることを恐れていたふしさえあった。彼女が言葉を口にするなら、自分も全力を惜しまない。限界の、さらに上を、出し切る。

 クリスファーの周囲に、彼を守るように紫色の煙が立ち上がる。

 悪魔はブライアンの剣を手にして、クリスファーへきりかかってきた。

「無駄だ! 人間に私は止められぬ!」

「止めて見せる。人間を舐めるな!」

 ブライアンの一撃を、クリスファーは正面から受け止めた。白銀の剣の勢いを、紫色の煙を纏わせて威力を殺し、自らの剣で弾いて見せる。

 悪魔の体勢が、初めて揺らいだ。

 そこへ第二撃が打ち下ろされる。

「俺を忘れてもらっては困るな?」

 ハデスの警棒が身を捻った悪魔の左腕をかすめる。

 悪魔が彼へ対処するより早く、クリスファーが足を踏み込んだ。

「リリねーちゃ? どうしたの?」

 唐突に場を揺らがしたのは幼子の声。

 屋敷の扉から外へ出てきたライに、クリスファーもハデスも、一瞬、気を取られた。悪魔が生気を得たように、幼い雷獣へと向かう。

 遅れてクリスファーが走った。

 だけど、間に合わない。

「まだまだ動きが甘いな」

 幼子を殺そうとした悪魔の体が――横合いからの攻撃に吹っ飛ばされた。

 当然とばかりに立つ乱入者は、冷たく倒れ伏した悪魔を見下ろした。

 クリスファーは知らずに顔をしかめて乱入者を見る。

「何をしに来た?」

 固い声で問いかけると、乱入者――コルター・スティーヴンスは厳格な表情で告げる。

 彼の視線は、悪魔から離れていない。

「無論、仕事に決まっている。一撃が軽いな、動きで翻弄しろ。相手の目を見て動きを予測しろ。戦いに工夫が出来ないなら、後ろに下がって援護しろ」

 冷徹な言葉にクリスファーが返す言葉もなく、彼に従う。

「紫煙よ、捉え阻め!」

 起きあがってコルターへ剣を振り上げた悪魔が、足を取られて動きを鈍らせた。

 その隙を逃さず、コルターは悪魔の剣を叩き飛ばした。

 武器を失くし、悪魔は苦々しげにコルターを見る。

「どうしてこの場所に貴様がいる?」

 コルターは元友人の服装をした悪魔に、無表情に答える。

「そんなことはどうでもいいだろう。それよりも自分の心配をしろ」

 それからはコルターと悪魔との一騎打ちが始まった。武器の有無を差し置いても実力はコルターのほうが上だった。悪魔は防戦一方で、次第に押されていく。

 クリスファーは入り口にいるライに近づいた。

「ライ! こいつは君の父親を殺した。奴を許すか許さないか、君が決めろ!」

 ライが、目を真ん丸にしてクリスファーを見上げる。

「え?」

 漏れ出たつぶやきとは裏腹に、彼は言葉の意味をきちんと理解しているだろう。

 クリスファーの行動に、異を唱える声もあった。

「ぶざけるな! ライはまだ幼い子供だぞ? 何を考えている?」

 いつの間にか来ていたヴィクトールが、難しい顔でこちらを見ている。クリスファーも、迷いがないわけではなかった。だけど、ライに聞くべきだとも思う。

 許すか、許さないか、難しくても、彼が判断すべきことだ。

 ライはクリスファーを見て微笑んだ。ぎごちない笑みだった。

「ライは許すよ、クリスにーちゃ」

 幼子は、そう選択した。

 クリスファーは頷き、コルターへと雷獣の弾丸を投げた。受け取ったコルターは、かすかに眉をひそめた。

「父さん、あの技を使ってくれ!」

 コルターの口元が、嫌そうに曲がる。

「指図はするな」

 そして彼は小さく呪を呟いた。ここまでは聞こえてこないが、瞬間、世界が白く染まる。

 ぼんやりとした空気の中で、その場にいたものたちは、浮かび上がった幻を目にした。マユラが小さく呟く。

「これは……ライ君のお父さんですか?」

 目の前には小さな家の室内が広がっており、そこに金髪の男性が立っていた。二十代の後半あたりだろうか。がっちりとした体つきの彼は、白く輝く一本の角を持っている。

 彼は、正面に立つ女性へと声をかける。

『ベロニカ、ライを頼む』

 言われたのは、見覚えのある女性――ライの母親だ。

 彼女は首を振って、夫の腕に取りすがった。

『あなたも一緒に逃げましょう。でないと、私……』

『大丈夫だ。我々は共にいる。ずっと、ここにいる』

 彼女を優しく話すと、ライの父親は自分の胸に手をやり、それから部屋の奥を見据えた。そこにはリリィの屋敷にいた男性の姿があった。

『二人を守ってやってくれ』

 ライの父親の言葉に、彼は深く頭を下げる。

 彼とベロニカの二人の足音が遠ざかり、しばらくしてから、一つの足音が近づいてくる。落ち着いた足取りが、不気味さを孕んでいる。

 廊下から室内へきたのは、白衣の男性――ブライアン。

 悪魔の力を奥に見せた彼を見止め、ライの父親は小さく笑う。

『ライ、ベロニカ。お前たち二人を愛している。……幸せになってくれ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ